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地産地消はこの時代から。『ナチスのキッチン』藤原辰史


タイトルが上手い。でも、ちょっと偽りあり。
実際の内容は、ドイツのワイマール時代からナチス時代、そして戦後までのドイツのキッチンの変容やレシピの変化、主婦を取り巻く社会学的な考察。なので、正確にはタイトルと内容は結構違う。でも、おもしろかった。

キッチンの近代化、主婦の仕事の効率化、そして栄養を考えたレシピは節約運動も含めて政治や企業にからめとられていく……自分も主婦なので、このあたりはじっくりと再考してみたいところ。でもそれは、あくまで家政学と栄養学で科学化される。つまり、キッチンは合理的な場所として設定され、そこで働く主婦の労働も合理的なものが望ましいとされる。

キッチンだけじゃない。なるべく旬の物を食べ、肉よりは野菜や穀物を多くとる健康的な食事や地産地消を心がけ、食材に無駄が出ない工夫をし、それでも残飯が出れば豚の飼料として活用しよう、なんてことを政府がうのだ。母親が家族のために心がけるならいいけれど、政府が推奨するってちょっと違う気もする。ましてや、ナチス時代のドイツの食事が、食べることより栄養摂取に重点をおくとなると……

ところで、本書で一番ツボだったのは、ドイツ人がキッチンを清潔に保つことを料理よりも優先させる傾向があるという描写。じつはうちの母親が、これに近い。今までは、母を神経質で困ると思っていたけれど、「ドイツ的」だと思えば腹もたたないか。


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