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学ぶやる気の処方箋

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学習塾での実戦経験を踏まえつつ、学習心理などの理論に基づいて解説。ここから逆に仕事の方へのスピンオフも発生しました。
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記事一覧

01 「やる気」は実は気持ちではない?

「やる気」という言葉を私たちは、便利に使います。 「あいつは元気がなくて、まるでやる気が見られないからダメだ」 とか、 「休みも取らないで働いていて、やる気にあふれている」とか。  まあ。こういう例はよくありますよね。ただ、僕個人としては、こういう「やる気」を使った評価の仕方をする上司や教師がいたら、相当頭が悪いと思います。なぜそう思うのかというのは、後で明らかにしたいと思います。  この「やる気」というのは、勉強や学習に関しては、「学習意欲」という言葉の代わりによ

02 「正しい学習動機」は存在しない

●学習動機のモデル「やる気」の出し方をつきつめて考える前に、「学習する理由」つまり「学習動機」について、整理しておきましょう。 「学習動機」、これはもう、それだけで専門の研究がいくつもあり、大部な専門書が何冊も著されている分野なんですが、ここではなるべく簡単にまとめてしまいたいと思います。  今でもよく言われるんですが、大きく分けると、自ら進んで学ぼうとする「内発的動機」と、人からの強制が働くことで学ぼうとする「外発的動機」の二つがあるとする考え方があります。  かつては、

03 塾で成績は上がらない!

●一体何を評価するのか?「やる気」が、外からの刺激で活性化するものだと考えると、外発的動機が起こりやすく、内発的な動機が起こりにくいというのも分かりますよね。褒美や報酬という刺激は用意しやすいですからね。  じゃあ、他にはどんな「刺激」があるのか、ちょっと考えてみましょう。  まずは、子供たちが学習の目標をどう捉えているかということがあります。これは、言い換えれば、学習者が自分の学習について、どのような成果が期待されていると感じているか、ということです。  簡単に言ってし

04「できる?」「できた」「おもしろい」

 「やる気」を起動させる重要な「刺激」として、「学習する理由」つまり「学習動機」を紹介しましたが、実はもう一つ、重要な「刺激」があります。  それは「自己効力感」です。  「自己効力感」は、「有能感」という言葉とほぼ同義で使われることがあります。この「自己効力感」というのは、狭い意味では「具体的な、ある状況下において、適切な行動を成し遂げることができるだろうという、自分の能力や可能性についての予期や確信」と定義されます。つまり、「やればできるだろう」という自信ですね。

05 やる気と成績は関係するか?

●「ヤル気」が高ければ成績はいいか? 私たちはとかく「やる気」だとか「モチベーション」だとかということを口にします。今がまさにそうなのですが、それはなぜでしょうか。  それは「やる気」が高い方が成績はいいと信じているからです。  でも、なぜそう考えるのでしょうか?  例えば受験勉強においては、「やる気」が高い方が、積極的に臨むことで、質量共に高い学習が出来、その結果として、良い成績が取れるはず、そう考えるからですよね。それは、「やる気が努力を生む」という考えと、「努力は

06 2つの「学びのPDCA」

 01から05までの中で、「学習動機のコントロール」「自己効力感のコントロール」が大切で、そのためには、外からの「刺激」が必要だとお話しました。  ここからは、その具体的な方法をご紹介します。  簡潔に言うと、それは二つの「PDCAサイクル」です。  ところで、この「PDCA」ってご存知ですか? 仕事の進め方なんかで、よくいわれますよね。  Pはプラン(Plan)。計画を立てること。  Dはドゥ(Do)。計画した内容を実行すること。  Cはチェック(Check)。実行内容

07 PDCA-1-1 環境を整える

 まず、学習動機や学習に対する気持ちをコントロールする「技」から考えて行きたいと思います。  以下、いくつかご紹介しますが、順番には特に意味はありません。  一つ目は、「やる気の出る環境を作る」を取り上げたいと思います。  一般的に用いられているのは、目標ややる気がでそうな熱い言葉を目に付くところに貼っておく、という方法だと思います。  「絶対合格」とか「初志貫徹」とか。或いは公式一覧や歴史年表を貼るというのもありますね。これだと覚えるためと、学習の雰囲気作りという二つ

08 PDCA-1-2 「きっかけ」と「思い込み」

 俳優・女優の方々というのは、カチンコがなった瞬間、役に入り込むスイッチが入るそうです。長年の習慣でそういう条件付けが染み付いてしまったんですね。  学習で例えると、「学習するときはこのキッチンタイマーを使う」など、きっかけを決めておく。そしてずっとそれをやり続ける。すると、キッチンタイマーを見ると学習モードに気持ちが切り替わるようになるというわけです。  実は人間、そしてその脳は、習慣化しやすいという特性を持っています。ですから、人間続けていると何にでも慣れてしまうんです

09 PDCA-1-3 目標を具体的にする

 人間にとって一番辛いことは何か、考えたことがありますか?  これには色々な答えがあると思いますが、その内の一つは、意味の無いことをさせられることだと言われます。  かつて旧ソ連の強制収容所などで行なわれた拷問に、囚人たちに半日かけて地面に穴を掘らせ、半日かけてそれを埋め戻させるというものがあったそうです。これは非常に精神的な負担が大きかったと言われています。  それは全く意味が無い作業だからです。  でも、それを自ら望んでやった人がいたとしらどうでしょう。驚くのでは

10 PDCA-1-4 興味のあることと結びつける

 学習に気乗りしないというのは、面白いと思わないから、ですよね。「自己効力感」についてのところでもお話しましたが、できそうだと思えなければ面白くないですし、面白くないものはやる気になんかなりません。  ということは、皆さんご存知のように、興味あることだったら子ども達は誰に言われるまでもなく自分でどんどん調べて詳しくなっていきます。まあ、ゲームなんていうのはその最たるものですよね。  だったら、その興味関心を持っていることと、学習内容を結びつけることが出来たら、少しは気持ちが前

11 PDCA-1-5 運動する

 進学校というと、ひたすら勉強ばっかり、というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。  しかし、毎年東京大学に百名前後の合格者を出している灘高校は、柔道が必修科目になっていて非常に熱心です。  実は、灘高校は酒造メーカ三社が設立した学校で、その内の一社「白鶴」の創業家は嘉納という姓です。  どこかで聞いた苗字ですよね。  そう柔道の生みの親、講道館の嘉納治五郎と同じです。  実際に、治五郎の嘉納家と、「白鶴」の嘉納家は親戚で、治五郎が灘高校の初代顧問を務めています。校是

12 PDCA-2-1 「反復する」

 次に学習効率を上げる「技」を見て行きたいと思います。  まず学習の「技」として最も思い浮かびやすいのは、「くり返し」つまり「反復」だと思います。  私たちの脳は入出力の多い情報、つまりよく使われる情報を重要だとして記憶する性質があります。  その点で、「反復」は記憶・暗記においては、最も基本的なスキルと言うことができます。計算など、他の学習でも基本的なスキルであることは変わりませんね。ただ、計算練習などでは、手順になれる、という側面もありますね。スポーツの場合などは、む

13 PDCA-2-2 「整理」〜花緑師匠の台本〜

 「整理」は情報をまとめること。ノートにまとめるだけではなく、テキストへの書き込みなどもこれに当たる場合があります。  特に暗記・記憶においては内容をまとめるというのが基本になります。  ここでもまず、落語家さんの例を見てみましょう。人間国宝であった故・五代目柳家小さんの孫に当たる柳家花緑師匠は、ネタをノートに書き写して台本を作って覚えるそうです。  落語の稽古というのは、師匠からの口伝え、メモを取ってはいけないのがルールです。  しかも、一人で演じる芸で、基本的に座布団の

14 PDCA-2-3 「関係」〜合成と分解〜

 「動機をコントロールするPDCAサイクル」のところで、「興味のあることと結びつける」というお話をしましたが、あの時に学習効率の上げるためにも使える側面があるとご紹介しました。例としてオームの法則をシャッター速度と絞りの関係で考えるというをとりあげました。あれが、ここでいう「関係」です。  「関係」というのは、大雑把に言うと、勉強している内容と他の知識を結びつける、ということです。  私が中学生を対象に調査したところでは、この「関係」という「技」を使いこなせている生徒は多く