見出し画像

06 2つの「学びのPDCA」

 01から05までの中で、「学習動機のコントロール」「自己効力感のコントロール」が大切で、そのためには、外からの「刺激」が必要だとお話しました。

 ここからは、その具体的な方法をご紹介します。

 簡潔に言うと、それは二つの「PDCAサイクル」です。
 ところで、この「PDCA」ってご存知ですか? 仕事の進め方なんかで、よくいわれますよね。
 Pはプラン(Plan)。計画を立てること。
 Dはドゥ(Do)。計画した内容を実行すること。
 Cはチェック(Check)。実行内容を計画と照らし合わせて検証すること。
 Aはアクト(Act)。検証結果に基づいて、次の計画に改善を加えること。
 Cのチェックは、S(See)で表されることもあります。
 1950年代にウォルター・シューハートやエドワード・デミングらによって提唱されました。そのため、「シューハート・サイクル」または「デミング・ホイール」と呼ばれることもあります。また、最近は、「まず今行っていることの点検から始めなくてはいけない」という意見から、「CAPDサイクル」ということが言われています。
 しかし、ここでは一番耳慣れた「PDCAサイクル」で通しておこうと思います。

 一般的に学習の「PDCAサイクル」というと、いつ何を学習をするのかというスケジュールを思い浮かべがちです。確かにそれも「PDCAサイクル」には違いありません。でも、ここでいう「PDCAサイクル」はちょっと違います。
 何度も書いていますが、「やる気」に繋がる「刺激」には二つあります。その各々を「PDCAサイクル」で行なっていくのです。

 一つは、「学習動機」をコントロールするスキルの「PDCAサイクル」、もう一つは、「自己効力感」を高める、つまり学習成果を上げるための「PDCAサイクル」です。後者は簡単に言うと、学習の仕方の「PDCAサイクル」ということです。
 どんな目的を持って学習するのか。どのような「学習動機」のコントロール法や学習の工夫を使うか。その効果はどうだったのか。うまくいかなかったとしたら、その原因は何か。次にどうすればうかくいくのか。
 そういうことを考えていく、それがこれから扱う「PDCAサイクル」です。
 つまり、「刺激」が意図通りの効果をもたらしたのかどうかを検証しながら、最もよい「刺激」を探しながら学習を進めていくわけです。

●学習動機をコントロールする「PDCAサイクル」

 たとえば、「ご褒美」目当てで学習する動機、実際に「ご褒美」をもらえる可能性がなくても、この動機を持ち続けることができるでしょうか?
 無理ですよね。
 誰かに「ご褒美」をくれるように約束を取り付けるか、自分で用意するか、そうした準備をしなければ、学習という行為にはつながりません。つまり、「やる気」を高める「動機」を呼び起こすために、更に別の「刺激」を与える。これが動機をコントロールする方法です。
 「動機」をコントロールする「刺激」は、その多くが、先ほどの「約束を取り付ける」のように、具体的な行動です。気持ちと違って行動は操作しやすいからです。そんな些細な行動によって気持ちを動かし、今までできなかった学習という行為を可能にする。ここが最大のポイントです。
 状況に合わせて使いこなせるようにようになれば、次第に自分なりの「動機」のコントロールの仕方、「やる気」の出し方が固まってきます。

●学習効率を上げる「PDCAサイクル」

 「やる気」の高さに関わる「刺激」には、もう一つ重要なものがあります。
 それは、「できた」という実感と「できるだろう」という予測です。それがあって初めて、「おもしろい」からやろうという気持ちもなるんです。
 この「できた」「できるだろう」と感覚は、心理学では「有能感」とか「自己効力感」と呼ばれることは既にお話しました。
 この「自己効力感」を高めるには、結果を出すしかありません。
 ということは、結果が出るような学習の仕方をした方がいいですよね。成果の出ないことを続けていても、イヤになるだけです。
 学習の仕方ですから、これも「刺激」とはいえ、先ほどの「学習動機」のコントロールと同じく、具体的な行動です。
くりかえしや予習復習。省略や図式化などの情報整理。自分なりに分かりやすく言いかえたり、間違えた理由を考えたり、そういった行動です。

 こうしたスキルを使った結果として、状況がよくなった、見通しがつくようになった、ということによって、「やればできる」「できたからうれしい」というポジティブな感情が出てきます。そうした自分の可能に対する自信の高まりが、子どもたちをより内発的なやる気に導いていくのです。

 少なくとも、外発的な動機を低減させることは、私の調査でも明らかになりました。一方のグループには、学習の工夫を自分でメモを取りながら、その成果を確認して、どうしようか考えるということ、つまりここでいう「PDCAサイクル」を指導し、もう一方のグループにはそのような指導は行わないで授業をしてもらい、一ヵ月後に学習動機がどう変化したかを調べました。
 その結果、「PDCAサイクル」を指導したグループは、「外発的動機」「取り入れ動機」が下がりました。これは統計的に意味のある(有意な)変化です。
 つまり、何らかの評価を得てポジティブな感情が作り出される前に、既に「やらされているという感覚」は下がっているのです。指導ありの「内発的」と「同一化」も数ポイント減っていますが、統計的には意味のある差ではありませんので、ほぼ変化なしと言えます。


 これは、外発的な動機で学習を始めていたものの、学習の過程を自分自身で振り返ることで、学習活動そのものは、自分でしているのだという認識を強くしたためではないかと考えられます。

 こうした様々な工夫や仕掛けを使っていくと、子どもたちそれぞれにあったものが次第にはっきりしてきます。
 もちろん、個々の状況は刻一刻と変わっていきますから、永久に有効な「技」は無いでしょう。どのような技もいつかは破られ、また新しい技で挑まなければ勝てないというのは、格闘漫画なんかでよくあるはなしですが、ある面ではそれも真実を語っていると言えます。

 次からは、具体的に二つの「PDCAサイクル」で使える「技」を見ていくことにしましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?