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14 PDCA-2-3 「関係」〜合成と分解〜

 「動機をコントロールするPDCAサイクル」のところで、「興味のあることと結びつける」というお話をしましたが、あの時に学習効率の上げるためにも使える側面があるとご紹介しました。例としてオームの法則をシャッター速度と絞りの関係で考えるというをとりあげました。あれが、ここでいう「関係」です。
 「関係」というのは、大雑把に言うと、勉強している内容と他の知識を結びつける、ということです。

 私が中学生を対象に調査したところでは、この「関係」という「技」を使いこなせている生徒は多くはありませんでしたが、この使用頻度の差が、成績の差にかなりの程度反映されていることが明らかになりました。

 今までの二つに比べると、明らかに成績に対して大きな効果を持っています。

 具体的に「技」を見ていくと、何といっても典型的なのは、過去に習った内容と結びつけること。
 例えば、室町幕府について勉強するときに、鎌倉幕府と対比しながら覚えるという場合などがそうです。室町幕府は鎌倉幕府をモデルにしている、というか、室町幕府は自らを鎌倉幕府の後継政権と位置づけているので、その仕組みを踏襲しています。

 それから、抽象的なものと具体的なものごとと結びつけることも有効な方法です。たとえば、小学生が速さの問題で、人の歩く速度が時速60キロとかになってもおかしいと思わない、というのは、これが出来ていないことからおこっているミスだと言えます。現実世界での人間の歩く早さと、算数の問題の世界がリンクしていないんです。

 落葉樹は一般的に冬になる前に葉を落とします。一方の常緑樹は常に緑の葉があるわけですが、では常緑樹は落葉しないのかというとそんなことはありません。衰ええた葉は枯れて落ちます。しかし、子どもたちは、言葉の上から葉が落ちないように思い込んでしまいがちですし、教える方もあまりそこには触れません。しかし、日常生活の中では松の落ち葉などは見ているはずです。またある程度の学年ですと「代謝」ということも知っているでしょう。それらが結びつくと、落葉には光合成が影響している、という基本原則が導け、知識を強固にできます。

 同じ光合成を扱った問題に、「光合成に最も適した光は何色か?」というのがあります。過去に奈良県にある西大和学園中学校の入試問題に出たことがありますが、これは小学校では習いません。しかし、「物体の色」が「反射した光の色」であるという知識と、「光合成は光を使って栄養素を作る」という知識を結びつけることで、解くことができます(答えは赤です)。こうした、「関係」を解答のプロセスで要求する入試問題も増えています。

 暗記物の花形である「語呂合わせ」も、抽象と具体の結び付けです。年号などは具体的なある事件のあった年を表しているのですが、それ自体は単なる数字でしかありません。それに具体的な言葉を当てはめることで覚えやすくするわけです。よく知られた「1192年、源頼朝が鎌倉幕府を開く」というのを「イイクニ作ろう鎌倉幕府」と覚えるというのは、「幕府を開いた」ことと「国を作る」という部分で関連性を持たせている点でも、よくできた「語呂合わせ」です。

 また、たとえば「1・4・9・1・6・2・5・3・6・4・9・6・4・8・1・1・0・0・1・2・1・1・4・4」という数列を覚えるとしましょう。
 機械的に覚えようとすると、これはなかなか難しいですよね。でも、1×1=1、2×2=4、3×3=9、……と、二乗の数が順番に並んでいるという規則性に気づけば、覚えるのは途端に簡単になってしまいます。

 これらは、単純な対応関係ですが、もう少し高度なものになると、英単語の「translation」「transfer」「transaction」などを単純に一つずつ覚えるのではなく、接頭語「trans」に注目し、語源に関連付けて覚える手法があります。この方法は森鴎外も「ヰタ・セクスアリス」の中で、「人が術語が覚えにくくて困るというと、僕は可笑しくてたまらない。何故語原を調べずに、器械的に覚えようとするのだと云いたくなる。」と書いています。

 こうした「関連付け」は、実は脳科学的な裏づけがあるんです。それは、
  物事を互いに関連付けると覚えやすい。
  生活上の出来事と結びついたものの方が記憶に残る。
  感動(強い感情)を伴った記憶ほど強く残る。
という脳の特性を利用しているということなんです。

 ですから、授業でも、何事もなく平穏に終わったときは印象が薄くてあまり覚えていないのに、何か事件があったときのことはよく覚えているということがあるわけです。これは「エピソード記憶」などと言われます。
 これも体験談ですが、頭のいい子というのは、実際に授業の流れを覚えています。入試から帰ってきて、どういう風に考えてそんな風に問題を解いたのか、全部再現できる子どももいます。これは、先のポイントが無意識のうちに上手く生かされているんです。
 そういったことを考えると、「語呂合わせ」なんかも当たり障りのないものよりは、インパクトのあるものの方が覚えやすいということになります。

 感動やエピソードとも結びつけ、「関係」はこうまとめることができるでしょう。

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