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【向日葵は枯れていない!】22.ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー ~第22節 vs松本山雅FC ~

祇園太鼓の音が聴こえてくると本格的な夏が来たなと、小倉にいた頃は毎年感じていたものです。都合が許せば、今節はミクスタで生観戦という気持ちになっていましたが、繁忙期とも重なり残念ながら断念。楽しみは後に残しておきましょう、という気持ちです。

夏祭り的な雰囲気もあってか、ミクスタには5,488人の観客が集まりました。ゲームはスコアレスドローに終わりましたが、北九州も松本も勝利のために手を尽くしていたという印象は強く、勝てなかったことを残念に感じながらも、集まったサポーターに良い印象は与えられたゲームであったと思います。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

気温30℃を超えたコンディションを踏まえましても、J3の中では水準の高いゲームを披露した両チームでした。
北九州は4連勝とはなりませんでしたが、これで10戦無敗、順位は8位または9位(7/20時点)と中位をキープしています。
暫定でプレーオフ圏内とは勝点差なし、自動昇格圏内とも勝点差6に迫っています。

J3第22節 北九州-松本 メンバー

メンバーです。

北九州はCH(ボランチ)の一角に(14)井澤春輝を起用、前節CHで先発した(6)藤原健介をOMF(トップ下)に入れました。
起用の意図として想像できるのが、7月に入って無失点と守備が安定し始めた松本相手にチャンスが少なくなる試合展開を想定、(6)藤原を高い位置に置くことで、限られそうな決定機を確実に活かしたいという意図はあったのかもしれません。

そしてDF(23)坂本翔がメンバー外となりました。明確なことは不明ですが、前節交代時に負傷している様子があったとの現地サポさんからの情報もありました。RSBには(22)山脇樺織が先発で入ります。

FW(29)高昇辰は久々のベンチスタートとなりました。ベンチメンバーにも多少の変更がありましたが、この辺りについても選手を少しずつ入れ替えながら猛暑を乗り切ろうとする意図があるのかもしれません。

2.レビュー

今回は項目立てせずに時系列に追いながらポイントをレビューします。

お互いに最終ラインの背後を狙いながら、出方を探っている面白い立ち上がりであったと思います。
特に松本の最近の戦いは、シーズン序盤のビルドアップにこだわったサッカーから、シンプルに相手の背後を狙うロングボールも多用する形に変わりつつありました。

序盤のハイプレス、そして北九州に蹴らせてからの回収により、先にリズムを掴んだ松本は6分、CKの流れからのクロスをCF(11)浅川隼人が決めたように見えましたが、オフサイド判定でした。
前回の対戦同様、序盤で先手を取ると強い松本ですので、このノーゴール判定は北九州にとって大きかったと思います。

この後も松本が北九州陣内に押し込もうとするのですが、北九州前進のきっかけになったのが、8分28秒からのビルドアップでした。CH(14)井澤の働きが効果的でした。

J3第22節 北九州-松本 8分28秒~ 北九州のビルドアップ

北九州自陣の保持に対しては。松本は4-3-3の陣形のまま構えます。
北九州はGK(27)田中悠也がビルドアップに加わって、松本の前線3枚と3対3、中盤3枚の脇にスペースが出来ます。このスペースを使って(27)田中→CB(13)工藤孝汰→LSB(24)前田紘基と渡りますが、(24)前田から先に出せず、ボールは(13)工藤へと戻されました。

そこで(14)井澤が(11)浅川とLST(左セカンドトップ)(14)安藤翼の間にポジションを取り、ボールを受けます。ここを狙っていた松本は(11)浅川と(14)安藤で挟み込もうとしますが、(14)井澤がターンとドリブルで剥がし前進、そのままRSB(22)山脇へ展開、(22)山脇が(6)藤原のサポート受けながら攻め込みCKを獲得しました。

プレッシャーを受けても自分の技術であればロストしないという(14)井澤の自信が、積極的にボールを引き取る姿勢に繋がっていたと思います。
更に松本の2人を剥がした後、センターサークル付近に落ちていた(6)藤原が後方に戻すよう指示を出しているように見えますが、(14)井澤の選択はこれも積極的で、右サイドのスペースを一気に狙ったのです。

北九州にとっては攻め手を見出す非常に良いきっかけになったシーンでした。前半の右サイド(22)山脇と松本LSB(17)山本龍平のマッチアップは明らかに(22)山脇に分がありましたが、おそらくこのシーンで(22)山脇も手応えを掴んだのではないかと推察します。

前述しましたように北九州の自陣保持時に、松本が再奪還後の攻撃に備えて4-3-3を崩さないことから、北九州が自陣から敵陣サイドへ一気に攻めると中盤サイドにスペースが出来やすくなるという配置上の特徴を北九州は上手く突けていたと思います。

ちなみに、左サイドでもLSB(24)前田が松本陣内に攻め上がったシーンがいくつかありましたが、確実にキープしたい意識が強すぎるのか、ボックス手前で勝負する前に、サポートに入っているLSH(21)牛之濱拓に戻してしまう消極的なシーンが散見されました。戻したところを松本に奪われて、カウンターを受けそうになる場面もありました。この点は今後の(24)前田の課題になると思います。

10分の右CKからの流れで先制したかった北九州でしたが、完全に引いた時の松本のブロックは強固でなかなかフィニッシュに持ち込めません。
CH(34)高吉正真が積極的なミドルを放ちますが、惜しくも外れてしまいます。

前半25分過ぎまでは、松本自陣からの前進手段は前節FC大阪戦同様、GK(1)大内一生からの正確なゴールキックが中心となっていました。
このキックに関しては北九州も警戒していたようで、一発で(11)浅川らに裏を取られるようなことはなかったものの、空中戦そのものについては若干劣勢であったといえます。競り勝ってもコントロールして落とせないので、セカンドを良い形では拾えませんでした。

更に、北九州を苦しめたのは松本のロングスローです。このロングスローのクリアボールを松本に拾われ続け、北九州は続けざまに松本のクロスを受けることになります。この波状攻撃における空中戦でも、北九州は若干劣勢にみえましたが、しっかり競り合うことが出来ていた分、松本の自由なボールコントロールは許していなかったと思います。13分の(27)田中のビッグセーブも含めて、北九州は最後をやらさない守備は徹底できていました。

北九州はCF(10)永井へのロングフィードからのセカンド回収により陣地回復をねらいます。このセカンドを(14)井澤や(6)藤原が拾うと、キープ出来る分、北九州が時間をつくれていました。

猛暑の中、お互いにワンパターンの攻めを続けるには無理があり、松本も30分過ぎからは、自陣からのビルドアップにより前進を試みますが、やはりこれが上手くいきません。CH(32)米原秀壱が下りて受けますが、そこからの展開にあまりデザインされていない印象が残りました。

北九州、松本共に、敵陣内への進入を交互に繰り返すような形になり、共にセットプレーを獲得します。41分(22)山脇の猛然としたスピードによるカウンターから一気にCKを獲得したシーンは圧巻でした。また、松本も46分FKから(11)浅川が決定的なシュートを放ちますが、これも(27)田中が体に当てるスーパーセーブ、こぼれ球を(14)安藤がシュートしますがポストに嫌われます。

前半はいつしか、どちらが先にセットプレーを決め切るかという攻防へと変化していったのです。

後半開始から、松本は前半終了間際の競り合いで頭部を強打したLSB(17)山本龍平に代えて、DF(48)藤谷壮を投入、(48)藤谷をRSBに回しRSB(40)樋口大輝をLSBに回します。

松本としてはやむを得ない交代であったと思いますが、(40)樋口が回って以降は松本の左サイドは安定し、北九州は前半ほど右サイドで優勢に立てなくなってしまいました。結果的に試合展開に大きな影響を与えた交代であったと思います。

後半の松本の変化は具体的に2点あったように見えました。
ひとつは非保持時にST(セカンドトップ)のうち1人、主に(10)菊井悠介が一列下がり気味のポジションを取り、4-4-2のような守備ブロックをセットしていたことです。この修正により4-3-3の時に出来ていたサイドのスペースを埋めているようにみえました。
そして、もうひとつが北九州の最終ラインと第2列の間で、3トップがボールを受け始めたことです。これにより前半よりは、松本優勢へと形勢は変わっていきました。しかし、北九州も変わらずボックス内での守備は安定しており、簡単に失点するような気配はありませんでしたが、保持時の攻め手は前半と比べると無くなっていたといえます。

そこで北九州は、60分、この試合のとっておきのサブであった(29)高昇辰をCH(34)高吉に代えて投入します。(6)藤原がボランチに下がり、(17)岡野凛平がトップ下、RSHに(29)高昇辰が入る形です。

この交代により、北九州は前半と比べると翳っていた右サイドからの攻撃を再び活性化させ、徐々に北九州にもチャンスが巡ってきました。

更に北九州は73分、(17)岡野に代えてMF(20)矢田旭、(21)牛之濱に代えてMF(7)平原隆暉を投入、(20)矢田がトップ下、(7)平原がLSHに入りますが、この2人が松本の守備ブロックを効果的に攻略していました。

J3第22節 北九州-松本 74分40秒 北九州のボール運び

74分40秒のシーンですが、(20)矢田と(7)平原が入ったことで、北九州は松本の守備ブロックのライン間でボールを運べるようになりました。図のように松本のコンパクトなライン間でボールを受けた(20)矢田は松本ボックス脇で受けようとする(7)平原へパスを出します。
横幅を使ってパス交換することで、後方の選手の攻撃参加の時間もつくっているのです。このシーンでは最終的に後方から攻め上がった(6)藤原のシュートに繋げました。
(20)矢田と(7)平原2人に共通しているのは、スペースでボールを受けようとする点です。

北九州の攻撃はこれまで相手の裏ねらいを中心に縦指向が強いものであったといえます。しかし、この試合のように相手に堅い守備ブロックを敷かれた時に攻め手を失うという場面もありました。(20)矢田と(7)平原の同時起用という形は、北九州の攻撃に新たなオプションを与えたのではないでしょうか。最終盤に投入されたLSB(33)乾貴哉はこのライン間をしっかり意識しており、短時間ながら松本ライン間を狙った横パスを数本入れていました。コンディションの問題もありますが、もう少し早く投入できていればとの思いも残りました。

終盤、北九州が数多く放ったシュートに関しては、松本(1)大内の掌1枚分、厳しいコースを突けれていればというものでしたが、枠内にもシュートは撃てており、これは今後の試合でも繰り返していくしかないと思いました。

3.まとめ

以上、簡単ですが松本山雅戦を振り返りました。
勝ち切ることはできませんでしたが、筆者としては面白いスコアレスドローであったと思います。両チーム90分よく走りましたし、走れるようなサッカーをしていた点が素晴らしかったです。
当日中のJ3の試合はほぼチェックしましたが、リーグ内においては高い水準の試合であったと思います。
北九州としては最後をやらさない守備は不変ながら、ビルドアップや相手が引いた時の攻撃に進境がみられました。
選手は決してドローという結果に満足していないと思いますが、自信にしてよいドローであったこともまた事実です。
引き続き、上を見ながら戦っていきましょう。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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