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【向日葵は枯れていない!】18.ギラヴァンツ北九州マッチレビュー~第18節 vs ツエーゲン金沢 ~

戦前には試合展開、戦術的なポイントなどを色々と投稿しましたが、そんなことは全く関係なくなってしまうコンディションでのアウェイ金沢戦となりました。しかし、北九州も金沢もしっかり「サッカー」をやっていたと思いますし、何と言っても怪我人が出なくて良かったと思いました。

金沢戦無敗は継続です。早速、振り返ります。

1.試合結果&メンバー

北九州は再びの「連勝チャレンジ」に挑みましたが、残念ながら今回も達成出来ませんでした。チーム状態が良くても、相手関係もありますし、今節の悪天候のように外的要因に晒されるゲームもあります。
連勝するにはそうした要因を押し切る力も必要です。困難なピッチ状況でしたが、ドローに持ち込めた点からも今は連勝する力を身につけている過程と前向きに捉えています。順位は12位に上昇、リーグ戦6戦負けなしと着実に勝点を積んでいる間に降格圏とは勝点8差をつけました。
この差をしっかりキープしながら、上をみながらの戦いを続けてほしいです。

J3第18節 金沢-北九州 メンバー

続いてメンバーです。
北九州のスタメンはほぼ予想どおりでしたが、磐田から育成型期限付き移籍で加入したばかりのMF(6)藤原健介が早速メンバー入りしました。
最近の戦力の充実により、メンバー入りの競争も激しくなっている北九州ですから、このベンチ入りは実力を認められてのものと思います。
CFのサブには(9)平山駿と(18)渡邉颯太の2人が入りました。
ひょっとしたら、ピッチ状況の予想からロングボールを前に蹴る想定もあり、ターゲット役を増やしたのかもしれません。

金沢も概ね予想どおりのメンバーです。
保持時は3-4-3(3-4-2-1)ですが、非保持時には両WB、両STが一列下がる5-4-1になります。
開幕当初はRSBが1レーン内に入り、前線まで顔を出すような可変もやっていましたが、最近はシンプルな仕組みが定着しているように思います。

2.レビュー

(1)ホームの利

普段の金沢は前半ホーム側、後半アウェイ側に向かって攻めているのですが、この試合では逆になっていました。前半にホーム側に攻めるというのは珍しいと、最近の試合をチェックしながら感じていたのですが、知り合いの金沢サポさんによると、リーグ序盤の勝てない時期に逆にしたところ勝てたことから験担ぎ的な意味もあり、それを続けていたようです。
そういう意味ではこの試合では本来の攻撃方向に戻った訳ですが、どちらがどのような選択をしたのか映像では確認出来ず、明確なことは分かりません。いずれにしましても北九州は自陣ゴール前を中心とした広範囲にはっきりと水が浮くピッチで守ることになりました。

両チームとも予想どおり序盤からボールコントロールに苦しみますが、先にリズムを掴んだのは金沢でした。北九州の右サイド奥に出来た水溜まりにボールを送り、3トップを走らせ起点をつくっていたように見えます。

北九州RSB(22)山脇樺織やカバーに入ったCH(34)高吉正真らが対応しますが、水溜まりの影響でボールを上手くクリア出来ず、北九州は徐々に自陣に押し込まれます。もちろん攻撃する金沢にとってもボールコントロールは難しく、北九州陣内に押し込んでいるとはいえ、なかなか有効なチャンスはつくれていなかったのですが、一人だけ水を得た魚のようなプレーをしている選手がいました。RST(6)梶浦勇輝です。

金沢の先制シーンをみます。
中盤から明らかに右サイド奥の水溜まりを狙って浮き球を蹴られて、CF(77)マリソンが走り込みます。(22)山脇も対応しようとしましたが、相手が蹴るタイミングや間合いを掴めていなかったように見えました。(77)マリソンにボックス内へと蹴られてしまいます。
それでもこの場面で北九州の最終ラインはしっかり帰陣出来ていましたし、ボックス内の人数は足りていたのですが、敢えて水溜まりの中をドリブルする(6)梶浦を捕まえられませんでした。
北九州としては対応が難しかったと思います。水溜まりの影響で、(6)梶浦がドリブルしてもおそらく足元に吸い着くようにボールが収まっていたのだと思います。
こうなるとスライディングで獲りにいくと高い確率でPKを献上していたと思います。

それにしても前半の金沢は、露骨に北九州陣内の水溜まりを有効に使っていました。ホームの利があるといえばそれまでなのですが、おそらくここまでの雨中でのゲームはこれまで経験がなかったのではないかと推測します。
ピッチ状況を読んだ対応力の早さも金沢にはあったと考えます。

(6)梶浦は今シーズン6点目、5月度の月間ヤングプレーヤー賞を受賞しました。J2を戦っていた昨シーズンはボランチでもプレーしていたと記憶していますが、一列前で起用されたことで持ち前の攻撃力を如何なく発揮しています。

この水溜まりにボールが集中した点については、おそらく金沢が当初から予定していたボール運びと重なった面もあったと思います。

J3第18節 金沢-北九州 前半の金沢の全体的なねらい

失点シーンについては、北九州の守備陣形自体は整っていたのですが、おそらく天候に関係なく金沢が想定していたボール運びが、北九州2SBの裏を突くものであったのではないかと、これはこれまでの金沢の3トップの動かし方を見た上で推測します。
元々使う予定であった(22)山脇の裏のスペースに都合よく水溜まりが出来ていたので、ボール運びが(22)山脇の裏に集中したということであったのかもしれません。

今回もSPORTERIAさんよりデータをお借りしました。
こういう試合になりますとパス関連の図表自体が成立しなかったりしますが、上述しましたような金沢の傾向が現れていると思います。

(2)見事な修正力

一方、北九州の前半の攻撃も水が浮くピッチを踏まえたボール運びになっていたと思いますが、北九州側と比べると金沢側の水捌けはまだマシで、マシな分、各選手ピッチの傾向を掴みかねていたように見えました。
筆者は本当に単純で、後半になれば金沢のように水溜まりを利用して攻撃すれば良いぐらいに思っていたのですが、ちょうどこのハーフタイムのタイミングで雨が弱まり、排水作業が入りました。
正直なところ恨めしくも思ったのですが、運営側としては安全にゲームを行うための必要な作業であり、寧ろ感謝しなくてはいけないのですよね。
少々、反省したい点です。

さて、実際の増本監督の修正策は筆者の想像を超えたものでした。

J3第18節 金沢-北九州 北九州後半の修正とそのねらい

後半開始からLSH(21)牛之濱拓に代えて、(23)坂本翔を投入。
その(23)坂本を右センターバックに入れる3-4-1-2(5-3-2)のような形に変えたのです。

「こんな策があったのか」とこれはビックリしました。
ねらいは以下のような点にあったと思います。
① 金沢3トップに対してCBを3枚並べ数的同数で対応する
② 前半ボールを集められていたCB脇のスペースを埋めやすくする
③ (22)山脇を一列上げることで守備の負担から解放し、攻撃に関与させやすくする
④ 2トップにすることで(22)山脇からのクロスのターゲットを増やす

パスを繋ぎにくいピッチ状況を踏まえた攻撃策でしたが、前半精彩を欠いた(22)山脇を(23)坂本に代えるのではなく、ピッチに残して特性を引き出すやり方を選択したという点に増本監督の引き出しの豊富さを感じました。これは(22)山脇の成長や自信回復にも繋がる策であったと思います。

そしてこれは余談ですが、身体能力に長けたSBの選手をサイドのCBに起用し、攻撃時に最終ラインから押し上げるというやり方は、実は岡山が得意な形でもあり、個人的に馴染み深く好感を持っているのです。

修正の効果は早速出始めました。
49分右サイド奥でボールを持った(22)山脇がゴール前へ精度の高いクロスを送ります。これに2トップの(29)高昇辰と(10)永井龍が飛び込み、あわやゴールというシーンをつくりました。更にこのプレーで獲得したCKの流れから(22)山脇が再度クロスをゴール前に送ります。
北九州が押し込むきっかけとなった場面でした。

そして同点ゴールです。

金沢陣内でのスローインを繋いで(10)永井がキープし、(23)坂本にマイナスのパスを送るというシーンでしたが、まず(10)永井が(23)坂本に非常に強いパスを出しています。これはおそらく水が浮くピッチを計算に入れていたと思います。そして(23)坂本の雨をも切り裂く矢のようなシュートにまたまたビックリさせられました。

(22)山脇が蘇り、(23)坂本が決める。まさに交代策的中でした。

そしてこの場面、北九州の選手はGKを除いて全員金沢陣内に攻め込んでいました。おそらくこれもピッチ状況を踏まえての判断で、相手のカウンターも時間がかかると計算してのことであったと推測します。

そして72分、北九州は(14)井澤春輝に代えて(6)藤原健介を投入します。起用法が注目されましたが、やはりボランチの一角での起用となりました。想像以上に強さや激しさも持ち合わせている選手との印象が残りました。そしてこのピッチ状況ながら楔のパスも1本入れていたと思います。縦への意識の高さも感じました。

これは改めて通常のピッチでみたい選手です。

3.まとめ

以上、金沢戦を振り返りましたが、お互いにピッチコンディションを踏まえた工夫をプレーの随所に凝らしており、ちゃんとしたサッカーをやっていたという点から非常に好感を持てた試合でした。
北九州としては逆転までには至りませんでしたが、こうした天候で試合をしたというのは若い選手たちの経験になると思いますし、新たな形が見えた、新戦力への期待が膨らんだという点では収穫が多い一戦であったと思います。

リーグ前半戦最後のゲームはパスサッカーに冴えをみせる福島が相手ですが、北九州がどのように福島との違いをつくっていくのか、期待したいと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
岡山のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

北九州大学(現:北九州市立大学)法学部出身
北九州は第二の故郷ということもあり、今シーズンからギラヴァンツ北九州もミニレビュー作成という形で追いかける。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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