相談員のひと

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記事一覧

月記「しがらみ」

 しがらみを増して感じる月だった。蜘蛛の横糸が絡まったみたいにべたべたして、捕らわれた虫の気持ちを想像したりした。前々からの友人の誘いを断ることもあったし、仕事…

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2か月前
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月記「蔵の奥」

 先立った人の話をよく聞く月でした。たった少しの交流でも、深く印象に残る出会いというのは存外に多いのかもしれず、はなはだしくも物事の近さを感じる月であったと言え…

相談員のひと
4か月前

就活はなぜ気持ち悪いのか?

就活中の大学生がこんなことを言っていた。 「なぜか焦っているんです。でも何に焦っているのか自分でもわからない。無理に周りに合わせる必要もないって、頭ではわかって…

相談員のひと
5か月前
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黄金色の景色

 また金木犀の香り。景色はわたしの中で黄金色に染まります。今年は特に、大切な友人や知人たちから、結婚や子どもの成長の知らせがたくさんありました。届けられた喜ばし…

相談員のひと
8か月前

みそっかす

 疲れている。けれどいつもより上手にできた味噌汁はうれしい。遅い帰宅で布団に飛び込むつもりだった。それが野菜たっぷりの味噌汁を飲んでいる。というのも、ふわふわの…

相談員のひと
8か月前
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カンボジアの文化的自殺について

 カンボジアでの数々の体験は今も私の中でぐつぐつと沸騰しています。この熱っぽさの中で私が書きたいもの、私に書くことができるかもしれないものは一体なんなのか。悩み…

相談員のひと
10か月前

国際交流ファシリテーター活動で悩む人へ~ミーティングを見直してみる~

はじめに 国際交流ファシリテーターの活動をしていて、やりづらかったり、言い出すことができなかったりしていませんか。自分の気持ちが伝わらないもどかしさを抱えて、理…

辺境の社会人

 いい歳になってこんなことをいうのは情けないのだろうが、「社会人」という言葉を聞くたび、わたしはきまって遠回りしたい気分になる。  幸運にも大学を卒業し(高校は…

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『聴く力』茨木のり子

2023年3月25日メモ

「自己肯定感」の末路

『自己肯定感なんて言葉が無かったら、こんなに悩まなくていいのに』 以前、知人がこぼした台詞です。それが今も心に残っているのです。 深い苦しみがにじんでいました。…

同じ抱負

 心を配るということについて、たしかなことが言える人はどれほどいるでしょうか。  新年の抱負を聞かれると、わたしは毎年のように「失礼なことを言わない」と答えてい…

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情けない話

 時々、「社会に出たくない」と相談を受けることがある。最近もあった。相談というより「そういう気持ちを誰かと共有したくって……」といった感じかもしれない。なにかし…

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”検査結果”

 ごろごろと雷が鳴って、今にも大雨が降り出しそうな夜のことだった。 「おまえ、“検査結果”が飛び抜けてるんだって。どうりでだな」  小学校の担任に呼び出された母が…

裏方という仕事

 子ども食堂もやっているNPO法人の場所をお借りして、主催イベントをやってきた。イベント中も子どもたちが出入りしていたのだが、見知らぬ大人たちが集まっているこの状…

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知らない話の相談にのる話

家族との仲が悪く、学校でも理解しようとしてくれる人がいない。「自分はどこにも居場所がない」。街には同じ想いを抱えた人がたくさんいました。私や友人は居場所をなくし…

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月記「しがらみ」

 しがらみを増して感じる月だった。蜘蛛の横糸が絡まったみたいにべたべたして、捕らわれた虫の気持ちを想像したりした。前々からの友人の誘いを断ることもあったし、仕事も休んだし、青空を仰いだ記憶もない。空はいつも暮れていた。そんなふうにしがらみを見た。

 水流をせき止めるため、川の中に杭を打ち並べ、それに木の枝や竹を結び付けたものを柵(しがらみ)という。ともすれば水の側に立ちたくなる不思議があり、気ま

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月記「蔵の奥」

 先立った人の話をよく聞く月でした。たった少しの交流でも、深く印象に残る出会いというのは存外に多いのかもしれず、はなはだしくも物事の近さを感じる月であったと言えます。会ったことも無い人の話を聞くこともあり、袖振り合うこともどこかであったでしょうと、そんなふうに答えながら、年々、ただの思い上がりであるようにも感じます。

 昨日、年の瀬に知己をなくした人とお会いしました。「忘れてしまっていいんです。

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就活はなぜ気持ち悪いのか?

就活中の大学生がこんなことを言っていた。

「なぜか焦っているんです。でも何に焦っているのか自分でもわからない。無理に周りに合わせる必要もないって、頭ではわかっているんですけど」

思えば、言わないだけでそんな人は意外と多かった気がする。振り返ってみたい。

 ︎︎ ︎︎ ︎︎×   ×   ×

 大学3年生の夏くらいになると、“それ”はいつの間にか近くにきていた。別な言い方もできる。私たちは、

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黄金色の景色

 また金木犀の香り。景色はわたしの中で黄金色に染まります。今年は特に、大切な友人や知人たちから、結婚や子どもの成長の知らせがたくさんありました。届けられた喜ばしさもまた、この黄金色の景色にむすびついて形を作っています。
 最近ひとりの人が逝きました。わたしは息がしたくなって、代わりに書く日々でした。書くことは「これをしている間だけはちゃんとしていられる」と思えるもののひとつです。誰しも自分なりの仕

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みそっかす

 疲れている。けれどいつもより上手にできた味噌汁はうれしい。遅い帰宅で布団に飛び込むつもりだった。それが野菜たっぷりの味噌汁を飲んでいる。というのも、ふわふわのパーカーに着替えてファスナーを首元まで上げた時、気付いてしまったからだ。指先が冷えきっていることに。
 ぎこちない身体を台所へもっていき冷蔵庫をあさった。大根やら人参やら、野菜のはしくれやらを切って小鍋へ放り込んだ。そして煮えるのを待ちなが

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カンボジアの文化的自殺について

 カンボジアでの数々の体験は今も私の中でぐつぐつと沸騰しています。この熱っぽさの中で私が書きたいもの、私に書くことができるかもしれないものは一体なんなのか。悩みながらではありますが、集合的記憶と文化についての所感を書きたいと思います。

 キリングフィールドは記憶の保持と再生を目論むひとつの社会的な装置です。特筆すべきはその射程で、自国民にとどまらず、人類を対象にしていることは大変に意義のあること

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国際交流ファシリテーター活動で悩む人へ~ミーティングを見直してみる~

はじめに 国際交流ファシリテーターの活動をしていて、やりづらかったり、言い出すことができなかったりしていませんか。自分の気持ちが伝わらないもどかしさを抱えて、理解してくれる人もいないというのは、とても孤独です。もし思い当たるなら、ちょっと長いですが、少しだけ時間を割いて続きを読んでみてください。なにか突破口になったらいいなと思います。

ミーティングという鏡 ワークショップはミーティングという場で

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辺境の社会人

 いい歳になってこんなことをいうのは情けないのだろうが、「社会人」という言葉を聞くたび、わたしはきまって遠回りしたい気分になる。

 幸運にも大学を卒業し(高校は出れなかった)、偶然にも就職し、しがなくも人並みには本当の意味で仕事ができるようになりたいと努めて六年が経つ。結果はどうあれ、人によっては自分の幸運と偶然あとは多少の努力とを、「そろそろ誇ってみても良いのではないか」と思い始めてもおかしく

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「自己肯定感」の末路

『自己肯定感なんて言葉が無かったら、こんなに悩まなくていいのに』

以前、知人がこぼした台詞です。それが今も心に残っているのです。

深い苦しみがにじんでいました。私は軽々しく「わかるよ」と口にできません。「気のせいだ」とも言えません。苦しみは深ければ深いほど、あいだに沈黙を生みます。どうしてと言われても、それはそういうものだから、としか今は説明のしようがありません。
近くて遠い場所があります。そ

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同じ抱負

 心を配るということについて、たしかなことが言える人はどれほどいるでしょうか。

 新年の抱負を聞かれると、わたしは毎年のように「失礼なことを言わない」と答えています。いや、正直に言って、毎年同じことを口にしています。それだから、無理だとか、あきらめろとか、ウソは良くないとか、散々に言われて笑われます。とはいえ、長らく心にかけているけれど、なかなか身に付いてはくれないことのひとつやふたつ、誰でもお

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情けない話

 時々、「社会に出たくない」と相談を受けることがある。最近もあった。相談というより「そういう気持ちを誰かと共有したくって……」といった感じかもしれない。なにかしらの不満や不安みたいなものがその人の中にあるけれど、うまく人と共有できなかったり、共有させてもらえなかったりといった環境にいるのかもしれない。なんにせよ、すごく正直な人だな、と思う。正直ならそれでいいんじゃないかな、きっと大丈夫だよ、とも思

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”検査結果”

 ごろごろと雷が鳴って、今にも大雨が降り出しそうな夜のことだった。
「おまえ、“検査結果”が飛び抜けてるんだって。どうりでだな」
 小学校の担任に呼び出された母が帰ってきて、彼に言った。
「おれ、どうしたの」
「ほかの学校がいいか」
「わからない」
「だよな」
「なにがどうりでなの」
「気にすんな」
 母は彼を抱きしめた。
「なにも変わらないよ」

 地元の中学校へ行った。彼は思わぬかたちで、人が

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裏方という仕事

 子ども食堂もやっているNPO法人の場所をお借りして、主催イベントをやってきた。イベント中も子どもたちが出入りしていたのだが、見知らぬ大人たちが集まっているこの状況は、子どもたちから見たらいったいどう見えるのだろう。と思った。

 ランドセルを担いでいないところを見ると、いったん家に帰ってから来たのかもしれない。外には自転車が置いてあった。それは人数より少ないから歩いて来た子もいる。任天堂swit

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知らない話の相談にのる話

家族との仲が悪く、学校でも理解しようとしてくれる人がいない。「自分はどこにも居場所がない」。街には同じ想いを抱えた人がたくさんいました。私や友人は居場所をなくした“難民”だったのです。

少女は大人になり、必要なのは特別な支援ではなく「当たり前の日常」だと思うようになりました。それはつまり、向き合うことと信じることです。伴走者として共に考え、泣き、笑い、怒り、すべての少女が「衣食住」と「関係性」を

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