『聴く力』茨木のり子

『聴く力』

ひとのこころの湖水
その深浅に
立ちどまり耳澄ます
ということがない
 
風の音に驚いたり
鳥の声に惚(ほう)けたり
ひとり耳そばだてる
そんなしぐさからも遠ざかるばかり
 
小鳥の会話がわかったせいで
古い樹木の難儀を救い
きれいな娘の病気まで直した民話
「聴耳頭巾」をもっていた うからやから
 
その末裔(すえ)は我がことのみに無我夢中
舌ばかりほの赤くくるくると空転し
どう言いくるめようか
どう圧倒してやろうか
 
だが
どうして言葉たり得よう
他のものを じっと
受け止める力がなければ

『谷川俊太郎選 茨木のり子詩集』

2023年3月25日メモ

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