月記「蔵の奥」

 先立った人の話をよく聞く月でした。たった少しの交流でも、深く印象に残る出会いというのは存外に多いのかもしれず、はなはだしくも物事の近さを感じる月であったと言えます。会ったことも無い人の話を聞くこともあり、袖振り合うこともどこかであったでしょうと、そんなふうに答えながら、年々、ただの思い上がりであるようにも感じます。

 昨日、年の瀬に知己をなくした人とお会いしました。「忘れてしまっていいんです。お盆などで年に数回は必ず、思い出すのだから」と言っていました。悲しいの一言にもそんな表現の仕方があります。知己の方が病床で描き上げたという絵本を、わたしは二冊購入していました。そこに姿を見つけるばかりでしたが、随筆もあると聞いて、今月はそれを探して読む月にもなりました。どんな気持ちになるかわからず、手に入れてから数日置いてしまった話をその人は優しく聞きとめてくれて、わたしはうれしく思い、静かにくぼんでいく夜もまた良かったですと伝え、そしてお別れしました。

 その帰りに、昔好きだった本屋のことをふと思い出して、また行きたいと考えました。どんどん押しやられ、名前も変わってしまいましたが、始まりの場所で続いています。以前訪れた時、店は奥の方で古い蔵につながっていて、重い扉に閉ざされていました。いつ開くかも決まっていない様子でしたが、あの中はこれからのことだと店長は言い、楽しみにしていて欲しいと話してくれました。楽しみに待っています。


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