国際交流ファシリテーター活動で悩む人へ~ミーティングを見直してみる~



はじめに

 国際交流ファシリテーターの活動をしていて、やりづらかったり、言い出すことができなかったりしていませんか。自分の気持ちが伝わらないもどかしさを抱えて、理解してくれる人もいないというのは、とても孤独です。もし思い当たるなら、ちょっと長いですが、少しだけ時間を割いて続きを読んでみてください。なにか突破口になったらいいなと思います。

ミーティングという鏡

 ワークショップはミーティングという場で作られます。「どんなワークをしよう……」「あの人は何を思ってその意見を言うんだろう……」と悩む人も多いのではないでしょうか。人によって頭の回転も知識量も違いますし、ある意見に対して理解する速度も異なります。人間ですからその日の気分というのもあるでしょう。「性格が合わないのかな……」なんて感じることもあるかもしれません。
 実に多くのことがミーティングを通じて明らかになり、一人ひとりに迫ってくることでしょう。渦巻く悩みはミーティングを巡って生まれています。でも気に病みすぎることはありません。わたしたちが直面する出来事のほとんどは、ミーティングがちょうど鏡のようになって映し出している今のわたしたちの姿なのです。どうでしょう、あなたは、わたしたちの様々な部分を明らかにしてくれるミーティングを離れてはいませんか。わたしたち自身がもつ様々な部分のせいにして、「あの人はダメだ」とか言ってしまったりはしていませんか。
 今から伝えたいことは、ミーティングを見つめ直していくことが、一人ひとりを見つめ直すことに繋がり、ワークショップを生み出す基礎になっていくのだということです。たぶんどれも当たり前のことのように聞こえるだろうと思います。ですが、その当たり前のことがどのようにミーティングを左右しているのかについて、整理してくれた人はわたしの知る限り誰もいません。だから、ここに整理しています。違うと思ったなら違うと思って構いません。今活動しているのはあなたで、きっとあなたの方が今のことをよく知っています。どうしたらいいのかもあなたの方がよく分かっているはずです。ずっと悩んできたあなたならきっと、これを一意見だと理解しながら読んでくれるでしょう。

ミーティングは何で成り立っているか

 ミーティングには何が必要になると思いますか。これが無いとミーティングにならない、というものです。わたしが思うところでは四つあります。
『人』
『時間』
『場所』
『内容』
 です。これらをどれだけ揃えられるか、そして整えられるかということがミーティングの質を左右するように思います。では順番に説明してみます。

『人』--「自分が知らない相手」を大切にする

 『人』は、ミーティングに参加する人のことです。誰も集まらないのではミーティングになりません。ここでは、チームメンバーに限らず、他チームの人や推進員、先生なども含みます。これからおこなおうとしているミーティングには誰がいると良いのか、と考えてみてください。せっかく集まったのに、その人がいないと始まらない、進まないといったミーティングは、ミーティングとして成り立ちません。
 意識したいのは、どのような予定の合わせ方をするとみんなが来やすいのか、ということです。例えば、突然明日ミーティングをすると言っても、他の予定があって来れない人がいるかもしれませんし、テスト前は勉強に時間を割きたい人がいるかもしれません。ミーティングの進み具合や時期に応じて、早めに予定を確認しあうと良いでしょう。
 とはいえ、直前になって来れないという連絡が相次ぐ時もあります。理由は様々なので仕方ありません。仕切り直しです。もし、それが続いたり、そもそも予定を合わせてくれないという人がいたりする場合は、恐らく別な理由があります。思うに、モチベーションの低下や、参加意欲の低下といったところでしょう。そのへんの対応については後ほど話します。
 さて、忘れてはいけない一番大切なことは、相手にとって居場所は国際交流ファシリテーターだけではない、ということだと思います。自分自身を振り返ってみてください。活動の外側に、やりがいを感じるものや楽しいもの、人間関係があったりはしませんか。そのへんのことを含めて、わたしたちは「国際交流ファシリテーター」をしているのです。
 ミーティングへの参加は必要不可欠ですが、”正論”を言う前に、自分の知らない相手がいることに思いを馳せ、認めてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

『時間』――感覚の違いに気付くことから

 『時間』は、ミーティングにどれくらいの時間をかけるか、ということです。極端な話ですが、0 秒というのはありえません。これからおこなおうとするミーティングでは、どれくらいの時間が必要になりそうでしょうか。
 難しいかもしれませんが、この想定をおろそかにしすぎると、「いつ終わるんだろう……」「何も進まない無駄な時間だな……」などの思いが生まれ、モチベーションや参加意欲の低下に繋がります。さっき『人』の話でしたように、国際交流ファシリテーター活動の外側には、それぞれ大切にしたい時間があるものです。どれくらいの時間をかけてミーティングをする必要があるか、みんなで話し合ってみましょう。
 でも、だいたいでいいです。はっきりさせなくても、案外感覚が違うんだな、という気付きが大事で、「そろそろ決めようよ」と言いやすい空気になったり、うまくいけばタイムキープしてくれる人が現れたりすることもあります。
 また、みんなが来やすい時間を設定することも大事です。電車の時刻やバイトなどの理由から、ミーティングをおこないづらい時はありませんか。無理強いはもちろん良くないですが、何より時間を気にしながらミーティングに参加するのは、思う以上に集中力が削がれます。これもなかなか難しいですが、モチベーションや参加意欲に関わるので、時間を心配しないでいい開始と終了を設定するように心掛けると良いでしょう。
 とはいえ、時間は最初から限定されている……という時が多いのではないでしょうか。
 これについては、後ほど『内容』の部分で話しますが、話し合う中身を選ぶことがポイントになってきます。限られた時間内で何を決められそうか、何を共有できそうかなど、あてをつけることが大事です。
 正直、『時間』についてはうまくできたことは多くありません。なのでわたしは、きっちり終わらせることを目指すより、「何ができて、何ができなかったかに注意しよう」という気持ちでミーティングに臨むことにしていました。予定通りに行かなくても、次にしっかり繋げられる状態を準備するのです。決めることはできなかったけれど、それを共有することができた。だから良かった。焦らないでいこう。といった感じです。内心焦るかもしれませんが、上級生ほど嘘でも前向きに明るくすることが大事です。思い通りにならないことはよくあるので受け止めてください。

『場所』――『時間』と共に「参加しやすい機会を自分から作る」良い話題

 『場所』は、どこでミーティングを行うかということです。場所が決まらないとミーティングを始められません。パソコンや印刷機、ホワイトボードなど道具がある方がやりやすいとか、ミーティングに参加する人が来やすいとか、そういった場所を選ぶことが重要です。この想定が甘いと、最悪の場合ミーティングをおこなえません。
 また、参加する人に無理強いをしてしまうことになってしまい、意欲が下がります。意外と見落としてしまいがちですが、先ほどの『時間』と合わせて話し合う必要があるところです。ミーティングに参加しやすい雰囲気を作るために欠かせません。『場所』と『時間』は、初めてファシリテーター活動をする人でも比較的発言しやすい話題です。たしかに、誰かがぱっと決める方が簡単だし早いでしょう。しかしそれは、深いところで「自分が参加しやすい機会を自分で作る」ことを奪います。少し極端に聞こえるかもしれません。ですが、こういったことにこそ敏感になるべきだと、あえてお伝えします。
 例え話として少し横に逸れますが、わたしは派遣に行く時、自分が児童・生徒たちにペンや紙を配るのではなく、「誰か配ってくれませんか」と伝えてお任せします。ちょっとした参加への誘いが、参加型の場を作っていくと思っているからです。
 派遣だけでなく、ミーティングでもこういった心がけが重要になるのではないでしょうか。大したことのない、普通に見えることほど見直してみると結構面白い発見があるものです。『場所』と『時間』をみんなで決めるという当たり前のことが、チームの居心地の良さに繋がるとわたしは思っています。あなたはどう思いますか。

『内容』――自分たちの議題を立て続ける

 『内容』は、話し合う議題のことです。普段のミーティングを思い出してみてください。これから何を話し合うかについて、はっきりしているでしょうか。これが無いものは、なんとなく集まっただけの集団です。集まってから「今日は何を決める?」と始まってはいませんか。
 わたしの感じるところでは、そもそも議題が無かったり、議題があっても不適切だったりすることがほとんどです。つまり、自分たちの議題を立てられていないまま話し合っているのです。「なんでこれを今話し合うんだろう」とか「これを話し合ってどうなるんだろう」といった思いを抱えながらミーティングが続く、というのがまさにそれです。その後は迷路に迷い込み、混乱が増していきます。
 先ほど『時間』の話をした時に、限定された時間内でミーティングをする際は、話し合う中身を選ぶことがポイントだと言いました。ですが、この話し合う中身が成り立っていないと選ぶことすらできないでしょう。
 たしかに議題を立てるというのは、論理的に考える訓練がある程度必要になります。ではどうしたらいいのかという話になると、情けなくも、わたし自身はっきりと答えられる気がしません……。
 というのも、自分たちの議題を立てるというのは、論理的思考力によるものだけでなく、日々ミーティングを積み重ねる中で、お互いの関係が離れたり近付いたりしながら、次第に輪郭が浮かび上がってくる時間のかかるプロセスそのものだからです。
 深刻な感じがしてきたでしょうか。「結局何も解決しないじゃないか」とあなたは怒るかもしれません。どうか焦らないでください。わたしが伝えたいのは「議題の立て方」ではありません。「自分たちの議題を立てる」とはどういうことかについてなのです。他人事な議題を立ててしまうと、どこか身の入らないミーティングになりもろもろの意欲が少なくなります。それはたぶんあなたならわかると思います。手法のようなすぐに役立つものは、すぐに役立たなくなります。簡単にうまくいくような万能薬があるならとっくに解決している問題なので、何度でも、へこたれず、「自分たちの議題」を立て続けようとしてください。

さいごに

 今、あなたのチームのミーティングはどんなふうになっているでしょうか。わたしは、ワークショップを生み出すミーティングという場にひどく悩み続けてきました。繰り返しになりますが、わたしが気付いた大きなことの一つは、ミーティングは自分たちの姿を映し出す鏡であるということなのです。
 あなたは、そしてあなたの周りにいる人は、どんなふうな姿でミーティングに臨んでいるでしょうか。ミーティングを見つめ直してみてください。そこにはあなたたちの今の姿が映っているはずです。そこから生まれてくるワークショップは、どんなものになるでしょうか。想像してみてください。気付きは身近なところにひょっこりあるものです。
 四年間、ときに無意味とさえ思えるミーティングそして活動の中でも、意味を見出そうとあがき続けてきました。今になって言えるのは、「ミーティングはそれが始まる前にすでに終わっている」ということです。できているようで全然できていない、それだけたくさんの当たり前に、誰よりも早くから気を配ることが大切です。もしかするとあなたの努力は誰にも気づいてもらえないかもしれません。うまくいくほどなにも問題なく進むからです。問題が起きれば目に見えて皆気付きますが、「問題なく進む」ということは、問題が起きていないからこそ目に見えず、誰も気に留めません。評価されづらい部分ではありますが、そういう賞賛されない陰のヒーローであるあなたの功績は、わかるひとにはきっとわかります。無力を感じたとしても諦めずに積み重ねてみてください。悩んだ時間と激しい葛藤は決して無駄にはなりません。長々としたこの文章を読んでくれた今のあなたにこそ、この言葉の意味が届くことを願っています。

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