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ブランドの転換点。「統一感のなさ」から「伝わる発信」への3年間の旅

コミュニケーションって、「発信して(伝えて)」から「受信する(伝わる)」までして初めて、成立しますよね。

相互伝達なので当たり前のことなのですが、企業は「どう発信するか」への注力はあっても、「どう伝わるか」を考えることを忘れがち。「伝わるまで、発信側がしっかり届ける」ことの重要性を、ここ数年実感しています。

というのは、コロナが始まったあと、2020年夏ごろから3年ほどかけて、社内のメンバーやデザイナー、そしてコンサルタントも含めて、WithGreenのコンセプトやデザインを見直していきました。創業して5年間ずっと、私たちのやりたいことが伝わっていなくて、悔しい想いがあったんです。

半年から1年で、パーパス(WithGreenの存在意義)、ミッション(社運を賭けた大きな目標)、コンセプト(WithGreenが基本とする考え方/ WithGreenの価値観)ーーつまり自分たちの本質について徹底的に議論し、同時並行で、ロゴや自社サイト、商品、店舗デザインに反映し、形にしていきました。いまも、WithGreenのスタイルを考え続け、アウトプットしている途上です。

今日は、事業においてパーパスやコンセプトをつくることの重要性について実感したことを書いてみます。

『WithGreen  / 緑と生きる』 都市に緑を。日常に緑を。

デザイナーに言われた「統一感がなくバラバラ」

パーパスやミッション、コンセプト、デザインを見直そうとしたきっかけは、コロナ到来です。世の中がステイホームのなか、進みたくても飲食店は攻めようがない。

「じゃあ、どうしよう?」「いま何ができるだろう?」。副社長である弟と話をし、自分たちの根本を見直すことにしました。前に行けないなら、自分たちの内へ、内へですね。

創業した2016年からコロナまでは、私と弟で経営から商品開発、店舗運営、人事、経理……とやることに終わりはなく、人も時間も足りない。資金だってギリギリでしたから、自分たち自身に投資する余力もなかったんです。

いざ、見直そうとしたとき、それまでのWithGreenのロゴや店舗等を見たデザイナーに言われたのは、「統一感がない」「バラバラですね」でした。

創業以来ずっと抱えていた違和感を、爽快なほどズバッと言葉にされました。外から見てきちんと指摘してもらえて、ありがたくもありました。

自分たちについて伝えるためには、統一したデザインが必要なのだと気づかされました。

コンセプトやデザインが統一されていない時の店舗(2017) / Before

「創業時から変わらない想い」の解像度を上げる

議論を経て、まず、2021年にアップデートしたパーパスは、「サラダボウルで、持続可能な未来をつくる」です。

もともとWithGreenは、兄弟で創業した2016年から、ブレない理念や想いがはっきりしていました。サラダボウルが流行っているから、儲かりそうだからといった理由は頭になくて、「日本人の健康にとって、すごく意味がある」「生産者と消費者をつなげる存在になりたい」と、私は考えていました。

日本で1,000円前後でランチをするとき。メニューは、ラーメン、丼、カレーと糖質や脂質が定番です。おいしいのですが、ここに健康的な食事の選択肢を増やしたい。手軽に食事を済ませる人も少なくないなら、せめて1週間に数回は野菜中心で、体も喜ぶ食事を楽しんでほしい。そんな想いが、まずありました。

2つめは、サラダ専門店といってもアメリカをそのまま真似するのではなく、野菜はもちろん、トッピングする肉や玄米もすべて国産にこだわり、日本の農家さんと日本の四季に根ざしたものを提供していきたい。サラダボウルを通じて、私たちが農場とお客さんをつなぐ存在になれれば、という想いがありました。

この2つは事業を始めるときから、私の中にあったものです。事業を拡大していくなかで、より広い視野で、「食」だけではなく、「農業」や「環境」を見つめるようにもなりました。

食糧危機は世界中で起きており、特に主な先進国と比べて食料自給率が低い日本は、待ったなしに取り組むべき社会課題です。同時に、海外からの輸入が多い日本にはフード・マイレージ(食料の輸送距離)の問題もある。

食の置かれた状況も鑑みていくなかで、自分たちがサービスを通じて目指すのは、「長く続いていく未来」だと気がつきました。

これらのことから、WithGreenの価値は、「持続可能」や「(健康をつくるといった)永続的なことに寄与する」こと。

「サラダボウルで、持続可能な未来をつくる」が、ずっと変わらない私たちの存在意義となりました。

WithGreenの農業体験を通して、生産者のことを学ぶ

WithGreenという名前にすべて集約されていた

そして、私たちの価値観といえるコンセプトは、「緑と生きる」です。

突き詰めていくと、自分たちの想いはもうずっと最初から、「WithGreen」という名前に集約されていると、改めて気づかされました。

WithGreenには、「サラダと一緒に」との意味にも、「緑と生きる」「自然とともに」といった意味にも捉えられます。直感的にイメージが伝わる心地よさ、複数の解釈ができる広がりもあると、自負しています。

デザイナーがミーティング中に繰り返していたのは、「WithGreen(ウィズグリーン)という名前が、ほんとうに素晴らしい。この名前には驚くほどの可能性と、親しみやすさが含まれている」ということでした。

確かに、WithGreenというブランド名は、周囲からもいい名前だと褒めてもらえるんですよね。

世界観のコアは事業を始めるときにある

以前、編集者の佐渡島庸平さんと対談した際、「『宇宙兄弟』の世界観はすべて、1巻1話に詰まっていた。1話の時点では作家である小山宙哉さんの解像度がまだ低く、表現もこなれていなかった。けれど、だんだんと、多くの人に世界観が伝わる表現へと洗練されていった」という話がありました。

WithGreenもまさにその通りで、世界観のコアとなるものは、事業を始めたとき、神楽坂の1店舗目からすでにあった。その本質を、削り出していくような作業でした。

言葉が決まったら、実行フェーズです。コンセプトを表現したロゴをつくり、そのエッセンスをほかのクリエイティブにも、新店舗の設計やデザインにも落としていくことを、コロナ下以降、3年やり続けました。

店内に置いてある絵は、『WithGreen - 緑と生きる』から想起して、日常生活に緑を入れていくものを飾っています。

『WithGreen  / 緑と生きる』
コンセプトが固まったあとのWithGreen店舗(2023)/ After
『WithGreen / 緑と生きる』をテーマにしたクリエイティブを配置

創業者の頭にあることは常に伝わらない

3年かかってやっと、じわじわ、じわじわとお客さんに、「WitnGreenとはこういう者です」と伝わってきた手応えも感じているところです。

一般の方のSNS発信のハッシュタグに、#国産野菜 の文字を見つけると嬉しくなります。多くの人に、「伝わって届く」までには、数年単位、もしかすると数十年単位の時間がかかるものなのでしょうね。

コンセプトが重要、とはビジネスの場でよく言われますし、近年の企業経営においてパーパスが注目されています。その必要性とは、創業者・経営者の頭にあることは常に、「伝わらないから」だと思います。

サービスについて一番考えているのは、創業者です。

だから、当たり前なほど何度も伝えているつもりになるのだけれど、たとえばWithGreenの場合、「野菜は国産100%である」ことすら、お客さんたちにはまだまだ伝わっていないと指摘されます。

どういう順番で、どういう言葉を使って伝えれば、できるだけズレないまま伝えることができるのか。何度も何度も、伝え方を工夫しながら繰り返し、発信していくしかありません。それが、私の役割だと思っています。

創業者としてWithGreenの理念やコンセプトを伝えていく

パーパスやコンセプトがあればチームのスピードが格段に上がる

パーパスやコンセプトとは、チームで同じ方向に向かうための本質の共有でもありますよね。

社内でしっかり認識共有されていれば、たとえばいま副社長が担っている商品開発の担当者が変わっても、「アボカドを使った新メニュー」が提案されることは起こらないでしょう。アボカドは、気候的に日本での生産ができないですから。

あるいは、社内でよく上がる声に「農業体験をしたい」がありますが、これは、生産者とお客さんをつなげるWithGreenの価値観が浸透しているからです。

今後はデジタル戦略にも取り組んでいくなかでも、このような根本思想があれば、デジタルを駆使したサービスの何が必要か、取捨選択も容易になります。

実際、「サラダボウルで持続可能な未来をつくる」「緑と生きる」の共通言語があることで、新規出店の際の店舗デザインや配置なども、現場が迷わないようにもなりました。

やっと、WithGreenのスタイルで機能し始めています。

とはいえまだまだ私たちは、途上です。

多くのお客様、消費者に“ほんとうに伝わる”までには、5-10年単位の時間がかかると思います。ぜひ、コロナの期間を通してアップデートされた店舗を見に、サラダボウルを味わいに、来てみてください。


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編集協力/コルクラボギルド
(文・平山ゆりの、編集・頼母木俊輔)


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