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世界観をつくるのは「こだわりの積み重ね」 サラダ兄弟 × コルク佐渡島庸平 【後編】

WithGreenは、創業5年になる2021年に「ブランドとしての根」が固まりました。「サラダボウル × サステナブル」「緑と生きる」というコンセプトが明確になって初めて、デザインを意識できるようにもなりました。作家とともに作品の世界観をつくってきた編集者の佐渡島さんは、「作家や企業の世界観は、最初からすでにある」と言います。企業にとっての世界観は、どのようにつくられていくのか。兄弟経営について考えた前編に続き、一緒に考えてみました。

◆『宇宙兄弟』作者のズレのない世界観

佐渡島庸平(以下、佐渡島):
最近、「世界観」ってどうやってつくるんだろうと考えています。気になり始めたきっかけの一つに、事業家の自宅にお邪魔したとき、「自宅の世界観」と「事業の世界観」がリンクしない違和感を抱いたことです。

そこで思い出したのが、『宇宙兄弟』作者の小山宙哉さん。小山さんは、アシスタントや編集者との接し方も、作業部屋も、自宅も、服装も、持ち物も全部『宇宙兄弟』からずれていません。何をやっても『宇宙兄弟』を描いている小山宙哉だなと、毎回思わされるんです。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者。コルク代表。2002年に講談社に入社。『モーニング』編集部にて『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などを担当する。2012年に退社し、ネット時代に合わせた作家・作品・読者の新しいカタチをつくるべくクリエイターのエージェント会社・コルク創業。作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。

佐渡島:
反対に、ある作家が都内の一等地に不動産投資をしていて、ポルシェに乗っていると知りました。悪いことではまったくないのですが、その作家の作品や世界観とかけ離れていることにショックを受けたことがあります(笑)。

武文智洋(以下、サラダ兄):
「世界観」とは言い換えると、何です?

佐渡島:
コンテンツや広告などにおける、トンマナですね。コンセプトや雰囲気に一貫性があることを「世界観がある」と言ってますね。

サラダ兄:
一貫性、統一感、ですよね。私たちもそれが定まらないことが、創業から5年の課題でした。競合他社と比較しても、味は全然負けていない。でも、WithGreenは、店舗ごとにデザインにばらつきがあったり、Webやポスターなどの作りも統一できていませんでした。2021年にやっと、世界観というか「WithGreenらしさ」を極めていくことに注力し始めました。

佐渡島:
ぼくは、WithGreenで飲み物を頼んだことがないんですよ。「WithGreen的な飲み物ってなんだろう?」と考えると、ぱっと浮かばなくて。だけど、「サラダと合わせたい飲み物」が用意されていたらすごく楽しいから、そこまでこだわってくれたらうれしい。

サラダ兄:
「サラダと合わせた飲み物」は、きっとあるはずだけど、私たちはまだその解を持っていません。WithGreenだからこそ提案できる、サラダと飲み物のペアリングを広めていけたらいいですね。

武文謙太(以下、サラダ弟):
和紅茶を集めて提供したい。一方で、コーヒーが好きなお客さんのほうが多いのでは……という、ぼくたちの提案したいものとお客さんの要望の間で葛藤があって、アイデアを進められずにいました。でも、いまのWithGreenの規模だからこそ、こだわっていくべきですよね。お客さんが絶対セットで頼んでしまう和紅茶を、日本の生産者さんと考えて試してみたいな。

佐渡島:
ぼくはサラダを食べるときは、フォークで野菜をザクザクさす感触も楽しみたいんです。いまWithGreenがテイクアウトで提供されているフォークは、エコの観点からバイオマスプラスチックを使っているから、柔らかくてしなる。食べながら、もっと手の気持ちよさがほしくなりました。

モーニング編集部に入って、編集長に言われたのが、「マンガをつくるときは、目が気持ちいいのか、手が気持ちいいのか、脳が気持ちいいのかを考えろ」でした。マンガを開いた瞬間に、目が気持ちいいと次をめくりたくなる。コマ割りのテンポがいいとページをめくる手が気持ちいい。情報と感情が両方入ってくると、心と脳が気持ちいい。そんなふうに、マンガを楽しむ要素はいくつもあります。食事も、「舌」だけで楽しむものではないですよね。

サラダ弟:
フォークでガバッと野菜をさす気持ちよさは、もっと出したいと考えています。石油資源とCO2排出削減の観点から、ライスレンジというプラスチックを選んでいますが、サステナブルでありながら、食べる楽しみを損なわない、WithGreenならではのフォークを追及してみたい。WithGreenの世界観として大事にすべきこだわりを、改めて考えてみようと思います。

◆企業のニッチなこだわりこそ、世界観を表している

サラダ兄:
いま、WithGreenのこだわりとして紹介出来るのは、野菜の切り方や食感です。たとえば、WithGreenのサラダにはパンが一切れつきます。それは、日本には一汁三菜の文化があって、途中でちょっと違うものをつまみたくなったり、ちょっと食感を変えたくなる習性があるから。

実際に、「パンがあるから食感を変えられる」と喜んでくださるお客様もたくさんいました。不要な人もいるので、選べるようにしています。

佐渡島:
「食感を変えるためにパンを食べる」と意識している人は、少ないんじゃないかな。そういったこだわりを、ぜひこのnoteで発信していってほしい。

WithGreenのサラダには砂肝を使っているけど、「サラダに砂肝」はちょっと違和感がある人も多いはず。砂肝の温度や食感へのこだわりや、キュウリがなぜ10mmの大きさにこだわっているのか、といったことが、WithGreenの世界観に通じているのではないですかね。

佐渡島:
だから、究極、「このドレッシングの時の飲み物はこれ!」というくらいのこだわりをつくっていくことこそが、いまの時代に発信する価値がある。どんどん突き抜けていったほうがいい。

サラダ兄:
野菜もお肉も一つずつ、切り方や大きさを大事にしています。トマトの食感の残し方もこだわっている。

佐渡島:
トマトの食感の残し方?

サラダ兄:
トマト単体のおいしさを追求すると、中の実や種が熟しているほうがいい。ただそうすると、切ったときにトマトの形が潰れて、見た目の気持ちよさや美しさが削がれます。あえて固めのトマトを、私たちは提供しているんです。そんな自分たちの世界観、「WithGreenらしさ」を言葉にするには、そうしたこだわりを表現していくのが合っているのかもしれないですね。

佐渡島:
そういうような話をマニアックに発信してけば、食べる人のおいしさにつながります。おいしさにつながっていれば、世間とつながって、メジャーになりきるのではないでしょうか。

たとえば、ファミレスチェーン「サイゼリヤ」で、一番力を入れている品種改良は「米」なんですよ。「イタリアンといえばパスタだよね」というイメージに縛られず、白米にとことんこだわった結果、サイゼリヤで最も注文される代表的メニューは『ミラノ風ドリア』になったんですよね。

サラダ兄:
ニッチな部分で輝けば、世の中で輝くことにつながるのは間違いないですね。

◆1話目、1歩目に世界観は詰まっている

佐渡島:
世界観は、起業を考えたとき、事業を始めたときからちゃんとあって、だんだん解像度が高くなっていくものです。小さなこだわりの積み上げが、解像度を高くしていく。『宇宙兄弟』の世界観も、すべて1話目に詰まっていました。まだ解像度が低く、表現もこなれていなかったけど、だんだん小山さんの解像度が高くなり、多くの人に世界観が伝わる表現へと洗練されていきました。いま、1話を読み返してみても「やっぱりここに詰まっている」と感じます。

佐渡島:
WithGreenも、兄弟で初めて起業の話をしたときの議事録や1店舗に、世界観のコアとなるものがあるのではないでしょうか。たとえば、創業当時はやっていたけどなくしてしまったお客様へのサービスとか、ありません?

サラダ弟:
あぁ。1店舗目の神楽坂店では、「ファストフードの価格帯で、野菜をつくり育てる人と食べる人を結びつけること」をやりたかったんです。それで、神楽坂店のバックヤードで、お客さまにも見えるように野菜を育てていました。それが建物の設備の関係で、撤去してしまいました。

サラダ弟:
店で野菜を育てていたときは、お客さまからもよく声をかけていただいていたし、目指すものを示せているという手応えがありました。現在のぼくたちが「ファストフードの価格帯で、野菜をつくり育てる人と食べる人を結びつけること」を、どのように体現できるのか。考えてみる価値は大いにありますね。

サラダ兄:
店舗だけでは、届けられる人は限られてしまう。ウェブでも店舗と変わらない世界観を見せられたら、届けられる人は各段に広がります。発信していく理由は、そこにも見つけられるのかもしれないなぁ。

佐渡島:
自分の言葉でどんどん発信していくと、解像度も上がります。アウトプットしたものは、ほとんどの場合勘違いして受け取られます。その反応を受けて、言葉を変えて再度発信していく。その繰り返しです。

サラダ兄:
私たちは、サラダの可能性を広げたい。サラダって、すごく面白いんですよ。いままでは、その大きな部分をいきなり伝えようとしていたのかもしれません。WithGreenのニッチなこだわりを一つずつ掘り下げながら発信して、自分たちの世界観を共有していきたいですね。

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WithGreenのサラダボウルで、日本のおいしさを

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写真/小田原リエ、編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・平山ゆりの)

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