「とりあえず10年一緒に」が通じるのは兄弟だから サラダ兄弟 × コルク佐渡島庸平 【前編】
創業当時マンガ『宇宙兄弟』のセリフに支えられた、サラダ兄弟こと、武文智洋さんと武文謙太さん。『宇宙兄弟』の初代編集者で経営者仲間でもある佐渡島庸平さんを迎えて、兄弟で事業をすることについて掘り下げました。
兄弟起業は、二兎を追わなくていい
佐渡島庸平(以下、佐渡島):
兄弟で起業する強みは、お互いの才能を信じているんじゃなくて、もっと根本を信じているところではないでしょうか。
たとえば、ふたりは「兄は資金関係が得意」「弟はメニュー開発が得意」と役割分担しているけど、会社のフェーズが変わると「50店舗以上のファイナンスはできない」とか「50店舗に対応するメニューなんて無理」となるかもしれない。だけど、お互いに「何とかしてくるだろう」と、根本を信じているのが兄弟経営の強さなんじゃないかな。
武文智洋(以下、サラダ兄):
言われてみると、信じられる度合いが、他の人よりも深いかもしれないですね。
佐渡島:
他人であるゆえに、恋人が出来ても「もっとベストな人がいるんじゃないか」という問いが常に立ってしまう。そうすると二兎を追うというか、「恋人との関係をベストにする行為」と、「ほかのベストの人を探す行為」を同時にやりがちですよね。
これが会社の場合になると、実力がしっくりこない相手に、「しっくりくるように自分も変わり、相手も変わるようにうながして努力し合っていく行為」と、「別の人を探す行為」を同時にやってしまう。どちらかに決めきって、動くことができない。
兄弟で起業すると、その二兎を追う行為が起きにくく、余計なことを考えずに注力できるのではないでしょうか。骨肉の争いも、夫婦や他人同士で起業した場合よりは、起きづらい気がするんですよね。
サラダ兄:
私たちはまだ成功していないから、そういう争いも起きていないだけかもしれないけど(笑)。
佐渡島:
新しく組織をつくり出すときはすごく不安定だから、成功するまでの過程で別れることも多い。不安定ななかで、理念とか抽象的なことを決めていくと、ズレが生じる。そのズレを上手く話し合えなくて、「やりたいことが違ったんだな」という別れ方になってしまうんですよね。
あと、兄弟って別れづらいですよね。兄弟でケンカしても、実家に帰って顔を合わせるなど仲直りのきっかけが多いからかもしれない。
兄弟にある「勝手に乗り越えるだろう」という信頼
武文謙太(以下、サラダ弟):
ぼくたちは、一緒に起業を決めたときから「別れる可能性」についてもずっと話をしているんです。それはケンカ別れのような最悪を想定してるというよりも、40歳を節目に考えると決めて、創業しました。
サラダ兄:
私は、期限を決めないとグズグズしちゃうんですよ。なので「創業して10年」と、1つ決めていると、とりあえずその10年間を一緒にやろうとスタートできる。結果的に20年一緒にやるかもしれないけど、それは10年後に改めて考えようって決めました。
それに、初めから「30年一緒にやろう!」はちょっと想像できなくて。10年だったら、なんとなく一緒にできそうな気がしたんですよね。
佐渡島:
夫婦の場合は、「とりあえず10年一緒にやろう」と結婚生活を始めるのは難しいですよね。「10年後、考えてることが変わりそうだから、とりあえず10年一緒に」ということでしょう? ものすごく言いにくい(笑)。
サラダ弟:
だいたいの場合、賛同してもらえないでしょうね(笑)。
佐渡島:
「まずは10年やろう」とは、兄弟だから言えることだなぁ。兄弟って、無理に仲良くならなくていい良さもありますよね。取材だと「どれぐらい仲がいいんですか?」と聞かれるから、仲の良い話をすることも多いでしょうけれど、実際の関係は、ほかの人から見た仲の良さとは違うと思うんです。
「信用」じゃなくて「信頼」してる距離感な気がしていて。確認や報告の必要がない信頼というか。
サラダ兄:
どのくらい信頼しているのかを確認したことは、一度もないですね。
佐渡島:
それも、兄弟起業の強さな気がします。ぼくには、弟と妹がいるけど、ほとんど連絡を取らないんです。親族が集まるときも、それぞれ家族の予定があって合わないことも多い。長く会っていなくても、どうせみんな勝手に上手く暮らしているだろうし、何か悪いことがあっても勝手に立ち上がるんだろうなって。そもそものところを信頼しているからなんですよね。
サラダ弟:
「勝手に」がつくのが、兄弟ならではですね。
佐渡島:
そう。友だちにしばらく会っていないと「連絡したほうがいいかな」とか「一緒の時間を過ごしたほうがいいかな」と考えがちですけどね。
『宇宙兄弟』の六太と日々人の関係も、やっぱり「兄弟」なんですよ。日々人がパニック障害だと知ったとき、六太は気にはかけつつも、日々人から声をかけられるまで何もしなかった。NASAから姿を消して、ロシアに居るとわかったときも、日々人がどうしているのか調べたりもしなかった。「あいつはまた勝手に月を目指す」と、信頼しているんだなぁと感じました。
サラダ兄:
六太と日々人の関係って、まさに「兄弟」ですよね。ぼくも弟が壁にぶつかっているようなことがあっても、「乗り越えていくんだろうな」と見ています。相談があれば話し合うけど、自分から手を差し伸べることはしていないですね。
兄弟の成功ではなく、WithGreenの成功のために
佐渡島:
ふたりはふだん、どのくらい会ったり、話したりしているんですか?
サラダ兄:
定期的にご飯を食べたり、ゴルフに行ったりしています。
佐渡島:
それは、一般的な兄弟より仲がいいね。
サラダ兄:
たしかに仲はいいけど、兄弟で創業する前は、時々連絡を取るくらいだったんですよね。
サラダ弟:
ぼくの思春期は、兄と離れたくて仕方なかったし(笑)。
サラダ兄:
いまは「会社」のあれこれを常に話し合うことが多くて、会社を一緒にやっているという「すること」を通して仲良くなったという気もするね。
佐渡島:
メンテナンスされている兄弟なんですね。会社の役員同士の関係は、メンテナンスしないとコミュニケーション不全になるから、そうした時間が必要になる。ゴルフは「役員同士の関係」として行ってる感覚ですか?
サラダ兄:
仕事中心のコミュニケーションが多いので、プライベートなことを話すために行っている部分と半々ですね。
佐渡島:
「役員同士」で、プライベートを共有しておくのは重要です。兄弟という関係だけだと、定期的にプライベートの話をする機会なんてつくらない。「役員同士でプライベートな話をする場」という設計があるから、ふたりも個人的な話もできるのかなと思います。
佐渡島:
それだけ強い兄弟の関係性ができていると、ほかの人が「ふたりの間には入れない」と壁を感じてしまうこともありそうですね。
サラダ弟:
いまは役員がぼくたちふたりなので、ほかの誰かに言われたことはないですが、もしも3人目の役員が入ったとしても、兄はものすごくフラットに対応すると思っています。
ぼくは創業当時、副社長という立場でした。半年後には兄から「副社長を降りて」と言われました。副社長兼ストアマネージャーとして任された1店舗の神楽坂店で、役割をちゃんと果たせていなかったんです。お客さまは増えていたけど、スタッフの育成や管理、チーム内でのコミュニケーションが全然できていなくて……。
それで副社長を降りました。だからって、兄をドライなやつだとは思いませんでした。すごく悔しかったから、副社長として何をすべきだったのか、考える機会になりましたね。
いつかは戻るつもりで努力していましたが、ある日「名刺に副社長って入れておかなくいいの?」と言われて(笑)。あ、戻っていいんだと知り、副社長に復帰しました。
サラダ兄:
WithGreenが成功するために、必要なことを考えているだけなんですよ。弟の能力が副社長として必要であれば、そのポジションにいてもらう。別の役割があれば、そこをお願いする。私や謙太の成長や成功ではなく、WithGreenが成長することが一番重要な基準なんです。
サラダ弟:
ぼくが副社長を降りていたことは、スタッフに話すようにしています。社長はこんな風に、血縁も関係なくフラットに見ていることや、兄弟で始めた会社だけど、ふたりがすべての意思決定するわけではないことを知ってほしい。「兄弟の間には入れない」という状態にならないように、ぼくたち兄弟の考えをもっと伝えていこうと改めて思いました。
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写真/小田原リエ、編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・平山ゆりの)
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