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「どっちが楽しいかで決めなさい」 兄弟起業支える『宇宙兄弟』のセリフ

「頭で考えなきゃいいのよ。あなたのことならあなたの胸が知っているもんよ。『どっちが楽しいか』で決めなさい

『宇宙兄弟』での、主人公の第2の母・シャロンのセリフです。思い悩む少年時代の六太に、自分の心に従いなさい。シャロンは、そう前向きなアドバイスをしました。

©︎小山宙哉/講談社

『宇宙兄弟』の中で、私がもっとも好きなセリフです。私たち兄弟も、選択に迷ったときは、ワクワクするほうにいくと決めています。

WithGreenの共同創業者である弟は、4歳下で謙太といいます。2人で一緒に2016年に、サラダボウル専門店を起業しました。

価値観とビジョンを共有することの大切さ

毎日が目まぐるしかった創業期でも、2人の意見が大幅にズレることはありませんでした。それは、価値観とビジョンがそろっているから

同じ父親と母親のもと、岡山の田舎で育ちました。同じ本やスポーツが好きだったり、好きな人や苦手な人が似ていたりと、共通していることが結構あります。あまりたくさん言葉を交わさなくても、考えていることや目指しているものがわかったりするんですね。

2人が好きなマンガに、『宇宙兄弟』があります。このマンガは、創業するずっと前に弟がすすめてくれて、そこからファンになりました。

主人公の兄・六太と弟・日々人の、つかず離れずのほどよい距離感。同じことをしていなくても、同じ場所にいなくても、お互いのことを見ていて想い合っている。何かあったときは、どちらかが支える。彼らのようなあうんの呼吸が、私たちの間にもある気がします。

おもしろいことに最近は、兄弟でサラダ店を創業した私たちのことを「サラダ兄弟」と呼ぶ人も出てきているんです(!)。ならば自分たちのほうから名乗っちゃおうかと、「サラダ兄弟です」「サラダ兄です」なんて、自己紹介するようにもなっています。

サラダ兄が、私。向かって右の細身で背が高いほう、武文智洋(たけふみ・ともひろ)です。WithGreenの代表として、経営分野を担当しています。

サラダ弟こと武文謙太(たけふみ・けんた)は、WithGreenのナンバー2として現場のトップです。『宇宙兄弟』の2人と同じく、血もつながっています。そんな兄弟が、「日本を代表するサラダ専門店」を目指しているというわけです。

弟に嫌われていることもわからないほど、離れていた

ただ、『宇宙兄弟』の六太と日々人は、「2人で宇宙にいく」夢へ子ども時代に出会っていますよね。私と謙太の夢と人生が重なるのは、ずっと先でした。サラダで一緒に起業するなんて、金融業界を30歳で卒業した時点では想像もしていませんでした。

小学生までは、仲のいい兄弟だったんです。サッカーを一緒にしたり、習いごとも同じ。謙太は、「おにいちゃん、おにいちゃん」と私についてきていました。

それが思春期になると、お互いの心は離れます。離れるどころか、中学生のときの弟は私をめちゃくちゃ嫌っていたそうです。

弟と私は、同じ中高一貫校に通っていました。謙太が中学1年のとき、私は高校2年でした。私は学生の時、みんなの前でプレゼンしたり、ピアノを弾いたり、文化祭で歌うなど人前に立つことが多くありました。それが弟にとっては、目障りだったらしい。「オマエの兄貴、イキがってるぜ……」などと、クラスメイトになじられる要因になっていたそうです。

私は高校卒業と同時に岡山の実家を出るので、謙太が中2のころには、離れて生活するようになります。口を聞くのは、実家に帰省したときぐらい。5年〜6年ぐらいはそんな関係で、私が弟から嫌われていた事実を知ったのも、社会人になってからでした(苦笑)。

弟の就活で、兄の出番がやってきた!

距離が近づいたのは、謙太が就職活動をし始めてからです。就活をする大学生の弟と、一浪して大学院まで進み就職した私とは、社会人になるタイミングは1年の差になっていました。謙太のほうから、就活の相談をしてきたんです。

私は、投資銀行のインターンからリーマンブラザーズに内定するまで、半年以上も就職活動していました。加えて、内定後は次の年代の就活支援などもしていたので、伝えられることは伝えました。

喜ばしいことに、弟は希望した食品メーカーに内定します。入社後の配属先は関東エリアで、東京に暮らしていた私と住まいも近づきました。大勢で一緒にバーベキューやゴルフをするようになったり、面白いマンガをすすめ合うようになります。
 
「将来、何か兄貴と一緒にできるといいな」。私が30歳で退職し、起業の準備を始めたとき、弟から言ってくれました。

1人の社会人としてその仕事ぶりに一目置いた

事業パートナーとしても、いい関係になれるだろう。

そんなふうに共同起業まで現実的に考えるようになったのは、大人になった弟と同じ時間を過ごす中でです。共通の友人たちと遊んでいるとき、営業をしていた弟の取引先とのやりとりなど、仕事ぶりを垣間見る機会は何度もありました。

謙太は取引先から電話がかかってきたとき、いつも感じよく対応していました。内容の一部始終も、聞くともなく耳に入ってきます。

営業先との会話から、働くことへの真摯さや熱心さが伝わってきました。相手との関係や信頼の築き方など、社会人としての彼を、いいなと思いました。

一方で、弟が一緒にやりたいと思ってくれていても、事業次第では弟の強みや能力が生かせない。そうなった場合、組織としても伸びないし、謙太の人生にもよくない。

どんな事業に、自分と弟の人生を賭けようか。

私が「食」の事業をしようというアイディアに至ったとき、世の中に役立って、私のエネルギーを注げて、弟の経歴や強みが活かせて……バラバラだったパズルのピースが集まって、1つにハマったようでした。そこまでの自分の人生を振り返って、兄弟創業が必然だったとすら思えました。

本格的に弟を誘ったとき、「兄貴と一緒にやりたい!」。二つ返事で応えてくれたのは、素直にうれしかった。2014年7月。弟と一緒に食の事業をすると決めた日のことは、鮮明に憶えています。

兄弟ともに、それまでは大企業に勤めていました。安定や収入は一旦脇に置き、「どっちが楽しいか」。それが起業を決めたときの軸でした。

弟にとっての「兄嫌い」は、いつ雪解けしたのか。照れくささもありいまさら聞きませんが、リーマンブラザーズの内定を決める、ニューヨーク勤務を決める、本当に30歳で退職して起業をするなど口にしたことを実行したり、結果を出すところは見ていてくれたのかな。そう勝手に、納得しています。

雑談の中で初めて聞けることがある

共同創業から5年、心も意見も離れることなく、ここまでやってきました。それは、冒頭に書いたように価値観が近く、目指す方向が同じだからは大きい。

2人の役割を、はっきりと分けてもいます。出店場所やファイナンスなど経営分野に関しては私が、すべてのメニューの商品開発は謙太が、決めます。

加えて弟といえ他人ですから、大事なことはとにかく話します。「僕はこう思うけど、謙太はどう考える?」などと、チューニングするようにこまめに会話をします。気になることがあれば、お互い深夜でも電話し合っています。

最低月1回は食事やスポーツを一緒にし、プライベートを共にすることも意識しています。いくら私がディスカッションを求めても、どうしても組織での立場の違いから、言いにくさは起こってしまう。何気ない雑談の中だからこそ、意外な話が聞けます。

弱みはあるまま、強みの上に強みを築く

お互いの「強み」を認識し合い、強みにフォーカスして、強みの上にエネルギーを集中させる。これも2人でやっていくなかで、とても大事にしています。ピーター・ドラッカーも「強みの上に築け」と説いているように、弱みは無視するぐらいでいい

そうしないと、組織として結果を出すのは難しいからです。試行錯誤しながら創業から5年やってみて、実感しました。

私の強みは、夢やビジョンを語ること(創業者なのでここはがんばります。笑)。理系で金融出身なのでファイナンスや数値に強いこと。弱みは、細やかな心配りや臨機応変な対応力。現場で働いている社員やアルバイトには、私よりも細やかで、高いレベルの接客をしてくれるパートナーがたくさんいます。

一方の謙太の強みは、お客さまへの対応。彼が現場に出て接客しているときはよく、SNSでもお客さまから褒められていました。また、食べることも食べてもらうことも、とにかく大好き。研ぎ澄まされた味覚を武器に、「おいしい味を作れる」という強みがあります。しかしながら、人材採用や育成の仕組みを作ったりと、体系化して物事を考えることは苦手で、人がなかなか育たない、仕組み化できないという課題がありました。

強みへのフォーカスを、創業から5年続けてきました。ふり返っていま思うのは、私と弟の個人的な強みが、そのままWithGreenとしての強みになっていること。

コロナ禍の苦しさでも持ちこたえ、逆に店舗数を2倍にできた資金調達、お客さまがリピートしてくれるメニューのおいしさ。創業者2人の資質が、企業の強みとしてそのまま反映されています。

価値観が近いことは、大切です。同時に、強みに違いがあるのは素晴らしい。それがWithGreenが進んでいくための、原動力になっています。

そういえば、謙太と私が『宇宙兄弟』で好きなセリフをもう1つ思い出しました。創業から、たくさんの失敗をしてきました。寝る間を惜しんで、考え抜いて話し抜いて、万全の準備をしても、結果は失敗することは多々あります。でも。

「本気の失敗には価値がある」

©︎小山宙哉/講談社

これも、私たちサラダ兄弟の合言葉となっています。

次回は、サラダ弟こと、謙太の視点でWithGreenを語ります。

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▶︎第1話はこちら

▶︎連載一覧はこちら

WithGreenのサラダボウルで、日本のおいしさを

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サラダボウル専門店 WithGreen/ウィズグリーン
編集協力/コルクラボギルド(文・平山ゆりの、編集・頼母木俊輔)

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