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おすすめ短編集

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#オリジナル作品

【短編】プロポーズの後で

【短編】プロポーズの後で

私の夫は頑固で割烹着が似合う男だ。もう結婚して二十年になる。三ヶ月後に二十一年目を迎えるという時に、その一報が入った。息子が結婚する。

かねてよりお付き合いしていた人のことは私たち夫婦も知っていた。
「俺らも、歳をとるよな。この日が来るんだから、当たり前だぁ。」
「そうね、あなた」と、私は涙がこぼれた。
「俺たちは出来なかったが…結婚式できるみたいだな。よかったよかった。」
「そうね、あなた」と

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【短編】将来について語るときに

【短編】将来について語るときに

熱海にあるヴィラには、テラスがあって、海が一望できる。そこには外付けの小さなバスタブとシャワーがあったが、部屋の中から丸見えだった。女子が好きそうな場所に思えたけど、四人とも使わなかった。使ったのは五人の男子のうちのふたりで、カーテンを完全に閉めて使った。同期九人、もう一ヶ月後には社会人となる歳だったが、ひとりだけ院進ということで他のみんなとの話題についていけなかった。私だけは、文学をやりたいと親

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【短編】飲むようになる頃には

【短編】飲むようになる頃には

ドーナツ屋に入ると、すぐにその子供は僕を見つけた。母親の膝の上に立って僕の方を見て、笑いかけてくる。思わず何度かウインクして、レジに向かった。

コーヒーとドーナツを受け取ってから席に着くと、ちょうど隣にその子がいた。母親は、友人とおしゃべり中で反対の方を向いていたので、僕とその子は、お互い睨めっこするみたいに見合っていた。
母親が気がついて、嬉しそうにしながらもその子を向こう側に向けて座らせた。

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【短編】退き際と人生について

【短編】退き際と人生について

唐突かもしれないが、常々思っていたことがある。老いぼれについて、彼らの共通点はひとつだけ…それは退き際を弁えないことである。
いつまでもその席に座ろうとする、その執着たるや。
だから、言ってやったんだ。そしたら、こうやって異動だ。
でも、同時にずっと大好きだった先輩が辞めると聞いた。そしたら、なんだか、どうでも良くなったんだ。だってこんなこと言うんだぜ、聞いてくれよ。

「君たちに、最後だから全部

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