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杜賀 季
2022年1月26日 02:06
ある冬の日の暮。私は夕食の買い物を手伝いに、隣町、といっても最寄駅からたった二駅離れたばかりの所にある街なのであるが、そこへ母と共に訪れた。駅前には幾つもの商店が並んでいる。モクモクと油の籠った重い煙をあげている串焼き屋やら、古風な木造りの店構えをした豆腐屋やら、凡そ4、5畳程しかないと思われる、小さい婦人服店やら、初見では入り辛いようなやけに暗い酒屋やら、全く纏まりのないごちゃごちゃした商店街で
2022年1月15日 07:16
この悪辣たる世には最早、純文学の居場所はないのです。人はもう、美しく、繊細な表現や、回りくどい晦渋で不器用な文章に興味をそそられなくなってしまったのではないでしょうか。この一文にどうか目を通してみて下さい。『貴方のことが好きです。付き合って下さい。』色恋の甘美な匂いに魅了された男女がよく用いる不純な常套句。双方の未だ煮え切らない関係を、ここで、一新、キッパリと、決定付けようと編み出され
2022年1月13日 05:32
男は不毛な思案に明け暮れていた。先程から、もう何分、何時間、何年と、熟慮を尽くしている。男の前には背の低い安物の長机があり、その机の上に深緑の布生地で覆われた手帳と先の丸い6Bの鉛筆が、丁度手帳と机の段差にもたれ掛かるように転がっている。どうやら今夜も又、全く無意義な、無稽の思惟に没頭しているようである。この男はよく、哲学的思考実験などと、称して、『恐怖と好意の差異とは?』やら、『執拗な憎悪は嫌悪