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ヨンダホン「すてきなあなたに04」

心がふっと温まる、なんていうとありきたりすぎるのですが、そんな気持ちになる本です。

心を温める、落ち着かせる本だというのに、リラックスして姿勢を崩して読むかというとそうではありません。

だいたい、できる限りに背筋を伸ばします。本を顔の高さに持ってきて、美しい姿勢を保ちながら読みます。なんとなく、そうしたくなるのです。このエッセイの温かさの中にある、凛とした著者の感受性の芯がそうさせるのかもしれません。

このエッセイを書いた大橋鎮子さんがすっごく有名な方で、NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」のモデルになった方だとは知りませんでした。

エッセイでよく旅をされていらっしゃるなとは思いつつ、慎ましかったり奥ゆかしかったりする感じが、言葉は悪いですが「庶民じみてて、所帯じみてて」良いなと思ってたからです。

なので出版社を立ち上げ、文章を書き、雑誌を編集するそのパワフルで忙しそうな姿をなかなか想像ができなかったのです。

というのは、わたしの想像力の拙さからくるものなのでしょう。でも、現代のわたしがめちゃくちゃに仕事を頑張ったら、こんな日常の一コマに、こんなに心を割けるだろうか。そして、こんな文章に残すだろうかと、ため息が出てしまうのです。

このエッセイ集の楽しみなところは、生活の知恵をこっそり教えてもらえるところ。レシピを読みだけで香りが立ち上ってきそうな外国のお料理や、雑誌で見た時は一瞥で終えたのに「やってみようかな」と思える美容の一手間。生活を愛する人が綴るエッセイは、手間や面倒さえも魅力に見せます。

わたしが今回特に好きだったのは、
寝坊をした大橋さんが10分で出かける支度をした様子を描く「アッという間」、幸せの掴み方の価値観の違いを駅までの急ぎ方から考える「呉越同車」、現地の男性たちに紛れて嗜むミルクティの味とその再現レシピがついた「印度のミルクティ」の3つ。

ああ、この本がいつも本棚にあったら、すごく良いのになあ。毎日の1〜2分の隙間で、心がたくさん豊かになるのに。

名残惜しみながら、図書館に返しにいきます。

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