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コンパス(8686)
2020年11月1日 00:17
私は朝早く、山を登っていた。雪で不安定な足元に、杖を刺しながら登る。私は時計を見た。針は、午前6時を指している。時間はあまり、残されていないようだと笑う。雪混じる空気が、肌を刺している。私の周りに、登山者はあまりいないようだった。当然だ、皆、もう山頂にたどり着いているだろうから。だが、それでいいのである。私はグサッと杖を刺し、一旦休息を取った。タイムリミットギリギリで
2020年11月1日 23:35
……ピッ、ピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ……カタッ。僕は条件反射的に、目覚ましを止めた。体が汗で、びっしょびしょに濡れている。頭を押さえた。……いやな夢を見た。ほわほわとした幻聴、ピンク色の象が、まだ、頭に残って離れない。気分は最悪だった。真っ暗な天井を見ると、誰かに笑われているような気分にならざるを得ない。時計を見ると、午前3時。いつもだったら遅く
2020年11月15日 23:33
「おにはーそとー! ふくはーうち!」友達は、そうつぶやいて、ぼくに石を投げつけた。ぼくは何も言わず、静かにそれを受け止める。体から、赤と黒を混ぜた絵具みたいなのが流れてた。痛みはほとんどなかった。なれっこである。「おにはーそとー! ふくはーうち! きみはーおに!」……また言ってるよ。おにごっことかでは、追いかける側のことを「おに」と呼ぶ。だったら、君達の方がおにじゃないの
2020年11月29日 10:41
「いらっしゃい」マスターはそう言って、俺に微笑みかけた。俺は彼の笑みを睨みつけ、乱暴に近くの四人用席に座った。無論、四人用とはいうものの、俺は一人である。メチャクチャに濃いコーヒーの臭いに、嫌気が差す。ここには最近バイトが入ったと聞いているが、俺に近づいてきたのはバイトではなく初老の店長の方だった。「……お客さん、注文は?」店長の眼鏡越しに、鋭い眼光が見え隠れしている