若生ゆうひ

若生ゆうひ

最近の記事

2023/10/16

CANADA VICTORIA 空気が澄み渡っている。 快晴の空から太陽が大地を照らし草花も賑わっているけれど、 もうすぐそばに厳しい冬が待ち構えているのがわかる。 つい最近まで持ち得ていたはずの何かに対する熱意もなく、知らない場所への期待や先に待ち構える希望のひとつも想像することができない。 どうしたものだろうか。 田舎にある小さなガーリック農園で、友人と農仕事を手伝う代わりに無料でトレーラーに住んでいるのだけれど、焦燥や不安が心臓の奥底まで襲い掛かるので、ほとんどの

    • 上空にて

      太った鯉のようなおかしな形をした乗り物はその腹に蓄えたエネルギーで、轟音を立てながら凄まじい動力を発揮し、夜の光に青白く染まった峰がアンデス山脈を象っている上空を滑空している。永遠の広がりにも思える紺碧の空があたり一面に広がり、その暗く澄んだ夜空にはいくつかの星雲が薄く広がっているのがわかる。何世代もの人々がその生涯を費やし、どれだけの長い歴史が、どれだけの人々がこの機体にその人生を費やしたのかということを踏まえたとて、風に合わせて人工的に動く機体の羽は、窓の外から見える宙や

      • ナミビア紀行 像と夕日 ヒッチハイカー

        像と夕日 ヒッチハイカー 像と夕日  ずっとひとりで運転をしてるとだんだんと、一体どこを目指しているのだろうか、なぜこんなところにいるのかということがわからなくなってくる。 ナミビアの首都ウィントフークから北西にあるエトゥーシャ国立公園内のハラリというキャンプサイトに向かうため、およそ445KMの道のりを一人でひたすらに車を走り続けている。時速120~150キロで走る車内から外を眺めると、途方なく乾いた白い土地がパノラマのように流れていった。わたし以外を載せた車は1、2

        • 不思議の街 インド バラナシ

          Varanasi 早朝のバラナシは寒かった。濃霧のせいで、わたしはほとんど地面だけをみて歩き進まなければいけなかった。わたしはこの聖なる地で毎朝行われる太陽の儀式のため、朝5時に起きたが、まだ街は暗く、静まり返っていた。数歩先に転がっている石ころにも気づくことができないような灰色の世界をよちよちと歩き、太陽に捧げる儀式の会場に向かっている。静寂の中でも、動物の鳴き声や足音、どこか遠くから聞こえるかすかな喧騒、石の転がる音、足と地面が擦れる音、川の流れる音などたくさんの音がある

          一昨年の夏 秩父にて

          外は青空だ。冷房の効いた部屋の窓から木々が揺れているのを見ると、どうしても外には5月の涼しさがあるように思えてしまう。ブランケットに包まれたわたしの横にはタンクトップ姿で寝転んでいる同級生が天井をじっと見ている。彼のスマホのスピーカーから音楽が小さく流れている。彼は多分それを聴いている。わたしたちは黙っている。 窓の外で一匹の蝉が鳴いている。前に、友人と道を歩きながら話していて、蝉がうるさいねと叫んで一旦会話を中断したことがある。無言で歩きながら、そこに夏を感じたものだ。蝉

          一昨年の夏 秩父にて

          インドにある、アジア最大のスラム街で暮らす人々の幸福度

          午前6時。空港を出るとまだ暗い。わたしは近くのバス停を目指し歩く。全体的に砂っぽいのだろうか、街灯の光は靄がかったようにぼんやりと円に広がっていた。人々はぽつぽつと散らばっていて、閑散としていた。 数十円払いバスに乗るも、早速間違えたことに気付く。ここでは、民間バスの乗り降りですら大変なのだ。バスがバス停に停車しない。運転手的には停車しているつもりなのだろうか。バス停に近づくとバスは次第に減速をはじめ、時速数キロ単位になったところで、人々が飛び降り飛び乗る。わたしはキャリー

          インドにある、アジア最大のスラム街で暮らす人々の幸福度

          アラスカ こんな世の中でも希望は捨てられない

          アラスカでのある日。 ちょうど散歩から帰ってきたわたしは、Josh(32)がリビングで着替えているところに鉢合わせる。わたしに気づいた彼は、パンイチ姿で焦り出す。急いでズボンを履いているけれど、太ももに奇妙な凹凸がいくつもあるのが見えた。 わたしはそれがヘロインの注射痕だとも知らず、奥多摩にある日原鍾乳洞のごつごつとした壁面に似ているなあ、と思った。 「見た?」 「見た」 「お願いだから見なかったことにして」 「何でよ気にしないよ」 「だってこれは」 彼は顔を真赤にして、

          アラスカ こんな世の中でも希望は捨てられない

          九州 女一人旅 宮崎編

          265号線を走り、阿蘇を抜ける。 寂寞とした大地を踏むと、枯れ木がパキッと音を立てわたしの重心と共に細かく折れていくのだ。 山を抜け、しばらく海沿いを走っていると、なんとなく、熱帯地域似た独特の雰囲気に変化した。 風が変わり、全開にした車の窓から吹き込む風は、夏が明ける前の湿った空気を帯びてくる。 高低差の激しい宮崎の国道を走る。 何も考えずに、ただ車を走らせる。 明確な目的地もないので、ただまっすぐ南に向かって進んでいると、ふたたび山に入る。 阿蘇の壮大さはない。宮崎

          九州 女一人旅 宮崎編

          旅の終わりはギリシャの孤島で過ごしたのを思い出す

          最盛期は古代と言われているヨーロッパ文明の原点であるギリシャ。 今回のヨーロッパ旅の最後の国ギリシャの空港にたどり着いたころには、17時を回っていた。 アテネの治安を心配していたので、早急にバスに乗り、市内に向かう。市街の中心にある広場に到着すると、ざわざわと、中心街の喧騒が聞こえてくる。 人がごった返していて、石畳の歩道でキャリーケースを運ぶのはかなり大変だった。道に沿って店が窮屈に並んでいて、窮屈そうに人が移動している。 細く、入り組んだ道を進んでいくと、宿泊先であるゲス

          旅の終わりはギリシャの孤島で過ごしたのを思い出す

          スイスの絶景オッシネン湖を見てきた

          ベルンから列車で2時間、Kandersteg駅から徒歩1時間 リフトで15分くらいの場所に位置する、Rodelbahn Oeschinenseeという美しい景色の山々に囲まれた、ターコイズ ブルーに輝く湖のある秘境を目指した。 ウィンターニットにジーパン、踵のすれたジャックパーセルでハイキングをスタートするも、15分ほど歩くと不安になってくる。通り過ぎていく人皆、きちんとトレッキングの服装しているからだ。それに、わたしは本当に体力に自信がない。Googleマップのレビューで

          スイスの絶景オッシネン湖を見てきた

          ベルニナ急行の旅

          早朝7時。あたりは少し霧がかっていて、冷たい空気が未だ眠っている静かな街を覆っている。わたしの引く大きなキャリーケースのタイヤ音がガラガラと、やけにうるさく響いていた。 わたしは遅刻やトラブルにあってはいけないと20分前にティラノの駅についた。駅につくと、Berninalinieと書いてある赤い看板に矢印マークが書かれてあり、わたしはその矢印の方向に足を進める。 すると、赤い制服を纏った列車の係員がぽつぽつと見え始め、チケットカウンターでチケットを発行し、いよいよ駅のホーム

          ベルニナ急行の旅

          イタリアのクレマにて、まわり道の素晴らしさに気付く

          ミラノから1時間でいけるクレマという場所に、Call me by your name という映画のロケ地があるらしい。 映画のはじまりに、”北イタリアのどこか” と字幕が入るのだけれど(これがまたお洒落)、わたしはその”どこか”に足を踏み入れてみたかった。 ミラノという中心部から、列車に乗り郊外へと進む。徐々に高い建物がなくなって、荒涼とした大地や、だだっ広い畑に低くて小さい建物がポツポツみえるだけになってきた。雲が切れ、穂が黄金色に輝いて透き通って見える。 北イタリア

          イタリアのクレマにて、まわり道の素晴らしさに気付く

          一抹の不安はチョコレートが解決する

          着陸の一時間くらい前から、なぜかわたしの真横に真っ白な歯が眩しい爽やかなカタール男性CAがずっといて、目を合わせれば満面の笑顔を見せ、どっか行ったと思えばチョコレートや機内グッズなどを持ってきた。 ヨーロッパのコロナ情報については、半ば賭けみたいなものだった。 知り合いや、さまざまな記事の言ってること書いていることが違うのは当然、毎日政策が変わるからだ。 日本を出る直前まで不安だと嘆いてたわたしに、じゃあ行くなよこんな時期にとごもっともな答えをくれた友人。 ただ、居ても経

          一抹の不安はチョコレートが解決する

          ショートパンツを履いた私がカタール航空を闊歩する

          ヨーロッパ旅1日目。 乗り継ぎです。 カタール航空にて。 機内を出ると生暖かい異国の風が吹く。搭乗橋からはさきほどまで乗っていた飛行機と、乾いた滑走路がみえた。もやのせいか砂のせいか、まだ暗い遠くの空が霞んでいた。 ドーハに着いたのは午前4時だった。空港は煌びやかで、免税店やブランドショップ、フードコートなどはすでに開いていた。 地面を歩いているものの、上空にいるような感覚が取れない。意識が身体からすこしずれてあるような変な感覚がする。シャワーを浴びたかったので、わたし

          ショートパンツを履いた私がカタール航空を闊歩する

          ハワイと蟹

          事情がありハワイのオアフ島に行った。 オアフ島にはこれで3回目だった。前回、前々回は、観光客として、数泊の旅行を楽しんだ。少しばかり眩しすぎる太陽と真っ青な海と映えるスイーツに大きなショッピングセンター(どこも人口過多)がわたしの中の大まかなハワイのイメージだったので、今回滞在がきまったときも、特に気分は上がらなかった。 ひとまずホテルをチェックインして、街に出てみた。 日本人から絶大な人気を誇るリゾート地ハワイだが、今回の1ヶ月弱の滞在に至っては、日本人を目撃することが

          ハワイと蟹

          アラスカで色々なことに触れた話

          -ニートなわたしと変人 -怠惰なクリスチャン -無宗教代表は荷が重すぎる  アラスカに住む友人の一軒家で1ヶ月足らずのニート生活を送っていたわたしの日々はだいたい決まっていた。 というのも、移動手段が車しかないからだ。最寄りのスーパーはハイウェイを使って車で10分、街まではこれまたハイウェイを駆使し車で20-30分かかる。ネットも家の中でしか使えないので、方向音痴のわたしが散歩で行ける距離にあるのはタコベルと小さな酒屋さんと小学校くらいだった。 今思えば住所をメモしておいて

          アラスカで色々なことに触れた話