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ベルニナ急行の旅

ベルニナ急行とは:絶景の中を走るアルプス縦断の旅:クール、ラントクワルト、ダヴォス、サン・ モリッツの各地を出発し、ポスキアーヴォの谷を通ってティラノまで走るベルニナ・エクスプレスは、歯車を使うことなくいくつものカーブを曲がりながら、言語や文化の異なる地域を結びます。最大の見どころは、ユネスコ世界遺産に登録されているレーティッシュ鉄道路線のパノラマルートです。https://www.rhb.ch/jp/panoramic-trains/bernina-express

早朝7時。あたりは少し霧がかっていて、冷たい空気が未だ眠っている静かな街を覆っている。わたしの引く大きなキャリーケースのタイヤ音がガラガラと、やけにうるさく響いていた。

わたしは遅刻やトラブルにあってはいけないと20分前にティラノの駅についた。駅につくと、Berninalinieと書いてある赤い看板に矢印マークが書かれてあり、わたしはその矢印の方向に足を進める。
すると、赤い制服を纏った列車の係員がぽつぽつと見え始め、チケットカウンターでチケットを発行し、いよいよ駅のホームに向かった。

そして目の前にある真っ赤な列車、北イタリアのティラノからサンモリッツ経由でスイスのクールへと走る列車に乗り込んだ。スイスの列車に乗るのは夢だった。
ベルニナ急行内部。景観を楽しめるよう、十分に大きく作られた窓、クロスシート式の座席に乗ると、いつもテンションが上ってしまう。
コロナ真っ盛り、同じ車両にはほとんど人がおらず、ほぼ貸切状態でどこにでも移動し放題、数時間、かなり自由に過ごせそうだ。

8:00〜12:00の4時間ルート。
途中、アルプスの中枢で25分間の休憩を挟むらしい。

8時になると列車ゆっくりと進み始め、煉瓦の街が通り過ぎていく。
列車はぐんぐん進み、建物は徐々に消えていく。それから畑、平地、丘、山の中へと景色が変わっていく。
木漏れ日がちらちらと降り注ぎ、光は列車の中、わたしの目の前をまぶしく照らす。
深緑色の葉をはやした針葉樹林の間から、大きな湖畔が見える。
群青色をしたこの湖は、ポスキアーヴォ湖 (Lago di Poschiavo)という、ベルニナ峠とティラノの境界に位置する、山に囲まれた、ベルニナ急行最初の見どころだ。

湖の奥に見える山嶺を見ると、いよいよスイスの秘境に入っていくのだということを実感し、嬉しくなる。

山の中を通る列車。木々の中を縫うようにして通り、トンネルに入る。暗闇から視界が一気に開ける。緑の丘の上。なんといっても眺めが良い。

景色には、全く飽きなかった。
あっという間に休憩地点のalp grum という場所についた。
雪の被ったアルプス山脈を正面に構えた、標高約2100mに位置するこの偉大な土地をみていると、あらためて来て良かったと思う。ポスキアーヴォ谷の底にはターコイズブルーの小さな湖がある。アルプスの山頂から湖まで、岩が侵食され、上から下へと続くうねり道のようになっていた。純度100%の雪解け水だ。

わたしがもっとも感動したところは、標高2753M、サン・モリッツの隣村に位置するポントレジーナの入り口だった。

だだっ広い小麦色をした荒涼の平地と、少しの雲塊に包まれた大きな山脈を挟むように、真っ青な湖が穏やかな波紋を立てている。太陽の光は湖に反射して、ちらちらと不規則に、波とともに漂っている。浅瀬は薄い緑色に近く、水底が見える。

上空もまた真っ青で、どこまでも上に、限りない青が続くように思えた。

続いて列車は、ベルニナ急行が自慢とする大きな石造りの橋、ラントヴァッサー橋に差し掛かる。
みえないほど深い谷底に長く伸びている橋脚、険しい岩崖、横にはアルプスの景観、まっすぐ伸びた木々が遠くに並んでいるこのアーチ橋は弧を描いていて、車窓から後ろをみると、列車の後端が見える。

いよいよ列車の旅も終盤に差し掛かったころ、西洋絵画の風景画のように真緑の丘陵に包まれた。鮮やかな緑は絵に描いたように美しく、夢見心地で、おもわずうっとりしてしまう。

目的地に近づくと、家々がみえてくる。踏切の向こうに、ホームセンターが見える。夢から覚めたような感覚に陥って、寂しくなる。

4時間の旅。夢の旅。列車がホームにたどり着き、完全に止まるまで、このひとときを忘れないように何度も繰り返し想起した。

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