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わかおの日記153

高校以来女性恐怖症をこじらせているぼくだが、本当に数少ない女友達がいる。小学校以来の付き合いの彼女とは、全く気を遣わずに喋ることが出来る。ふつう女の子と喋っているときは余計な邪念や見栄などが頭をよぎり生きた心地がしないものだが、彼女と喋っている時は、母親と喋っているときと同じくらいリラックスできる。これはとてもめずらしいことだ。

そんな女友達と夕方、神宮のバッティングセンターに行った。一応かましたい気持ちはあったのでそれなりにイメージトレーニングを積んでから行った。彼女が野球に疎いのをいいことに、90キロの遅球をこれみよがしにシバくことで面目躍如した。

その後夕飯を食べるつもりでいたが、腹が減らないと言われた。そういわれるとこちらも腹が減っていないような気がしてきて、神宮から渋谷まで歩いた。途中花火が見えた。綺麗だったのかもしれないが、どちらかと言えばうるささが勝った。普段あのボリュームの音を聴くことはないからね。テロかと思った。

渋谷に着いたはいいものの、なんとなく居心地のいい場所をみつけられずに、2週くらい同じ場所を回ったところで諦めて、彼女の最寄り駅までついていった。通常の男女関係なら、これくらい無駄に歩いてグダグダすると不穏な空気が漂うものだが、ぼくたちの付き合いの長さはそんなレベルをとうに超越している。

結局ロイヤルホストに滑り込み、それでもまだ腹が減らないので、唐揚げとソーセージの盛り合わせを頼んでビールでちびちび流しこんだ。

彼女の家はとても富裕である。本人は否定するけれど、隠すには無理があるくらいに佇まいから富のオーラがただよっている。ぼくは結構真剣に彼女の家に婿入りすることを考えているので、今日も今日とて彼女にプレゼンした。若生の苗字など、いつでも棄てる覚悟でいる。互いに愛のない方が結婚生活はうまくいくとか、誰もいないよりはぼくなんかでも居た方が寂しくないはずだとか、寝室は別々で構わないとか、適当なことを言って、彼女も半笑いで聞いていた。プロポーズって多分緊張するものだと思うけれど、彼女に対してだったら全く緊張しない。けど、彼女とキスするってなったら、きっとなんかおかしくなって笑っちゃうだろうなと思った。

特に何もなく中ジョッキを2杯飲み干して3千円払って、少し酔っぱらいながら電車に乗った。自己嫌悪に陥るいつものパーティーと違って、とても気持ちのいい浮遊感だと思った。


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