【小説】鍵の束

 小説投稿サイト『破滅派』に掌編小説を投稿しました。
 https://hametuha.com/novel/86386/

題名:「鍵の束」

あらすじ

 ゴミ捨て場で、犬の死骸を発見した主人公「俺」。イライラしていた「俺」は、つい、死骸を殴りつけてしまう。だがその直後、「俺」は、犬がまだ生きていたことに気づく。

執筆年

2023

冒頭

 誰よりも善良で繊細な俺が、ある日、ゴミ箱を漁っていると、恥知らずにも、犬の死骸が転がり出てきて、自分の存在を俺に誇示した。俺の作業を邪魔するかのような、物言わぬ死骸の意思を感じたような気がして、俺は腹がたった。さながら、腐った果物の匂いを思いっきり肺に吸い込んだ時のような苛立ちだ。俺は苛立ちを抑えるべく深呼吸した。
 2秒吸い、5秒、吐く。
 2秒吸い、5秒、吐く。
 2秒吸い、5秒、吐く。
 何度も繰り返しているうちに、苛立ちは、ますます強まっていった。ふと、犬の死骸の下を見ると、腐った果物がそこに隠れていた。俺の鼻を、腐臭が、くすぐりにくすぐっていたわけだ。犬の死骸が、腐臭の原因たる果物を隠して俺の苛立ちの緩和を邪魔したかのような錯覚を感じ、俺はますます腹がたった。
 犬の死骸め! 犬の死骸め! 俺は、怒りに任せて、犬の死骸の頭を殴りつけた。生きていれば犬が感じたはずの痛みを、頭の中で再現して、それを視覚的なイメージへと変換し、何度も、犬の死骸へと、頭の中で投げつけた。このようなことを繰り返していると、犬が本当に痛がって、苦痛に顔を歪めているような気になってきて、うめき声まで聞こえてくるような気にもなってきて、愉快に思え、苛立ちも、緩和されるのだ。[…]


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