ビジタリズム

ある時、ふたりのサーファーが初めて訪れた「万里浜(まんりはま)」。そこは、異色のサーフ…

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ある時、ふたりのサーファーが初めて訪れた「万里浜(まんりはま)」。そこは、異色のサーファーたちがひしめくワケありのポイントだった!?クセの強いローカルサーファーに翻弄されつつも、そこで割れる最高の波、そして人々に、ふたりは徐々に惹きつけられていく——(隔週の水曜日配信)

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【サーフィン小説】ビジタリズム|第23話

<22ラウンド目 症候群 23ラウンド目 Have To Go誰にも気づかれないように、少しずつ少しずつ高度を下げていた初夏の太陽は、午後5時を超えると一気にその光の色合いを赤みがかったものに変えた。 「今日はやったわ、久しぶりに。やりきった」 セットを待つ間、ボードから降りて風呂にでも浸かるように体を海中に沈めた和虎が、天を仰ぎながら大袈裟に呟いた。 「マエノリくんも、さすがに疲れたっしょ」 「まあね。でも、こんな波めったにないからさ」 結局、和虎が朝宣言してい

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    • 【サーフィン小説】ビジタリズム|22話

      <21ラウンド目 ツイン 22ラウンド目 症候群2階のバルコニーからビーチへと伸びる階段を降りると、マチャド頭が、シャッターが半分開いた倉庫の入り口に手をかけてスマートフォンをいじっていた。 「あ、すみません、お待たせしちゃって」 恐縮して頭を下げると、マチャド頭は顔を上げ、力丸に向かって親指を突き出した。 「全然オッケーすよ。餃子、食べました?」 「あ、いや、まだです。後で食べようと思って」 「早くしたほうがいいすよ。オッキーさんとかが大量に買ってっちゃうすから

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      • 【サーフィン小説】ビジタリズム|第21話

        <20ラウンド目 再現力 21ラウンド目 ツイン「前野くん、こっち側から出て、下に降りてもらえます?下が倉庫になってるんだけど、そこで一応、一筆書いてもらうから」 いつの間にか自分のことを名前で呼ぶようになっていたマチャド頭が、ポケットソケットを抱えたままバルコニーに繋がるドアを指さした。 「え?い、一筆?」 早くもオーダーシートに記入させられるのかと身構えたが、マチャド頭はそんな力丸の焦りを見透かしていた。 「いや、貸出票すよ。念のためにね」 「あ、ああ……」

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        • 【サーフィン小説】ビジタリズム|第20話

          <19ラウンド目 別人格 20ラウンド目 再現力ナミノリが頷く瞬間を見届けると、鬼瓦は自分も満足気に頷いた。 「そうだろ?ウチが全面的にサポートするから。ナミノリはなーんにも心配しなくていいぞ。10フィートのロングボードに乗ったつもりでさ」 どうやら鬼瓦は“大船に乗ったつもり”をサーファー的に表現し直したのだろうが、あまり上手いアレンジとは言えなかった。 それでも鬼瓦の一際力強い物言いは、力丸の脳裏に、ウェブキャストの映像で勝利者インタビューを受けるナミノリと、そのボ

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        【サーフィン小説】ビジタリズム|第23話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第19話

          <18ラウンド目 発注 19ラウンド目 別人格ナミノリの姿を見た瞬間、力丸は鬼瓦の壮大な計画の全てに合点がいった。 脳裏に、自分が前乗りをカマした直後の、ナミノリのライディングがフラッシュバックする。サーフィンを始めて以来、これまでに見た誰よりも凄いライディング。見た瞬間、これこそが本物のサーフィンなんだと思い知らされる、自分のやっていることに疑問を呈したくなる、そんな一本。 だから、彼女が世界を舞台にサーフィンをする姿がごく自然に、そして瞬間的に想像できたのだ。 し

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第19話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第18話

          <17ラウンド目 一掃 18ラウンド目 発注「それにしても……」 握りしめたグラスには、まだ半分ほどの“サンライズ コシハラエール”が残っていた。 力丸はその霞がかった液体を一口喉に流し込むと、本題に切り込んだ。 「僕がこのお店のロゴを作ることと、世界に進出することとは、どう関係するんですか?……あ、仮に作ることになったら、ということですけど」 力丸は、まだこの仕事を請けたわけではない、という態度を強調した。 危ない危ない、予防線を張っておかないと、もう作ることが

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第18話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第17話

          <16ラウンド目 鬼瓦 17ラウンド目 一掃鬼瓦に押し込められた小さな部屋は、いかにも事務室といった体で雑然としていた。 部屋のちょうど中央にグレーのオフィスデスクが二つ向かい合って並んでいる。鬼瓦は、その一方のデスクに力丸を強引に座らせたと思うと、再び部屋の外へと足を向けた。 「前野くん、ちょっとここで待っといてよ」 「はあ……」 鬼瓦が部屋を出て行ってしまうと、残された力丸は、落ち着きなく部屋の中を見渡した。 開放的な空間に仕上がっていた店内とは対照的に、この

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第17話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第16話

          <15ラウンド目 マチャドヘッド 16ラウンド目 鬼瓦カウンターの後ろに突然現れた男の顔は、弁当箱を彷彿とさせるサイズと輪郭を持っていた。 歳のころは40代後半か、いや、顔に刻まれた深い皺と、後ろに撫で付けた頭髪に混じった白いものの雰囲気から推察するに、50代に入っている可能性もある。 おそらく長年紫外線対策を怠ってきたのだろう、皺だけでなく、無数のシミが顔面全体を覆っていて、それが男に鬼瓦のような迫力を付け加えていた。 マチャド頭は、鬼瓦にその場を譲るように、カウン

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第16話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第15話

          <14ラウンド目 入店 15ラウンド目 マチャドヘッド店内に一歩足を踏み入れた瞬間、力丸の目の前には、想像していたよりもずっと開放的な光景が広がった。 まず、明るい。 海に面した壁一面に特大の窓がはまっていて、そこから差し込んでくる陽光は、ギラつくことなく程よく加減されている。どうやら外側はバルコニーになっているようで、そこに立てば万里のポイントを足下に一望できることは想像に難くなかった。 窓がはまっていない壁面は、向かって左手に古材の横板が貼られており、それ以外の2

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第15話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第14話

          <13ラウンド目 ワイプアウト 14ラウンド目 入店力丸が再びステップワゴンまで戻ると、ちょうど和虎が上がってくるところだった。 その顔は、付き合いの長い力丸から見ても、過去最高の笑顔、と言えるものだった。いや、表情自体は、口角がうっすらと持ち上がっている程度で、そこまで笑って見えないかも知れない。しかし、溢れでるアドレナリンは隠せていなかった。特に和虎の目は、完全にキマっている人間のそれだった。 「おせえよ、カズ」 「いやあ、スーパー波よすぎた。上がるのもったいなく

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第14話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第13話

          <12ラウンド目 フルスーツ 13ラウンド目 ワイプアウト 結局、力丸は15分ほどの時間をビーチで潰した。 オッキーと被りたくないという思いから、普段やらないサーフィン後のストレッチなんかをしてみたが、それは、そうしている間に和虎が上がってこないかな、と考えたからだ。 しかし——予想通りではあるが——和虎は来なかった。 (まあ、これだけ波がよければ無理もないか) 波打ち際でゆるいオフショアを浴びながらサーフィンを眺めるのは気持ちが良かったから、もうしばらくこのままで

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第13話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第12話

          <11ラウンド目 ふたたび、本領発揮 12ラウンド目 フルスーツ(!!!) プルアウトしたサーファーは、空中でボードのレールを掴むと、そのまま即座にパドルバックの体勢に入った。 板前のように刈り込んだ頭髪に鋭い眼光。そして、この季節では異様な雰囲気を際立たせる真っ黒なフルスーツを、そのサーファーは身に纏っていた。 なぜ——あれほど確認したのに?誰もいないと確信したのに?2度と同じ過ちは(少なくとも今日のところは)犯さないと誓ったはずなのに?俺は、再びやらかしてしまった

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第12話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第11話

          <10ラウンド目 カオス 11ラウンド目 ふたたび、本領発揮太陽は、さらにその位置を高くしていた。 今何時だろう?日の出とほぼ同時にパドルアウトして、体感的には2時間ほどサーフィンしているから……それでもまだ7時にもなっていないのか。 初夏の1日は長い。だからこそ、たっぷりと波乗りを満喫するのには最高の季節だ。従来、今日のようなコンディションだったら、まだまだ上がらずに粘っているところだろう。たとえ仕事が詰まっていて前日ほとんど寝ていなかろうが、この季節なら最低3時間、

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第11話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第10話

          <9ラウンド目 Take it easy 10ラウンド目 カオス20mほど先で砕け散った波のスープが押し寄せてくる。白波に飲み込まれそうになる直前、腕立て状態でボードのノーズを海中に沈め、続いて片足でデッキパッドを踏んでテール側を沈める。 スープが頭上を通過し、ノーズ側から波の裏側に浮上すると同時に再び必死のパドルを開始——した先で、力丸を嘲笑うように、波が再びブレイクしているのが見えた。 もう何発食らっただろうか。サイズが上がり始めたせいか、朝イチではあれほど楽だった

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第10話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第9話

          <8ラウンド目 万里に来た理由 9ラウンド目 Take it easyサイズが、上がってきた。 入ってくるセットはコンスタントに頭ぐらいある。 同時に次第に強まってきたオフショアに煽られ、ブレイクの瞬間、飛沫がリップから尾を引くように宙を舞う。その様は、波をまるで大海でうねる龍のように見せていた。 朝イチとは言えない時間帯となり、サーファーの数もぼちぼち増え始めた。 和虎は相変わらず南端のピークに近いバンクに張り付いていたが、力丸は2度と余計なトラブルを起こさないよ

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第9話

          【サーフィン小説】ビジタリズム|第8話

          <7ラウンド目 117シェイプス 8ラウンド目 万里に来た理由 南端のピークへ向けてパドルしていくオッキーの後ろ姿を、力丸と和虎は、ミドルセクションに漂いながらしばらく黙って眺めていた。 「大丈夫だった?」 沈黙を破ったのは和虎だった。 「大丈夫……ではなかったかな」 力丸は、まだ解放された安堵感よりも、トラブルに巻き込まれたことによる興奮状態の方が強かったが、努めて冷静に受け応えた。 「だよね。沖野さん、かなりクセ強そうだったし」 「カズ、なんでなかなか来なか

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          【サーフィン小説】ビジタリズム|第8話