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嘘日記

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全部嘘で日記を書いています。 日記をまともに書いてこなかったので、体裁として日記になっていない部分が弱点です。 1000文字程度の短いストーリー集としてお楽しみ下さい。
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2023年10月の記事一覧

噓日記 10/31 ハロウィンの夜に

噓日記 10/31 ハロウィンの夜に

今日はハロウィンらしい。
と書き出してはみたものの、仏教と神道をごちゃ混ぜで信仰している俺にとっては何やら若者が騒ぐイベントの一つであるという認識でしかない。
実際のハロウィンは死者がこの世に帰ってくる日、日本で言うところのお盆と一緒らしいがそんなイベントらしさは鳴りを潜めている。
昨今のハロウィンは繁華街にふしだらな男女が集まってはふしだらな格好をして、トラックをひっくり返す奇祭と化したと聞き及

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噓日記 10/30 台パン

噓日記 10/30 台パン

ゲーマーの中ではゲームで失敗をした時、もしくは不都合なことが起きた時に机を力一杯叩く者がいる。
それを世間では台パンと呼ぶそうだ。
酷い者になると机を叩くだけじゃ飽き足らず、モニターを破壊したり、コントローラーを壁に投げつけるような不届きな輩もいるらしい。
俺にはそれが理解できない。
俺が彼らほどの熱量を持ってゲームに臨んでいないと言ってしまえばそれまでだが、それでも彼らの習性に理解が及ばない。

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噓日記 10/29 飲酒記憶喪失編

噓日記 10/29 飲酒記憶喪失編

今日は10/29、肉の日だ。
大手のスーパーやらデパートでは必ず肉のセールをしている。
そんな日ならばそれに従い、肉を買いに出かけるべきなのが人間であり、社会性のある生き物なのだと思う。
だが、俺は今日出かけなかった。
なぜならば精神的に参っているからだ。
昨日の晩、しこたま飲酒をして酒を20杯以上飲んだ辺りからあまり記憶がない。
酒を飲みすぎた翌日はいつもそうだ。
不安が残る。
何か酒を飲みすぎ

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噓日記 10/28 朝日記

噓日記 10/28 朝日記

逆に朝から日記を書いてみる。
変な試みだが存外書き始めてみるとワクワクするものだ。
今日はファッションに自信がないという友人を連れ回してコーディネートを見繕う約束がある。
彼の私服がめちゃくちゃダサいかというと決してそんなことはないのだが、まだ自分で着てみたいジャンルというものに出会えていない印象がある。
彼の雰囲気はどちらかというとのほほんとした雰囲気なので今日は柔らかめな印象の服を薦めてやろう

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噓日記 10/27 副業

噓日記 10/27 副業

市販品をフリマアプリで高額転売することについて、恥ずかしげもなく副業とおっしゃる皆様方が火口で足を滑らせて消えゆく様を想像しながらいつも飯を食っております。
さて、本日はそんな厚顔無恥な方々を貶めるために筆を執った次第ではございますが、彼らは何故そんな"恥を知る"という基本的な人間の尊厳すら失ったことについてSNS上でひけらかすのでしょうか。
その理由の一つとして、彼らは人間と比較して他者が得をし

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噓日記 10/26 騒音について

噓日記 10/26 騒音について

仕事の途中、コンビニに寄って駐車場で肉まんを食みに食んでいたところ、国道を爆音で走り去っていくバイクが居た。
ブンコロブンコロと耳障りな音が辺りに響くので、自然とそちらの方へ目が入ってしまう。
爆音の割にはそんなにスピードは出ておらず、ライダーの姿も目視できる程度。
乗っていたのはその辺のガリガリの若者といった風体。
バイクの排気量と偏差値を合わせて280といったところ、そんな見てくれをしたどこに

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噓日記 10/25 うろ覚えのうろ覚え

噓日記 10/25 うろ覚えのうろ覚え

うろ覚えという言葉がある。
はっきりと覚えていないがぼんやりとは覚えている、そんな曖昧な状態のことを指す言葉だ。
余談だが俺はそんな無と有の隙間、形而上の話をするのが好きだ。
さて、このうろ覚えという感覚、丁度ウロボロスが突然会話に出てきた時になんだっけとなる感覚に近い。
うろ覚えの語源も確かそんな感じだった。
ウロボロス覚えられずの略だとか、そうじゃないとか。
そんなことを国土地理院か国土交通省

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噓日記 10/24 ロゴT

噓日記 10/24 ロゴT

近所に住む若いヤンキー夫婦がいつものお礼と言ってブランド物のボックスロゴTシャツをくれた。
これで何度目か分からないほどロゴTシャツを貰っている。
彼らの子どもが好きかもしれないと貰い物のフルーツやお中元のゼリーをそのまま彼ら宅に流しているだけなのだが、思いの外ウケが良いようで律儀に毎度お礼をしに来てくれる。
若いのに殊勝なものだと感心すると共になんだか申し訳ない気にもなる。
彼らの、お礼にロゴT

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噓日記 10/23 灯りと

噓日記 10/23 灯りと

またやってしまった。
部屋の照明を調節するリモコンをまた室内で紛失した。
今年に入って何度目だというくらいに紛失している。
普段は絶対にロストしないぞという強い気概を持って、ベッドの上という定位置と呼ぶには少々広範囲なエリアに投げ込んでおくのだが今日はもう見つかる気配がない。
まずベッドの上のどこにもない。
布団に巻き込まれて見失ってしまったのかと裏返してみたり持ち上げてみたりしてみたがその足跡を

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噓日記 10/22 アナ氏の日記

噓日記 10/22 アナ氏の日記

今日も今日とて特段何もない一日だった。
毎日が当然のように過ぎてゆく中で、日曜というだけで騒げるほど若くもなく、それでいて日曜を無為に過ごせるほど老いてもいない、そんな若さと老いのバランスが丁度良い今でこそ出来る休暇の過ごし方は意外と多くない。
今日はそんな私が普段通りの日曜を過ごした記録を残しておく。
午前中のこと、所要を何個かこなした後に通販サイトを覗く。
来月末で期限が切れてしまうポイントを

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噓日記 10/21 塩で食む天ぷら

噓日記 10/21 塩で食む天ぷら

歳を取ると天つゆを使わなくなると近所のジジイが言っていた。
そのジジイはいつも惣菜屋で買った天ぷらに塩だけ振って、公園のベンチを陣取ってカップの日本酒と一緒に楽しんでいた。
当時の俺からしてみるとそんな得体の知れないジジイが得体の知れない飲み方をしているのが面白おかしくて、ジジイが公園にいるたびに近寄っていって何をしているのか問うていた。
ジジイはその度に遠くで俺たちがしていた野球をつまみに飲んで

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噓日記 10/20 現代怪奇譚 罪人村

噓日記 10/20 現代怪奇譚 罪人村

俺が生まれ育ち今も生活しているこの町は、もともと江戸時代のころに多くの罪人たちが都を追われて住み着いたことで名を馳せた町だったらしい。
あくまで俺も老いた祖父から伝え聞いた話なのでそこに信憑性があるかどうかは分からないが、この町で生まれ育った俺が他所の人間と出会った時に感じる隔絶された感覚や晒される好奇の目から見てもある程度真実に沿った話なのだと思う。
まず、事の起こりは前述の通り江戸の中期。

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噓日記 10/19 夏の残滓

噓日記 10/19 夏の残滓

この時期になると毎年のように夏が少しだけ恋しくなる。
私にとっては春夏秋冬で夏は一番過ごしにくく、順位をつけるのなら最下位なのは幼い頃から変わらないのだが、いつもそんな夏の気配が消えた頃にその残滓が少しだけ惜しくなってしまうのだ。
夏はいつの時代もエモーショナルとノスタルジックを端的に表す季節だ。
汗が肌を伝う感覚、蝉の声、縁側であたる生暖かい風、消えた花火の残した香り、鮮やかな草花の色、木漏れ日

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噓日記 10/18 ニコチンの王

噓日記 10/18 ニコチンの王

連日続いた熱も少し下がって、安定して37度台で落ち着いてくれているので今日の日記は軽やかに書き始められた。
昨日、一昨日と40度近い熱にうなされていたのだが医者から貰った気持ちよくなる薬を飲んで半日ほど経った頃、38.5度くらいに熱が下がった。
普段だったら苦しくて仕方がないであろう体温だが、連日の高熱と比較してその快適さに驚いた。
まず体が軽いのだ。
高熱の時は可能な限り、文字通り床に臥せていた

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