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同じ穴のむじな

15
大学に入学し、アパートに下宿したが、「おんな」に翻弄される毎日。
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#大阪

同じ穴のむじな(15)なりゆき

同じ穴のむじな(15)なりゆき

みんぱく(国立民族学博物館)の帰り、山田駅へ向かう道すがら、おれたちは言葉少なだった。
「暑いなぁ」
口を開けば、そんな言葉しか出ない。
大阪モノレールが頭の上を通過する。
「ヒロ君、あんたの部屋に行ってもいいよ」
「それは…どういうことや?」
「言わすの?あたしに」
上目遣いに、尚子が訊く。
二人っきりになってもいいと、彼女がサインを出しているのだ。
「わ、わかった。汚いとこやけど来て」
「それ

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同じ穴のむじな(14)みんぱく

同じ穴のむじな(14)みんぱく

国立民族学博物館(愛称「みんぱく」)の中は、外とは打って変わって涼しかった。
入ったところには、大きな自動演奏オルガンがひときわ目を引く。
「なぁに、これ?」
「車輪がついているから、馬かなんかで引いてくるんだろ」
「自動オルガンかぁ」
演奏時間が決まっていて、その時間になると動かしてくれるらしいことが横の案内板に記されていた。
おれは惹きつけられたように、目の前の階段を上がると、正面にはガラス張

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同じ穴のむじな(12)愚行

同じ穴のむじな(12)愚行

横山尚子と「化学実験」の実験パートナーを組んで三か月以上が過ぎた。
「最初の『アルミの陽極酸化』の実験な、あたしC判定やってん」
「おれ、Bもろたで」
「たしか、一緒に書いたやんなぁ。ほんで、いろいろ書き足して出し直して試問を受けたらAもろた」
「うそ、Aもろたん?おれ、まだいっこもAないで」
昼食の時に、学食でカレーライスを食いながらおれたちはそんな会話をしていた。
「あれって、ブリッジ回路を使

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同じ穴のむじな(8)明恵(あきえ)

同じ穴のむじな(8)明恵(あきえ)

実家から小包が届いた。
下着や夏物のパジャマ、「鶴の里」という棒状の和菓子が一棹(さお)入っていた。
双鶴庵という和菓子屋の銘菓である。

手紙には、皆元気にしているとあり、「お前はどうだ?不自由はないか?」とたどたどしい母親の字が連なっていた。
おれが、電話一つよこさないことを、なじってもいた。

ここ「玉藻荘」には電話がない。
よって、小銭を用意して最寄りの電話ボックスに行って、電話をかけるこ

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同じ穴のむじな(2)作家の部屋

同じ穴のむじな(2)作家の部屋

机がなかったので、天文部先輩の本田昭(あきら)さんから折りたためるデコラ天板付きの机を頂いた。
椅子も付けて…
それを本田さんのお兄さんが西三荘(にしさんそう:京阪電車門真市駅の次の駅)の実家から軽自動車で持ってきてくれたのである。
「ありがとうございます」
「いや、うちも助かってんねん。邪魔で、ほかそう(捨てよう)と思ってたとこやから」
本田さんのお兄さんもそう言ってくれたのだった。

「すごい

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