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風のように現れ風のように去っていった半纏兄さん(豆柴ヘルニア生活日記_14)

■20240129

このところ少し長く歩けるようになってきた柑太くん(9歳半で椎間板ヘルニアになってしまった白豆柴男子)。今朝の散歩で、はじめて会った白髪を小綺麗に刈り込んだ兄さん(推定90)に話しかけられた。

遠くから柑太くんを眺めながらスタスタと近づいてきて「この子は秋田犬か?」と聞いてきた。かくしゃくとした口調だったんだけど優しい声だったので、柑太くんはビビらずにすんだ。

柴犬のちっちゃいやつです。もうすぐ10歳なんです、と答えると、色が珍しいな!と言いながら少し距離を置いて、しゃがんだ。人間で言うたら60近いな!そうかそうか、とくたくたの半纏にサンダルを引っ掛けた兄さんは日に焼けたしわっしわの顔で笑っていた。

犬はええな、と言った。

飼われてるんですか?と聞くと、

前にな、柴をな。

と、話し始めてくれた。

まだ若い頃に病気で死んでしもたんや。
かわいそうでかわいそうで悲しくてたまらんかったんや。
それ以来飼うてへん。

俺と柑太くんの後ろの方で、風がざざわざわわっと通り抜けていった大きな木を兄さんは眺めて、しばらくしてから、また話し出した。

犬の命や木や風の心がわかる人間がおるんや。
その人が言うとったわ。
体、形は無くなっても、魂はその辺にさまようとる。
で、生まれ変わるんや。
輪廻転生やな。
犬は ご主人様の身代わりになって死ぬこともある言うとったわ。
でもな そういう犬は いつか 人間に生まれ変わることもあるらしいわ。

兄さんは大好きなわんこが亡くなった時にたくさんのことを考え抱え、そして気がついたんだろうなぁ。

この子はええな。
ええ顔しとる。
ご主人様のことようわかっとる。
そかそか 他の人はあかんのか。
ご主人様守ろうとしとるんやな。

少し眠たそうな顔をしながらも柑太くんは、腰が痛いことはひとまず置いといてくれたのか、話してくれる兄さんの声を、ずーっと静かに聞いていた。

(つづく)

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