牛島兄弟

文・兄(牛島俊雄) 絵・弟(牛島章雄) による、おもに映画についてのコラム等

牛島兄弟

文・兄(牛島俊雄) 絵・弟(牛島章雄) による、おもに映画についてのコラム等

最近の記事

チバユウスケにサインをもらいそこなった話

(文・牛島兄)  いま家にあるミッシェルガンエレファントのレコードは一枚だけ。”GT400”の7インチシングルだ。これだけは手放すことができなかった。この曲が一番好きだから、という理由ではなく(むちゃくちゃ好きな曲なのは間違いない)、メンバーのサインが入っているからである。ベーシストであるウエノコウジさんのサインだ。  これはいまから23年前に、当時高校生だった自分がその時住んでいた福岡のレコード屋さん(昨年惜しくもなくなってしまったJUKE RECORDSというお店)に

    • 1969年のティナ・ターナーと15歳の困惑

      <文・牛島兄>  JBやオーティスが動く映像より先に、ティナが動く映像を観た。15歳だったと思う。  あらかじめ言っておくと、それに感動したとかそういう話ではなくて、それは15歳の自分を大いに困惑させるものだった。  それは全く予期せぬハプニングとして、塾から帰りご飯を食べた後の平日の夜、自分の耳目に突然食い込んできた。その頃ロック音楽に目覚めた自分は、ローリング・ストーンズに夢中で、特に60年代終わり頃の彼らは退廃的なムードがあり、ロックンロールは怖い音楽。という認識

      • 何も語っていない「ノマドランド」について

        元教え子だった生徒から「先生はホームレスなの?」と(若干の憐れみと困惑した表情を浮かべながら)聞かれて、主人公のファーンは、「いいえ、ハウスレスよ」と答える、近所のスーパーの会話からこの映画は始まる。 彼女は今は、ヴァンガード(先駆者)と名付けられた、唯一の資産であるバンに暮らしている。夫は、数年前に亡くなり、住んでいたネバダ州のエンパイアは2008年のリーマンショックでその町ごとゴーストタウンと化し、同時にファーンも職と家を失う。 ノマド=漂流者としての生活の糧を得るた

        • 南部の唄

          (作・牛島弟) 「あー、じゃあ今日はこんな感じにしよう」とチャーリーがギターのネック部分をぶっ叩いてみる。 「ベン・ベン・ベン・ベン・ベン・ベン・ベン・ベン・ベン」 「ビンビンビンビン。ブンブンブンブン。」 「ドンツク。ドンツク。ドンツク。ドンツク。ドンツク。ドンツク。」 おもむろにウィリーブラウンが、水道の鉛菅で作ったボトルネックのギターで、キュインキュインと金属質な音でスライドを鳴らす。それに呼応するかのように、チャーリーはギターのボディ部分をリズムを刻みながら

        チバユウスケにサインをもらいそこなった話

          大里俊晴さんのこと

           (文 牛島兄)  先日、11月17日は現代音楽家・大里俊晴さんの十三回忌であったそうだ。  実は大学にいたときに大里さんの講義をとっていた。入ったばかりの頃だ。一般教養の授業で現代音楽論みたいなのがあり、その教授が大里俊晴さんであった。  でも、最初はどんな人なのかよくわかっていなかった。大里さんは自分の話をほとんどしなかった気がする。伝説の前衛パンクバンド「ガセネタ」のメンバーだったことを知るのは授業が終わってから、同級生のK峰(めっぽう音楽に詳しかった)くんが教

          大里俊晴さんのこと

          THE EXITS Under The Street Lamp 歌詞和訳

          (訳・文 牛島兄) Standing around telling jokes たむろして冗談を言い合う We can't go nowhere because we're broke 文無しのおれたちはどこにも行けない And we don't care if the weather may be bad 雨が降っても気にしないさ It's just me and the fellas おれとあいつらだけ Under the streetlamp 街灯の下には Under

          THE EXITS Under The Street Lamp 歌詞和訳

          バカ映画と私

          (絵・文 牛島弟)  勉強も対人関係もサークルもバイトも何もかもが上手くいかなかった大学生活で、唯一の救いだったのがアメリカのバカ映画だった。でも今考えてみると、それしか思い出がないというのがもう何だかね…ひっくるめて全部が全部何もない、不毛の青春だったなぁと、気分がものすごーーーく暗くなるので、今日もやっぱりバカ映画に頼るしかない。それがますます悲しくなってくる。映画の効力はもってせいぜい一日だと言っていたのは誰だったっけ?これからも唐獅子牡丹を観た後に、肩で風切るだけの

          バカ映画と私

          何も語っていない『断絶』について(追悼モンテ・ヘルマン)

           (文・絵 牛島弟)  『断絶』は1971年にロジャー・コーマン門下のモンテ・ヘルマンによって制作された、アメリカン・ニューシネマの金字塔的作品である。公開されてから半世紀経つが、これほど与える影響の射程距離の深い作品はなかなかない。ストーリーはあって無いようなモノで、登場人物はドライバー=ジェイムス・テイラー、メカニック=デニス・ウィルソン、ガール=ローリー・バード、そしてGTO役のウォーレン・オーツの4人だけである。しかし、本当の主役はドライバーとメカニックが運転する5

          何も語っていない『断絶』について(追悼モンテ・ヘルマン)

          小説『ビー・ヤング、ビー・フーリッシュ、ビー・ハッピー』

          (作・牛島兄)  デックからDJがトップ・チューンをかけると、ダンスフロアのダンサーたちが雄たけびをあげて拍手喝采し、その夜のそこまでで最高の盛り上がりを見せた、戦争でもはじまったみたいなきちがいじみた大盛りあがり。目をらんらんと輝かせ、手を叩き、床を踏み鳴らす者もいれば、感極まって泣き出す者もいた、そして母親の名前を叫ぶ者も。このようにして、地下室にて、みんなそれぞれウイーク・デイの日々の泡で身体中に溜まりに溜まった膿を吐き出すって算段だ。曲はトミー・ニールの「ゴーイン・

          小説『ビー・ヤング、ビー・フーリッシュ、ビー・ハッピー』

          何も語っていない『トータル・リコール』について

          (文・絵 牛島弟)  マッチングアプリでマッチングして、いい感じになったけど、ある日を境にLINEの返事が来なくなった。あれ?どうしたんだろう?と催促したら、いい人が見つかったのでごめんなさいと、お断りの返事が。もうこれで何度目なんだろう。3度目、4度目?マッチングした回数を見るともう48回。つまり48戦48敗ということなんだな。うん。もう潮時だね。  きっとシュワちゃんなら今度もなんとかしてくれるだろう。いつだってシュワちゃんはなんとかしてくれたのだから。この映画『トー

          何も語っていない『トータル・リコール』について

          何も語っていない『夢』について

           絵・文 牛島弟  本当は『どですかでん』について書こうと思った。あれは素晴らしい作品だし、クロサワ映画の中で一番好きかもしれないのだが、バーっと考えてみても何も浮かんでこなかったので、晩年の『夢』について語ってみよう。  この映画は1990年に公開されたが、前作『乱』の莫大な製作費とそれに比すると僅小な興行収入で、スポンサーからそっぽを向けられた黒澤が、ハリウッドの王様であったスティーブン・スピルバーグがヘルプに回ること(ワーナーブラ!)で、どうにか製作にこぎつけた、黒澤

          何も語っていない『夢』について

          『映画世界のダンディ』③ ジャン・ピエール・レオ in 「家庭」 アントワーヌ・ドワネルの文系レザースタイル

           数年前のこと。ブレイク中のとある新進若手俳優(男性)の私服がダサいとネットで話題、という情報を見かけた。「ブレイク中の新進若手俳優(男性)」というものは、大概こっちには不愉快なもんでしかないから「どんなもんか見てやれ。そして、センスのなさを嘲笑ってやれ。ヒヒ。」とさもしい心でわざわざ検索して写真を見たら、なんてことはない普通のレザーのライダースを着た芸能人の写真で、拍子抜けした。たしかルイス・レザーの、ちゃんとしたものだったと思う。とくに奇抜でおかしな感じもなく、いいも

          『映画世界のダンディ』③ ジャン・ピエール・レオ in 「家庭」 アントワーヌ・ドワネルの文系レザースタイル

          何も語っていない『シャイニング』について

          絵・文 牛島弟  『シャイニング』(監:スタンリー・キューブリック 80年米)は北米公開版(143分)をぜひ見てほしい。ジャック一家がオーバールック・ホテルに車で向かう冒頭のシーン。上空からヘリで空撮をしているのだが、そのヘリの影がはっきりと見えるからだ。「な〜にが完璧主義者だよ。ヘリの影が丸見えじゃね〜か。」と見るたびにツッコミを入れたくなってしまう(短縮版を確認してみると、影が何もなかったかのように消されているので、この監督にしては珍しい単純なミスを見逃さないほしい)。

          何も語っていない『シャイニング』について

          祖母と、プライマル・スクリームを聴く(牛島兄)

           母方の祖母が亡くなった。享年93歳。  死因は、人間の最も幸福な終わり方といわれる老衰。  苦しむことなく 、ゆっくりと祖母は家のベッドで眠るようにその生涯を終えた。  家族葬が行われ、ひ孫(姉の子供)が涙ぐみながら素敵なお別れの言葉をかけた(彼は非常に利発な子で、子供のころの僕にそっくりだ)。  戦争や、息子の死や、つらいこともいっぱいあっただろうが、これ以上ない幸せな人生だったのではないかと思う。  亡くなる5日前あたりから、もう持たないだろうといわれ、僕ら家

          祖母と、プライマル・スクリームを聴く(牛島兄)

          『映画世界のダンディ』② 田中邦衛 in「若大将」シリーズ 青大将の空虚なダンディズム

           高校の時の体育教師がよく言っていた。「恰好やファッションばかり気にしてる奴は、中身のないカラッポ人間ぞ!(博多弁)」。その発言には年中おなじジャージ姿で女子生徒から陰口をたたかれていた彼の、個人的な歴史からくる偏見がかなり含まれているのではないかという気がしたが、彼の言葉を借りるなら、「若大将」シリーズのサブキャラクター、田中邦衛演じる「青大将」こと石山新次郎は、まさに恰好だけのカラッポ人間だった。そして、だからこそ、完璧だった。  まず、田中邦衛である。我々の世代に

          『映画世界のダンディ』② 田中邦衛 in「若大将」シリーズ 青大将の空虚なダンディズム

          『映画世界のダンディ』ザ・ビギニング

           ダリオ・アルジェントは「映画に『駄作』などない。どんな映画にでもひときわ輝くワンカットがある。」と言ったそうだけど、映画表現の技法についての知識が乏しい自分としては、「映画に『駄作』はある。でもどんなクソつまんない映画にでも、美女、美男、爆発、かっこいい乗り物、爆発するかっこいい乗り物、かっこいい服、怪獣、裸、だれかの死。のうちどれかひとつくらいはだいたい映っている。なら、まあいいじゃない。」といいたい。  そういうわけで、みんなめいめい色んな理由、欲望をもって映画を

          『映画世界のダンディ』ザ・ビギニング