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11月11日の手紙 メインテーマは殺人 ネタバレあり


拝啓

ワシントン・ポーシリーズの第4作がまだ、Audible化されておらず、通勤時間のお供に次は何の作品にしようか…と迷いました。
おすすめに何度も上がってきて、書店でも見かけた、アンソニー・ホロヴィッツのホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズに手を出すことにしました。
ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズは、テレビドラマの脚本家であり、少年向け冒険小説やシャーロック・ホームズの新作推理小説を書く作家でもある、アンソニー・ホロヴィッツ、つまり著者本人!が元刑事の探偵、ダニエル・ホーソーンに頼まれて小説を書くために殺人事件の調査に同行する、シリーズです。
ワシントン・ポーシリーズと同様に英国が舞台ですが、こちらはロンドンがメインです。
そして、ワシントン・ポーシリーズより、ずっと英国らしい皮肉っぽさがあるシリーズです。

ホーソーンが初登場する第1作「メインテーマは殺人」を聴了(読了)したので、その感想です。
気をつけていますがネタバレがあると思うので、ネタバレが嫌な方はここで、ブラウザバックしてください。

・書き出しが最高な謎解きミステリ


今回の被害者は、資産家の老婦人です。第1章は、この老婦人が、葬儀屋に自らの葬儀を手配しにいく様子が丁寧に描写されます。
とても印象的な章ですが、最後の謎まで解けた後に、聞き直すと(読み直すと)、また違う味わいがあります。
ホロヴィッツ、作品中のホロヴィッツは、頼りにならないし、無駄な発言が多く、迂闊な人間なのですが、著者のホロヴィッツはきっちり取材して丁寧に書く人間のようです。
文章に描写されている情報で謎が解けるのです。
これは、本当にすごい!傑作です。

・出てくるやつ大体、嫌なやつ


冒頭から、ホーソーンが嫌なやつだ嫌なやつだと書かれていて、それは確かにそうなのですが、作者であるホロヴィッツもまあまあ嫌なやつだと思います。小心者ではあるけれど、自分の仕事についてひたすら滔々と語るのは自慢のように聞こえます。しかしこれは文化の違いなのかもしれません。自分の仕事の履歴を披露して何が悪いと言われれば、何も悪くないのですがどことなく鼻につくのです。
テレビドラマの脚本をやっていて、大作映画の脚本にも携わるかも知れず、シャーロック・ホームズ財団から認定を受けてシャーロック・ホームズの新作を書き上げていて、それでも自分は真っ当な小市民なように振る舞うのがかえって、嫌味なのです。
容疑者になる俳優やその妻も、関係者、皆、少しずつ怪しく、どこか少し嫌なやつなのです。
英国風ということかも知れません。
なれるまで結構、うんざりしますが、それを乗り越える価値はあります!

・現実と小説の間


ホロヴィッツが語る自分の仕事の大半は現実のもののようです。
だとしたら、どこまでが本当でどこまでが小説なのでしょう。
スピルバーグとピーター・ジャクソンが登場する場面は本当にあったことのようにも感じます。
芸術関係については、ホロヴィッツが仕事を通して体験したことが練り込まれているのでしょう。
ホーソーンの元になった人、モデルになった人は確実にいるのでしょうが、きっとここまで嫌なやつではないはずです。
あと、英国警察の方針や考え方はどこまで本当なんでしょう。怒られないのかしら…と心配になりました。これは後述します。

・ブロマンス…といえないこともない


ホーソーンは勝手だし、強引だし、差別主義的なところもあるけれど、ホロヴィッツの前では妙に不安そうで、ホロヴィッツを頼りにしているように見えるような場面が多く、それが何に起因するものだろうと考えていました。最後まで読んでも結局、そのあたりは、今回は解明されず仕舞いでした。
しかし、何より、ホーソーンがホロヴィッツにこだわる理由がよくわかりません。
もしかして、本当は、脚本家・小説家としてのホロヴィッツのファンなのでしょうか?
ブロマンスとか言うと、ホーソーンに盛大に眉をひそめて嫌味を言われそうですが、ホロヴィッツとホーソーンの間には、きれいごとではない奇妙な絆が形成されているのは事実です。
それも、ホロヴィッツが求めてではなくて、気付かないうちに、ホーソーン外堀を埋められて、絆が形成されていきます。
ホロヴィッツのこと大好きちゃんのホーソーン…。
10巻でシリーズ完結らしいので、最後にはホーソーンの目的も判明するのではないかなと予想しています。

・英国警察の扱い


英国の警察は、外部顧問を殺人現場に入れたりするのでしょうか。
小説のみの設定なのでしょうか。
さすがに日本ではまだ、殺人現場に、関係者以外が入り、証拠を手に取ることはできなさそうです。
そういえば、ワシントン・ポーでも英国では、警察業務や刑務所業務を整理したり、外部委託したり、という様子が描写されていました。捜査についてもそうなのでしょうか。
ワシントン・ポーでは、捜査班はもう少し、活躍しているようでした。CSIも人数がそれなりにいました。ホロヴィッツの作品では警察はほとんど完璧に無能なように、描写されます。個人的な性格や行動がはっきりわかるのもメドウズ警部くらいです。
この小説は警察小説ではなくて、探偵小説として設定されていると言うことでしょう。

・読み手の声質


口コミ評価にあったように、かなりクセのあるしゃがれ声です。最初はかなり気になりました。しかし、慣れてくると癖になる声でもあります。
ホーソーンのとぼけたような、それでいて凄みのある声、ホロヴィッツのちょっとおっちょこちょいで調子乗りの声、女性の声も演じ分けがされています。
嫌味なやつのセリフなどは、かなり趣きがあります。

・20章でドンデン返し、さらにドンデン返し


だいたいこうなるんだろうなぁという予想を軽やかに裏切ってくる展開!!が後半、続きます。
全く推理が当たりません。
ここまで当たらないのに、ホーソーンが謎を解くと、「それしかない」と感じてしまいます。冒頭にも書きましたが、緻密なのです。
きちんと小説の中に、推理の元となる描写がある、これがものすごく気持ちがいいのです。

・犯人の独白


犯人の独白が聴かせる!しみじみ聞き入ってしまう語りです。
殺人の理由に納得するわけではないけれど、集中して聞いてしまう内容です。読む方はどうぞお楽しみに…。

・ホロヴィッツはホーソンの手のひらの上


ホロヴィッツは、事件に引っ張り込まれたことはホーソーンの差金だと言う自覚が多少あるようですが、ホーソーンは何枚も上手です。
ホロヴィッツが「自分で決めた」と思っていることも、ホーソーンが糸を引いていることがあります。
恐ろしや…。
しかしどうしてそんなに、ホロヴィッツにこだわるのでしょう、ホーソーンは。
先にも挙げましたが、このシリーズ最大の謎はそこです。
例えると、「無自覚にいじめられていたクラスメートの女の子を助けてしまって、大学生で再開して友達になったけど、実はそれは彼女の策略で…」みたいな感じがあるのです。
ホーソーンはホロヴィッツに控えめにいっても、何かこだわりがあるのだと思います。

・本格ミステリ好きにおすすめ


今後が楽しみなシリーズであることは間違いありません。
本格ミステリ好きな人も、英国風皮肉とか、嫌なやつになれることができれば、最高に楽しめると思います。
最後まで読むと、妙にホーソーン&ホロヴィッツの2人が好きになってしまうはずです。


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