マガジンのカバー画像

【小説】ヴァルキーザ(ルビ付き版)

105
小説『ヴァルキーザ』本文にルビを振った版のマガジンです。(本文の内容を少し改変しています)
運営しているクリエイター

2022年5月の記事一覧

小説『ヴァルキーザ』 13章(3)

小説『ヴァルキーザ』 13章(3)

ルーア族の若者ザッカビーとディアに案内されて、冒険者たちはすぐに、テミ・ドーラに辿り着いた。そこは尾根の下側の斜面に出た岩棚に造られた、ルーア人の村である。

冒険者たちユニオン・シップの一団は、村の年老いた酋長バラゴの家に連れて行かれた。

バラゴは、一行を穏やかな面持ちで迎え入れる。

彼に促されるまま、皆が、魔法の火の燃える囲炉裏をかこんで座ると、彼は丁寧に挨拶した。

「旅人の皆さん、よく

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 13章(2)

小説『ヴァルキーザ』 13章(2)

さいわい、それは警告射撃のようで、撃たれ降ってきた矢は、冒険者たちより少し離れた地に当たった。
冒険者たちに命中はしなかった。

だが冒険者たちはすぐに応戦しようと剣を抜いて身構え、辺りを見回して襲撃者の姿を探す。

しかし、そこで運良く、そのうちの何人かは気づいた。

この高地で「矢」を用いて攻撃してくる者といえば、人間(人間型のフォノン)だ。
そして、この山のこの高度で活動するところからみて、

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 13章(1)

小説『ヴァルキーザ』 13章(1)

13. テミ・ドーラ

ユニオン・シップの一団は、北へ向かって歩いていた。

遠く眼前に鋭くそびえ立つ「氷の山」の山かげが、薄くかかる白雲の向こうで藍色に浮かび上がる。

一団は、この山をこれから登るのだ。

「氷の山」は、この辺りの独特の地形の影響により、また、大陸中の様々な場所を覆う「魔の雲」を避けるため選ばれた、旅の目的地への最短ルートだった。

山への行く手を遮る草木はほとんど無く、山から

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(7)

小説『ヴァルキーザ』 12章(7)

祭りの日がやってきた。
中央の広場に、村じゅうの人が集まっている。
若者たちはみな、祭礼用の民族衣装を着ている。

鐘楼の鐘が華々しく鳴り、村長が式辞を述べると、先を急ぐように数々のプログラムが続いた。

やがて、待っていた、若者の芸能コンテストが始まった。

人々は群衆となって、歌を謡う少女たちを広場の周りから眺めている。
その中にはもちろん、レイシルやソールズ、トーダンの姿もあった。

グラフ

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(6)

小説『ヴァルキーザ』 12章(6)

水車亭の亭主トーダンは、宿の1階の酒場でグラファーンに酒を注ぎながら、

「私はペンシュミオンとウィスリーのことが可哀想でなりません。いったい、どうにかならないものでしょうか」とこぼす。

するとグラファーンは、胸を張った。

「大丈夫ですよ、トーダンさん。ペンシュミオン君とウィスリーさんのために、私がとりなしをしてあげましょう。二人のそれぞれの親御さんの、レイシルさんとソールズさんを説得してみま

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(5)

小説『ヴァルキーザ』 12章(5)

グラファーンに手を引かれて外へ出ると、イオリィは彼に聞いた。

「レイシルさんの家に戻るの?」

「いや、少し村の様子を見て廻ろう。何かあるかもしれない」

グラファーンの横顔を見ながら、イオリィは、また、彼と歩くことに少し楽しみを覚えていた。

しかしその日、村じゅうを探検しても、これと言った事はなかった。夕暮れになったので、宿に戻ろうと二人は帰途につき始めた。

すると、グラファーンたちは、村

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(4)

小説『ヴァルキーザ』 12章(4)

会って間もなく、グラファーンは、レイシルが、あの可憐なウィスリーをこの前無視した女性だと気がついた。

ペンシュミオンの目の前だったが、グラファーンはレイシルに聞いた。

「あの、失礼ですが、レイシルさんとウィスリーさんは仲が良くなくていらっしゃるのですか?」

レイシルは少し黙考してから、答える。

「私は、ウィスリーさんの親のソールズさんとは元々仲が悪くて…そういう家柄同士なんですの」

「ソ

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(3)

小説『ヴァルキーザ』 12章(3)

その日の夜、ラフィアが旅の疲れでひどい熱を出して寝込んでしまった。
そこでアム=ガルンが看病しながら、ラフィアの病状を調べた結果、治るには十日ほどの静養が必要だと分かった。
ユニオン・シップは、トーダンの宿屋「水車亭」に、予定していた日数分以上の宿代を前払いして、ラフィアが治るまで滞在し続けることになった。

この十日間の長期休暇の間、グラファーンは村の人々にいろいろ話しかけ、情報収集がてら、旅の

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(2)

小説『ヴァルキーザ』 12章(2)

ウィスリーに案内され、ユニオン・シップの一団は首尾よく、ザマビの村に辿り着くことができた。出迎えに来た人々からの歓迎を受け、団員たちは疲れながらも笑顔でそれに応える。

ウィスリーは、ふと村人の中に一人の婦人の姿を見かけた。

ウィスリーは婦人と知り合いらしく、彼女に挨拶をしたが、婦人はつんと無視してその場を立ち去った。

「何だい、あれ?」
ラフィアが、ウィスリーを思いやってしかめ面をしてみせる

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 12章(1)

小説『ヴァルキーザ』 12章(1)

12. ザマビ大冒険の末、からくも「曠野の地下迷宮」を突破した6人の冒険者たちは、全員そろって出口から、再び地上に出ることができた。

そこは所々に森林のある、広い原野のようだ。

空は暗く、地平線の際がわずかに白んでいるので、かろうじて現在、朝に近いことが分かる。

雲はかかっていない。

時折吹く風が冷たい。

迷宮で力を使い切った冒険者たちは、体力も精神力も使い果たし、歩くのもやっとだった。

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 11章(7)

小説『ヴァルキーザ』 11章(7)

一団はようやく『永遠通行回廊』にさしかかった。
この地下迷宮最後の試練だ。

それは細く、そして長い一本道の通路だった。
通路の両側には、やはり間隔をおいて、魔法の松明の灯火がともっている。

ユニオン・シップの6人は、慎重に歩みを進めていった。
そして、そう短くない距離を歩んで数分後、通路の入口の地点に戻っていることに気がついた。

「これは…」

「魔法の力がはたらいてますね」

「本当に、名

もっとみる
小説『ヴァルキーザ』 11章(6)

小説『ヴァルキーザ』 11章(6)

冒険者たちが地下3階に降り立つと、足下の床が冷え冷えとしているように感じられた。3階は、とりわけ深い地底にあるからだろうか…

グラファーンたちは、眼の前の扉を開けて入った。そこは大きな部屋になっていて、中には細身で背の高い、黒いローブをまとった男がいた。

黒僧侶だ。

男は初老で、小さな丸眼鏡をかけている。男の横には他に、ワグル(妖鬼)とトログロダイト(穴居人)が一体ずついた。名を、グリッチと

もっとみる