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小説『ヴァルキーザ』 13章(3)

ルーア族の若者ザッカビーとディアに案内あんないされて、冒険者ぼうけんしゃたちはすぐに、テミ・ドーラに辿たどり着いた。そこは尾根おねの下側の斜面しゃめんに出た岩棚いわだなに造られた、ルーア人の村である。

冒険者たちユニオン・シップの一団は、村の年老いた酋長しゅうちょうバラゴの家に連れて行かれた。

バラゴは、一行をおだやかな面持ちでむかえ入れる。

彼にうながされるまま、皆が、魔法まほうの火の燃える囲炉裏いろりをかこんですわると、彼は丁寧ていねい挨拶あいさつした。

「旅人の皆さん、よくここまで辿り着かれました」
彼は共通語を話せた。

酋長は特製のお茶で、客をもてなした。

そして、緊張きんちょうけると彼は、大いなるいにしえの時よりがれてきた伝承でんしょうを少し語った。その後、彼は、知識を求める冒険者たちの質問に答えた。

アム=ガルンとゼラはとりわけ、太古よりの種族であるルーア族ならこそっている、大昔の世界の出来事を熱心に聞いた。

ルーアの長老バラゴは、アム=ガルンたちの質問に答えて言う。

「ルーアの民の歴史はとても古く、少なくとも大天異だいてんいと呼ばれる世界的災害の時より以前の、アプシス(愛、生命)とメディアス(夢幻法、魔法、知の力)があまねき法であった時代にさかのぼります。その時にはよく栄えておりました」

彼は少しうつ向いて目を細め、炉の火の方を見ながら話を続ける。

「この時代、精霊たちは全て互いに分けへだてなく、同胞はらからの者として付き合っていました。
みな互いを思いやり、共通の幸福に向けいそしんでました。
彼らの中に、ルーアの民のもいたのです」

ゼラがそれは原5種族プロトファイブズのことかとたずねると、酋長はうなずいて、

「そう、そのフォノン(精霊)と呼ばれる者たちを束ねた五つの種族の『盟約カベナント』によって秩序ちつじょたもたれ、世界は光輝ひかりかがやいていました。
それは『最初の世界イニシャル・オーダー』と呼ばれる黄金時代でした。
そこでは、愛(生命)と、その影(知)とだけが、全てののりでありました」

バラゴは口伝くでんを、となえるようにつぶやく。

「その下にフォノンの祖が王国リグナを建てた時、魔法使いメディアスのための、せいなる場所も建てられたのです。
それらが世界をつかさどり、平和が守られていました」

冒険者たちは静かに彼の話をいている。
酋長は、咳払せきばらいをし、

「…やがて時がち、代を重ねるにつれてフォノンたちの中で、心の法(慣習的倫理)にわり、文書による法が力を持つようになりました。それにつれて、フォノンの間で互いのものの見方・考え方に食い違いが生じ、世界に争いが起こるようになりました」

酋長は悲しげな表情になるも、なお語り続ける。

「さらには、メディアスが戦争の武器として使われるようになり、フォノンたちのそうした魔法の乱用により、天地のことわりが無きものにされました。
事態は悪化して、とうとう『夢幻戦争メディアス・ウォーズ』なる、魔法を主武器とした戦争まで起こってしまいました」

皆は固唾かたずを飲んで彼の話に聞き入る。

「…このためイニシャル・オーダーの文明は天の怒りを受け、世界は洪水こうずいによって崩壊ほうかいし、フォノンは滅亡めつぼうの危機にひんしました。
これを『大天異時代ヴァルツ・ヴァンス』と言います」

そして、酋長バラゴは、こう警鐘けいしょうを鳴らす。

「ルーア族は、その大天異の洪水を生きびた、イニシャル・オーダーの精霊たちの末裔まつえいです。
そしてこのウルス・バーンの地の原住民として、新しいフォノンのあなた方に伝えたいことがあります」

彼はうったえるような眼差まなざしで語りかけた。

「われわれと同じあやまちをり返さないよう、知力のあらわれであるメディアスを乱用しないように。また、決して再び、大天異を呼び起こした戦争をしないようにお願いしたいのです」

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