小説『ヴァルキーザ』 12章(4)
会って間もなく、グラファーンは、レイシルが、あの可憐なウィスリーをこの前無視した女性だと気がついた。
ペンシュミオンの目の前だったが、グラファーンはレイシルに聞いた。
「あの、失礼ですが、レイシルさんとウィスリーさんは仲が良くなくていらっしゃるのですか?」
レイシルは少し黙考してから、答える。
「私は、ウィスリーさんの親のソールズさんとは元々仲が悪くて…そういう家柄同士なんですの」
「ソールズさんはこの前、私たちの泊まっている宿屋に、朝早くに、お酒を飲みに来ていましたよ」
グラファーンが告げると、
「まったく、だらしのない人だわ! よくまあ、朝っぱらから!」
レイシルは咳払いをした。
「まあ、あの人は奥さんが早くお亡くなりになったので、仕方ないんでしょうけれど…」
そのとき、ペンシュミオンが口をはさんだ。
「母さん、うちだって父さんがいない片親家庭じゃないか」
すぐにレイシルがたしなめる。
「まあ、お前! 余計なことを言うんじゃないよ」
「僕はただ、母さんに早く楽になってもらいたいから…このまま一緒に住んでたら、いつまで経っても母さんのお荷物のままだろ!」
そのとき、玄関の戸を叩く音がしたので、開けてみると、エルハンストが立っていた。
「グラファーン、イオリィ、すぐ来てくれ!」
「どうした⁉︎」
「ラフィアの様子が変わった。すぐにオレと一緒に戻ってくれ」
そこでグラファーンとイオリィはあわてて、レイシルとペンシュミオンに暇乞いをし、レイシルの家を出た。
宿屋に帰ると、熱を出して寝込んでいたはずのラフィアが、けろりとした顔でベッドに座っていた。どうやら、熱が引いたらしい。
「治ったよ」
ラフィアはグラファーンに言った。
「アム=ガルンが懸命に看病してくれたおかげさ」
アム=ガルンが話す。
「白魔法などの力を使って手を尽くした甲斐がありました。ラフィアはまだ若いので、驚くほど早く回復してくれました。あとは、ラフィアが仲良しになった亭主のトーダンさんが、いろいろと気を利かせて下さったおかげですよ」
それを聞いてグラファーンはほっとした。
イオリィはエルハンストをなじった。
「人が悪いわね! エルハンスト」
「怒るなよ、イオリィ。すぐに来てほしかっただけなんだ。ラフィアのために。別にウソは言ってないだろ」
エルハンストはあわてて言いつくろった。
「ちゃんと、『ラフィアの様子は変わって』いるんだから」
「よせよ、エルハンスト」
グラファーンも呆れていた。
イオリィはまだ、ぷんぷん怒っている。
グラファーンはラフィアに声をかける。
「ともかく、熱が引いてよかったな。安心したよ。僕たちはまた、出かけるよ」
グラファーンはイオリィと一緒に、また外へ出かけていった。
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