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小説『ヴァルキーザ』 12章(2)

ウィスリーに案内され、ユニオン・シップの一団は首尾しゅびよく、ザマビの村に辿たどり着くことができた。出迎えに来た人々からの歓迎かんげいを受け、団員たちはつかれながらも笑顔でそれにこたえる。

ウィスリーは、ふと村人の中に一人の婦人ふじんの姿を見かけた。

ウィスリーは婦人と知り合いらしく、彼女に挨拶あいさつをしたが、婦人はつんと無視してその場を立ち去った。

「何だい、あれ?」
ラフィアが、ウィスリーを思いやってしかめつらをしてみせると、ウィスリーは、
「いいんです。わたし、あの人には頭が上がらないんですもの」

グラファーンがその理由を聞こうとしたが、ウィスリーは少しうつむいてだまってしまい、
そして、

「私はこれで…」
と言って、すっとその場を立ち去り、村人たちの間に分け入って、人込みにまぎれてしまった。

「ありゃ…」
エルハンストが呆気あっけにとられる。

「ところで、宿はどこでとりましょうか?」
気を取り直したアム=ガルンが団員クルーたちに聞く。

そのとき群衆ぐんしゅうの中から一人の男性がユニオン・シップ団に声をかけてきた。
「うちの宿に泊まるといいよ!」

声をかけてきたのは、トーダンという壮年そうねんの背の高い男だ。

冒険者の団員たちは、その申し出をよろこび、トーダンの後をついてゆき、彼の宿屋にしばし逗留とうりゅうして、旅の疲れを取ることにした。

トーダンはとくにラフィアとうまが合い、すぐに仲良くなった。

その翌朝、泊めてもらった宿屋の一階のロビーにいる亭主のトーダンに朝の挨拶をしに、皆より早く起きたグラファーンが階段を降りてゆくと、一人の客が朝食を取っていた。

トーダンに挨拶したグラファーンが、その客にも「ごきげんよう」と挨拶すると、

「あぁ、昨日はウィスリーがどうも…」
グラファーンは目を丸くして客にいた。

「あなたは、ウィスリーさんのご家族ですか」

するとトーダンが気をかせ、
「グラファーンさん、こちらのお客さんは、ウィスリーさんのお父さんですよ」

「どうも、ソールズと申します」

そこでグラファーンも自己紹介じこしょうかいする。
「お会いできて光栄です。私はグラファーンと申します」

二人はすぐに打ちとけて話し合った。

「グラファーンさん、昨日はウィスリーが、どうも失礼をしました」
「いえ、ソールズさん…では、あなたはあの時…」
「そばで目にしておりました。申し訳ありません。あいつは、親の私にも、ああいうつっけんどんな態度を取ることがあるのです。私の育て方が悪かったのです」
「いえ、そうしたことはよくあることですから…」
グラファーンは、ソールズをかばう。

そこにトーダンが、
「ソールズさん、ウィスリーさんはお年頃の娘さんだ。よくある事ですよ」
と、グラファーンと共にソールズをなぐさめる。

「お二人とも、ありがとう」
ソールズは礼を言った。


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