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小説『ヴァルキーザ』 12章(7)


祭りの日がやってきた。
中央の広場に、村じゅうの人が集まっている。
若者たちはみな、祭礼用の民族衣装みんぞくいしょうを着ている。

鐘楼しょうろうかね華々はなばなしく鳴り、村長が式辞しきじを述べると、先を急ぐように数々のプログラムが続いた。

やがて、待っていた、若者の芸能げいのうコンテストが始まった。

人々は群衆ぐんしゅうとなって、歌をうたう少女たちを広場の周りからながめている。
その中にはもちろん、レイシルやソールズ、トーダンの姿もあった。

グラファーンたち冒険者は村人たちに遠慮えんりょして、少し遠くの方から見ていたが、いよいよウィスリーが歌う番になると、皆でそっと近づいて、彼女に気づかれない位置から、ウィスリーの謡いを見た。

ウィスリーはとても素敵なソプラノで恋の抒情歌じょじょうかうたい上げ、観衆かんしゅう絶賛ぜっさんびた。
とてもシンプルな曲のなかに、深い心の情熱と、素朴そぼくな生活の真実が、滔々とうとうと流れ出る。
それは、生きるよろこびをすぐれて表現していた。
歌の得意なイオリィは思わず、ウィスリーの歌は自分のよりも上手だわ、と感じた。

判定の結果、ウィスリーは見事に審査員しんさいんたちから1位の評価を得た。
ウィスリーは、少女の歌謡かようの部門で優勝した。

ペンシュミオンも負けてはいなかった。
次に始まった、少年の舞踊ぶようの部門で、彼はこの村にまつわる戦争の史実を題材にした鎮魂ちんこんの舞いを、真剣におどりきった。
それは、戦いの恐怖と死の悲しみ、平和の尊さ、不戦のちかいを、時に勇壮ゆうそうに、時に平静に演じるもので、人の生の矛盾むじゅんを深く表現していた。

ペンシュミオンもまた、この部門で1等を取り、優勝となった。

ペンシュミオンとウィスリーの二人はともに並んで表彰ひょうしょうされ、皆から拍手喝采はくしゅかっさいを受けた。
そして…

拍手の鳴り止まぬうちに、不意に、ペンシュミオンの競争者だった少年たちが小笛や太鼓、弦楽器などを鳴らし、調和させて、一つの曲をかなでた。
それに合わせて、ウィスリーの競争者だった少女たちが、美声を上げて合唱を始めた。
それは村の婚礼のときに歌われる、カップルのための祝福曲だった。
みな笑って、ペンシュミオンとウィスリーを祝っている。
「結婚おめでとう!」
「みんな知ってるぜ!」
「幸せにね!」

ウィスリーは涙を浮かべて
「ありがとう、みんな…」
そのウィスリーの手を握って、ペンシュミオンは顔を赤らめ
「ウィスリーを必ず幸せにするよ!」
と皆に誓った。

グラファーンたち冒険者はそれを見届けてすぐ、皆に気づかれないうちに、そっと村をった。

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