小説『ヴァルキーザ』 13章(1)
13. テミ・ドーラ
ユニオン・シップの一団は、北へ向かって歩いていた。
遠く眼前に鋭くそびえ立つ「氷の山」の山かげが、薄くかかる白雲の向こうで藍色に浮かび上がる。
一団は、この山をこれから登るのだ。
「氷の山」は、この辺りの独特の地形の影響により、また、大陸中の様々な場所を覆う「魔の雲」を避けるため選ばれた、旅の目的地への最短ルートだった。
山への行く手を遮る草木はほとんど無く、山から降って吹きつけてくる風が冷たい。
一団の冒険者たちは固い大地を踏みしめて、歩いていった。
山のすぐ背後に、東西に渡りなだらかに広がる、アルシパール山脈の美しい稜線から差す眩い夕陽の光が、冒険者たちの顔を照らし出す。
道中、冒険者たちは幸いにも、怪物たちに出会うことなく山に辿り着き、麓のあたりでキャンプした。
その後、登山にかかることにした。
氷の山は勾配が急で、旅に慣れてきていた冒険者たちでも、登るのがつらく感じるほどだった。
山道らしいものもなく、案内人もいない、危険な登山であった。
高く登るほど、冷たい空気が体に突き刺さるように染み通り、冒険者たちを苦しめる。
また、山の天気は変わりやすく、中腹あたりにさしかかったとき、周囲は麓で見上げたときよりも、多くの厚い雲に覆われていた。
視界は非常に悪く、もしここで未知の怪物に襲われたなら、さしもの冒険者たちも生命の保証はなかっただろう。
また、冒険者たちは、落石にも警戒しなければならなかった。
先へ進む毎に空気が薄くなり、息も苦しくなってきた。
絶えずおそいかかる不安と闘いながら、冒険者たちは山を登ってゆく。
そして、長い行軍ののち、氷に覆われた山の上部にさしかかった。
辺りの地面はすべて、雪か氷に覆われている。
一面、雪のひろがる山地の、その雪を踏みしだきながら、尾根の方へ向かって歩いてゆく。
すると冒険者たちは突如、何者かの、弓矢による奇襲攻撃を受けた。
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