小説『ヴァルキーザ』 13章(2)
さいわい、それは警告射撃のようで、撃たれ降ってきた矢は、冒険者たちより少し離れた地に当たった。
冒険者たちに命中はしなかった。
だが冒険者たちはすぐに応戦しようと剣を抜いて身構え、辺りを見回して襲撃者の姿を探す。
しかし、そこで運良く、そのうちの何人かは気づいた。
この高地で「矢」を用いて攻撃してくる者といえば、人間(人間型のフォノン)だ。
そして、この山のこの高度で活動するところからみて、彼らはこの山に定住している者に違いない。
おそらくこれが、ザマビ村の人々が言っていた、このウルス・バーン大陸の先住民族の、ルーア族ではないか…
そこで、今まさに魔法を唱えようとしていたグラファーンを制止して、ゼラが 声高に異形の言葉で何かを言い放った。
魔法の呪文ではなく、普通のことばを。
つまり、ルーア語を。
遠く岩陰に潜んでいるルーア人らしき人影に向かって、彼らに聞こえるように。
すると、ややあって、潜んでいる者たちの間から一人が、同じくルーア語で返事の言葉を放ってきた。
そしてゼラとその者との間で、二言、三言、簡単な言葉のやり取りがあった。その後、ゼラは間を置かずにグラファーンたちに伝えた。
「みんな、彼らはルーア族です。ここはルーア族の領域なの。私を信じて、彼らのために武器を捨てて下さい」
そこで皆がゼラの言う通りに武器を地面に置いて、戦う意志のないことを態度で示した。
すると、岩に隠れていたすべてのルーア人が、慎重に警戒を解き、弓と矢筒を地面に置いて、こちらに姿を見せた。
人数は5人だ。
このルーア族の中から2人の者が、さらに進み出てきた。
2人とも若者で、1人は男、もう1人は女だ。
男の方が話しかけてくる。
「われらの言葉が通じる者たちに伝えよう。われらが求めに応じて武装を解いたことを、好ましく思う」
ゼラが応える。
「あなた方に敵意はない。われらは旅の者。ザマビから来た。用があって、この山を訪れた」
「分かった。わが名はザッカビー。こちらの女はディア。旅人たちよ、ここはわれらルーア族の領域だ。ここへ何をしにやってきたのか」
ゼラは、使い慣れないルーア語を苦心して使い、ザッカビーとの会話を続ける。
ゼラは、自らの知識と、冒険者たちがザマビ村で村人たちから聞き集めていた情報に基づいて、応答をした。
「この山の奥に、雪を操る魔女がいるはず。その魔女は、われわれの宝を隠したかも知れない。われわれは、彼女を追跡するためにやって来た」
すると、ザッカビーとディアはやや驚いた様子で、互いに顔を見合わせた。
「お前は、雪魔女のことを知っているのか?」
「ええ」
ディアが初めて話しかけてきた。
「なら、われらの村に来い。村の長老に会わせてやる」
「村はどこにあるか?」
「すぐ近くにある」
と、ザッカビー。
そこで、今まで冒険者たちのために通訳していたゼラが、ルーア人からの提案も皆に伝え、リーダーのグラファーンの顔を見た。
グラファーンは、他の冒険者たちから異論の出ていないことを確かめて、了承のしるしに、ゼラに頷いた。
そこでゼラは告げた。
「では、寄らせてもらいたい」
「では、案内しよう」
ザッカビーとディアは、冒険者たちを、彼らの集落に導いた。
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