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小説『ヴァルキーザ』 11章(6)

冒険者たちが地下3階に降り立つと、足下の床が冷え冷えとしているように感じられた。3階は、とりわけ深い地底にあるからだろうか…

グラファーンたちは、眼の前の扉を開けて入った。そこは大きな部屋になっていて、中には細身で背の高い、黒いローブをまとった男がいた。

黒僧侶ブラックプリーストだ。

男は初老で、小さな丸眼鏡をかけている。男の横には他に、ワグル(妖鬼)とトログロダイト(穴居人)が一体ずついた。名を、グリッチとマーグというようだ。

冒険者たちは、彼らの話を立ち聞きした。

グリッチとマーグは、
「カイトハーパー様、『永遠通行回廊えいえんつうこうかいろう』の保守点検ほしゅてんけんが終わりました」
と黒僧侶に報告した。

彼らはまだ、こちらの存在に気づいていない。

冒険者たちが近づいて行くと、カイトハーパーは、ようやくその姿に気付いた。

「何だ、お前たちは?」
カイトハーパーは怪しんだ。

僧侶のアム=ガルンは冷静に、
「いえ、私たちはただの通行人です。回廊を通して頂きたく参りました」

「ほう…」
カイトハーパーはもちろん、冒険者たちを疑ったが、自身も冷静に対応した。

この、武装した冒険者たちを上手くやり過ごさないと、人数で敵わない自分たちの命が危うくなるかもしれない。しかしそのまま通過を許せば、側にいる2人の手下に示しがつかない。

そこで…アム=ガルンが僧侶だと分かって、黒僧侶のカイトハーパーは彼の智恵ちえを試そうと思いついた。

「では、わが謎かけリドルに答えてみよ」
カイトハーパーはしばし黙考した後、謎かけ歌を詠み上げる。

それは僧侶たちが特別な儀式の際に用いる、古代教会語だった。

「いづれの者も、それをべることを望むが、誰によっても統べられたことが無く、はじめからあるものでも、作られたものでも無いものは何だ…?」

「答えは『時間』です」
アム=ガルンが即答した。

「ほう、名答だな…よかろう、正解だ」
カイトハーパーは皮肉まじりに笑んだ。
「では、約束どおり、ここを通してやろう」

ユニオン・シップの冒険者たちは、カイトハーパーたちに『永遠通行回廊』の通過を許可された。

冒険者たちは、高位の秘蹟セレニスの使い手のカイトハーパーらと戦闘におちいることなく、争いを避けて、彼らの前を通り過ぎることに成功した。

迷宮を出るまで、残る障害はあと一つ!

ユニオン・シップ団の冒険者たちは、地下迷宮ちかめいきゅうの最後の関門、『永遠通行回廊』へ向かって行った。


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