小説『ヴァルキーザ』 11章(7)
一団はようやく『永遠通行回廊』にさしかかった。
この地下迷宮最後の試練だ。
それは細く、そして長い一本道の通路だった。
通路の両側には、やはり間隔をおいて、魔法の松明の灯火がともっている。
ユニオン・シップの6人は、慎重に歩みを進めていった。
そして、そう短くない距離を歩んで数分後、通路の入口の地点に戻っていることに気がついた。
「これは…」
「魔法の力がはたらいてますね」
「本当に、名前のとおりの通路みたいだな」
そこで一団は、再び通過を試みるが、数分後、また元の地点に戻されてしまった。
そこで今度は、もと来た入口の方へ向かって出ようとするが、気がつくと通路の反対側の、出口に近い位置のただ中にいた。
「いかん、これは…」
「ええ、このままだと…」
「どちらの口から出ようとしても、出られません」
そのとき団員の冒険者たちは、先ほどカイトハーパーと会った際に、うかつにも、彼から回廊の通過方法を聞き出すのを忘れていたことに気がついた。
団員たちの額から汗が滲み出る。
「このままだと、みんな飢え死にして、この廊下の中で白骨死体になるよ」
ラフィアが警鐘を鳴らす。
「落ち着いて、きっと何か、脱出法があるはずよ」
イオリィが皆に冷静さを呼び起こす。
「みんな、知恵を出し合おう」
グラファーンが提案した。
団員たちは思いついた様々なやり方を皆で試してみた。
通路のどこかに隠し扉や隠しボタンが無いか探してみたり、通路の照明の松明を調べてみたり、思いついた魔法をかけてみたり…
だが、どのやり方も、功を奏さなかった。
グラファーンは考えに考えた後、口にした。
「カイトハーパーが言っていたことを思い出そう。何か脱出のカギになることがあったかも知れない」
「思い出してみます」
ゼラは額に指を当てた。
彼女は、天からささやく声に導かれた。
「そうだわ! 彼は謎をかけた」
「ええ、答えは『時間』でしたね」
アム=ガルンが肯く。
ゼラは閃いた。
「『時間』ということばを…たぶん、単語を数に置き換えて、その回数分、通路を出入りしてみてはどうかしら?」
「ええと、カイトハーパーの使っていた言葉は…」
エルハンストが問う。
「古代教会語です」
アム=ガルンが答える。
「古代教会語で『時間』という単語は…」
アム=ガルンの教えた単語に則って、ゼラは、その5文字からなる言葉のアルファベットを、それぞれ、アルファベット順に対応する数字に置き換えてみた。
そしてその5つの数を意識しながら、まず1字目の示す数の回だけ、通路を前に進み切ってみた。
とくに変化はないがこのまま、次に2字目の示す数だけ入口の方へ後退し、通路を進み切った。
さらに3字目の数だけ前進し、4字目の数だけ戻り、5字目の数だけ進む、という風に、廊下を行ったり来たりすると…
突然、視界が開けて、明るい、見慣れない大部屋に出た。
みな大部屋に出てきて、見回すと、部屋の隅に、上に通じる階段を見つけた。
「やった!」
グラファーンは思わず声を上げた。
ユニオン・シップ団は、ついに『永遠通行回廊」を無事脱出した!
一団は階段を上がって、迷宮の出口を抜け、地上に出た。
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