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【小説】ヴァルキーザ(ルビ付き版)

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小説『ヴァルキーザ』本文にルビを振った版のマガジンです。(本文の内容を少し改変しています)
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2022年3月の記事一覧

小説『ヴァルキーザ』9章(3)

小説『ヴァルキーザ』9章(3)

「つまり、わが国の正規の外交官には、その危険を冒させたくないのだな?」
先を見抜くかのようにワーガス議長が受け応える。

「もちろん。現場は危険すぎる。とても、普通の役人ではムリだ。十分に体力のある者でなければ。しかも、長旅ができる者でなくては」
トリスティ外相がうなずく。

「冒険に耐えられ、かつ、そこそこの交渉能力のある者を選るべきだ」
フェゼット防衛相も、そう主張する。

「私は気がすすみま

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小説『ヴァルキーザ』9章(2)

小説『ヴァルキーザ』9章(2)

それを聞いたトリスティ外務大臣は、やや怒ったが、自分を抑えて、諭すようにワーガスに言う。

「ワーガスよ、貴殿は外交というものをまるで分かっていない。いいか、互いに通じ合う価値観を共有する、という柱があってこそ諸国は同盟することができるのだ。そしてその力にあずかってはじめて国際の平和は保たれ、しこうして国の利益は守られるのだ」

「何を言う。異なる文化やならわしを持つ者と、その文化や慣習の違いを越

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小説『ヴァルキーザ』9章(1)

小説『ヴァルキーザ』9章(1)

9. 宝冠探索の勅令

王宮にて、スタンレー討伐成功の報を受けた宮廷の人々は、一様に安堵した。
宮廷の人々はユニオン・シップの労をねぎらう言葉を次々と口にした。

だが、冒険者たちは、宮廷がそれでもなお暗い雰囲気に包まれているのに気がついた。

グラファーンが恐る恐るその事情を宮臣たちに尋ねると、宰相のフルーゼルが重い口を開いた。

「じつは、わが国の至高の国宝である『自由の宝冠』が、何者かの手に

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小説『ヴァルキーザ』8章(4)

小説『ヴァルキーザ』8章(4)

グラファーンは再び魔女スタンレーに斬りかかっていった。魔女はまた「催眠」の魔法を、接近してくるグラファーンに投げかけてきたが、今度はグラファーンは少しも眠らなかった。

しかし彼は転びそうになり、床に膝をついて止まってしまった。

それを見た魔女は、不敵な笑みで顔をひきつらせ、再び「雷撃」の呪文を唱えようとグラファーンに向け、両手を天にかざした。

魔女のまさにすぐ目の前まで迫っていたグラファーン

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小説『ヴァルキーザ』8章(3)

小説『ヴァルキーザ』8章(3)

隠し階段を昇ると、そこは広大な部屋の真中だった。周りはやはり薄明るく、一階と同じ様に白く滑らかな木の壁と床が拡がっている。冒険者たちが全員、階上の床に立ち散開すると、クスクスと、何か人の笑い声のような音が、部屋の隅から聞こえてくる。

見ると、目の前の、奥の壁際に長いソファーがあり、そこに一人の若い女性が座っている。

その女性の髪は金髪で、腰にかかるまで長い。彼女は美顔で、半分透けた薄く白いロー

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小説『ヴァルキーザ』8章(2)

小説『ヴァルキーザ』8章(2)

ラフィアを新たに仲間に加えたユニオン・シップの一団は、さらに先へ歩き続け、やがて魔女スタンレーの館の前に辿り着いた。

エルハンストが大声を上げ、スタンレーを呼んだが、館の主からは応答する気配がない。そこで、一団が勝手に正門をくぐって、館の正面扉を開けると、前方に巨大な黒い獣がいた。
地獄の番犬ヘルハウンドだ!

グラファーンたちが斬り込むと、ヘルハウンドは素早い動きでこれを躱し、口から炎を吹きか

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小説『ヴァルキーザ』8章(1)

小説『ヴァルキーザ』8章(1)



8. スタンレーの館

魔女スタンレーを取締るため都を発ったユニオン・シップ団は、すぐに道中で、ラフィアという名の、石の精霊ミリヴォグ族の少年を新たに仲間に加えた。

ラフィアとの出会いの発端は、まったく偶然の出来事からだった。

イリスタリアから郊外に延びる街道を歩いていたとき、一団は、対向して道を走って来る少年とぶつかりそうになった。そのときグラファーンが少年を躱しきれず接触してしまったの

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小説『ヴァルキーザ』7章(4)

小説『ヴァルキーザ』7章(4)

そして国王は、さらに客人たちのために、配下の者に命じて詩吟を披露させて下さった。

「余興だが…」

国王が言葉を発せられるとすぐに、傍にいた侍従長のスタルファンが国王に一礼し、同じ室内にいる宮廷詩人のラーティーを呼び出した。

謁見の間の脇に控えていた宮廷詩人ラーティーは、スタルファンの呼びかけに一礼をして、室内の片隅にあった大竪琴の前に進み出た。
詩人ラーティーは、若い女性だ。

彼女は恭しく

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小説『ヴァルキーザ』7章(3)

小説『ヴァルキーザ』7章(3)

イリスタリア国王エルタンファレスⅦ世は、初見の挨拶の辞を述べられ、謁見の間で最敬礼するグラファーンたちに、優しくねぎらいのお言葉をかけて下さった。

「ここで十分にお休みになって、旅の疲れをお取りになって下さい」

ご厚意へのお礼と、王国の司祭アム=ガルンにキルカの技を解いてもらったことへのお礼を、グラファーンたちが丁寧に口上すると、国王は満足されたご様子だった。そして国王は、共に臨席されている王

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小説『ヴァルキーザ』7章(2)

小説『ヴァルキーザ』7章(2)

そしてユニオン・シップは然るべき手続きを経てイリスタリア王宮に入り、王に拝謁することになった。

「陛下の御前では、どうか、ご注意をお願いします」

謁見の間の目前で、ライクスは一行に対して、真顔になった。

王族に対して失礼な言動の無い様に、という意味だと分かり、冒険者たちは顔を引き締め、緊張してうなずいた。

拝謁にあたって、一行は予め、王国から貸与されていた礼服に着替えていたが、その他の私物

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小説『ヴァルキーザ』7章(1)

小説『ヴァルキーザ』7章(1)


7. イリスタリア

ユニオン・シップの冒険者たちは、イリスタリアにいる。星の女神エイルを守護神に崇め奉る、このイリスタリア王国の都は、ウルス・バーン大陸東部において最大の都市である。

この都市は比較的新しく造られたものであり、まだ二百年以上の歴史を持っていない。
中には王宮をはじめ、大聖堂、教会、商店、住居など数々の建物が立っており、威容を誇りつつも華やかである。

本拠の教会に帰った後、ア

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