![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80830631/rectangle_large_type_2_5dcc4c95e67538367a1911f15c6bac98.jpeg?width=800)
小説『ヴァルキーザ』8章(3)
隠し階段を昇ると、そこは広大な部屋の真中だった。周りはやはり薄明るく、一階と同じ様に白く滑らかな木の壁と床が拡がっている。冒険者たちが全員、階上の床に立ち散開すると、クスクスと、何か人の笑い声のような音が、部屋の隅から聞こえてくる。
見ると、目の前の、奥の壁際に長いソファーがあり、そこに一人の若い女性が座っている。
その女性の髪は金髪で、腰にかかるまで長い。彼女は美顔で、半分透けた薄く白いローブのような服をまとい、裾の間からは白く細い素足を見せている。腰には濃緑色のベルトを締め、胸には小さな革の胸当てを着けている。そして、上端に蛇の頭を模した飾りのついたロッド(杖)を右手に持っていた。姿から見て、魔女のようだ。
「スタンレーだな?」
エルハンストが問いかける。
女性は声を低めて薄笑いをし、ソファーからゆっくり立ち上がる。
「そうだ、私の名はスタンレー。先程はよくも番犬のティードを殺めおったな。侵入者たちめ、わが館に何をしに来た?」
「この逮捕状を見ろ」
グラファーンが、イリスタリア王国の発行した令状を左手につまんで、突き出すように掲げる。
「イリスタリア国の命令により、この領域内で許可なく魔法を行った者を取り締まる」
グラファーンはスタンレーを睨みつけた。
「つまり、お前のことだ!」
「そうか、これは面白い…」
魔女は、すでに何か呟き始めていた。
「気をつけて!」
アム=ガルンが叫ぶ。
だが、冒険者たちが身をかわすより先に、スタンレーは両腕を揃え、頭上に伸ばした。
にわかに、辺りに何か唸るような鈍い物音が響き、周りの空気が震え、耳鳴りと共に突然、強い眠気が襲ってきた。
「しまった!」
グラファーンは眠気に抗しようと試み、かろうじて成功して持ち堪えた。
だが、隣にいたイオリィは崩れるように倒れ、眠ってしまった。
エルハンストは軽く眠りかけ、持っていた武器を落としてしまった。
アム=ガルンは冷静に、強い精神力でこの呪文に耐えた。
ラフィアもこの眠気を耐え抜いた。
グラファーンは同じく魔法を用いて対抗しようとしたが、初めての魔法使いとの対戦への恐怖心から緊張し、うまく精神集中できなかった。そのため、唱えかけていた「魔法弾撃」の呪文は発動しなかった。
エルハンストは武器を床から拾い、構え直すのに時間を取られ、反撃できなかった。
アム=ガルンは、前列のグラファーンたちのために、自分の杖を大きく振るように動かして、魔女スタンレーをけん制している。
イオリィは依然として眠ったままだ。
ラフィアは、いつの間にか皆の視界から消えていた。
次に行動したのは、スタンレーのほうだった。
杖を床に投げ捨て、懐から何か黄色い小石のようなものを取り出して天にかざすと、即座に魔法を使った。「雷撃」の呪文だ。
それは、剣を抜いて魔女に斬りかかっていこうとしたグラファーンに向けられ、彼は雷電の衝撃を受けて倒れた。
グラファーンは、身体中に激痛が走り、肉が焦げるような感覚がした。ひどい怪我だが生命はまだ保っている。
同時に、エルハンストが、魔女めがけて斬りかかっていった。
イオリィは眠りから覚め、起き上がった。
アム=ガルンはグラファーンに「治癒」の魔法をかけ、すぐに彼の怪我を治した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?