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小説『ヴァルキーザ』8章(3)


かくし階段をのぼると、そこは広大な部屋の真中だった。まわりはやはりうす明るく、一階と同じ様に白くなめらかな木の壁と床がひろがっている。冒険者たちが全員、階上の床に立ち散開すると、クスクスと、何か人の笑い声のような音が、部屋のすみから聞こえてくる。

見ると、目の前の、奥の壁際かべぎわに長いソファーがあり、そこに一人の若い女性が座っている。

その女性の髪は金髪で、腰にかかるまで長い。彼女は美顔で、半分透けた薄く白いローブのような服をまとい、すその間からは白く細い素足を見せている。腰には濃緑のうりょく色のベルトを締め、胸には小さな革の胸当てを着けている。そして、上端にへびの頭を模した飾りのついたロッド(杖)を右手に持っていた。姿から見て、魔女のようだ。

「スタンレーだな?」
エルハンストが問いかける。

女性は声を低めて薄笑うすわらいをし、ソファーからゆっくり立ち上がる。

「そうだ、私の名はスタンレー。先程さきほどはよくも番犬のティードを殺めおったな。侵入者たちめ、わが館に何をしに来た?」

「この逮捕状たいほじょうを見ろ」
グラファーンが、イリスタリア王国の発行した令状れいじょうを左手につまんで、突き出すようにかかげる。

「イリスタリア国の命令により、この領域りょういき内で許可なく魔法を行った者を取りまる」

グラファーンはスタンレーをにらみつけた。
「つまり、お前のことだ!」

「そうか、これは面白い…」
魔女は、すでに何かつぶやき始めていた。

「気をつけて!」
アム=ガルンが叫ぶ。

だが、冒険者たちが身をかわすより先に、スタンレーは両腕をそろえ、頭上に伸ばした。

にわかに、辺りに何かうなるようなにぶい物音が響き、周りの空気がふるえ、耳鳴りと共に突然、強い眠気が襲ってきた。

「しまった!」
グラファーンは眠気にこうしようと試み、かろうじて成功して持ちこたえた。

だが、隣にいたイオリィは崩れるように倒れ、眠ってしまった。

エルハンストは軽く眠りかけ、持っていた武器を落としてしまった。

アム=ガルンは冷静に、強い精神力でこの呪文にえた。

ラフィアもこの眠気を耐え抜いた。

グラファーンは同じく魔法を用いて対抗しようとしたが、初めての魔法使いとの対戦への恐怖心から緊張し、うまく精神集中できなかった。そのため、唱えかけていた「魔法弾撃マジックブラスト」の呪文は発動しなかった。

エルハンストは武器を床からひろい、かまえ直すのに時間を取られ、反撃できなかった。

アム=ガルンは、前列のグラファーンたちのために、自分のつえを大きく振るように動かして、魔女スタンレーをけん制している。

イオリィは依然いぜんとして眠ったままだ。

ラフィアは、いつの間にか皆の視界から消えていた。

次に行動したのは、スタンレーのほうだった。

杖を床に投げ捨て、ふところから何か黄色い小石のようなものを取り出して天にかざすと、即座に魔法を使った。「雷撃ライトニング」の呪文だ。

それは、剣を抜いて魔女にりかかっていこうとしたグラファーンに向けられ、彼は雷電の衝撃しょうげきを受けて倒れた。

グラファーンは、身体中に激痛げきつうが走り、肉がげるような感覚がした。ひどい怪我けがだが生命はまだ保っている。

同時に、エルハンストが、魔女めがけて斬りかかっていった。

イオリィは眠りから覚め、起き上がった。

アム=ガルンはグラファーンに「治癒ヒーリング」の魔法をかけ、すぐに彼の怪我をなおした。




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