小説『ヴァルキーザ』9章(1)
9. 宝冠探索の勅令
王宮にて、スタンレー討伐成功の報を受けた宮廷の人々は、一様に安堵した。
宮廷の人々はユニオン・シップの労をねぎらう言葉を次々と口にした。
だが、冒険者たちは、宮廷がそれでもなお暗い雰囲気に包まれているのに気がついた。
グラファーンが恐る恐るその事情を宮臣たちに尋ねると、宰相のフルーゼルが重い口を開いた。
「じつは、わが国の至高の国宝である『自由の宝冠』が、何者かの手によって、隠されてしまったようなのです」
「自由の宝冠…ですか?」
「はい。自由の宝冠は、その名のとおり、国の自由を守る力を持った宝物なのです。自由を国是とするわが国にとっては、生命の次に大事な宝です。あの冠がないと、イリスタリアにかかっている『魔の雲』の影響による、国の悪化を止めるのが難しくなります」
「誰の手で隠されたかは、予想がつきそうなものですがね!」
防衛大臣のフェゼットは荒く鼻息をする。
「隣の国のマーガスのことか?」
財務大臣のリウムがにやにやすると、
「おい、大臣殿! うかつな予断はするな!」
親衛隊長のレッドが戒めるように注意する。
そしてフルーゼルが打ち明ける。
「今の段階では、誰が宝冠を隠したかは、まだ、断定できません。しかし、国の警備を掻い潜るとは、よほどの技量の者でしょう」
「宝冠が無くなってから、もう十日が経つ。はやく何とか取り戻さなければ…」
神官長のアズワイアは焦りを隠さない。
「それで、今の状況はどうだ?」
評議会議長のワーガスが訊くと、
「目下、国中の広範囲に捜索隊を派遣しているところです」
フェゼットが答える。
「では、現在わが国の捜索の目が届いていない地域はどこだ?」
「北方の国境地帯と、その周縁部です」
「外相はどう考える?」
リウムが尋ねると、
「その地域には、専用の隊を編成して派遣すべきと思います」
外務大臣のトリスティは言葉を返す。
「マーガス国の部隊がいなければいいのですが…」
グラファーンは、横にいた衛士長のライクスに、そっと訊いた。
「イリスタリアとマーガスは、仲が悪いのですか?」
その声が聞こえていたのか、レッドが咳払いして、
「わが国とマーガス国との関係が悪化しつつあるのは認めるとしても…」
彼は続けて言う。
「宝冠の捜索をやるにあたっては、マーガスとの外交的な調整が必要になるな」
そこでワーガスが提案した。
「たしかに。マーガスとの紛争に関しては、外交で、平和的に解決すべきものと私は考えます。外相たちが考えているように、価値を共にする同盟国たちの軍事力をあてにして戦争の危険をおかすべきではありません」
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