見出し画像

小説『ヴァルキーザ』8章(1)



8. スタンレーの館



魔女まじょスタンレーを取締とりしまるため都をったユニオン・シップ団は、すぐに道中で、ラフィアという名の、石の精霊せいれいミリヴォグ族の少年を新たに仲間に加えた。

ラフィアとの出会いの発端ほったんは、まったく偶然ぐうぜんの出来事からだった。

イリスタリアから郊外こうがいびる街道かいどうを歩いていたとき、一団は、対向たいこうして道を走って来る少年とぶつかりそうになった。そのときグラファーンが少年をかわしきれず接触せっしょくしてしまったのだが…

「すまなかった、」

グラファーンが謝罪しゃざいの言葉をかけたが、少年はり返らずに走り去っていく。

言葉が聞こえなかったのかな、とグラファーンはため息をついて向き直り、元のように道を歩きかけたが、

「待ちなさい! 財布さいふを返しなさい!」
アム=ガルンが少年にさけんだ。

事の次第を即座そくざさとったグラファーンは、急いで少年を追いかけ、彼をつかまえた。

「…悪かったよ」
観念した少年はラフィアと自分の名を名乗り、
すりをしたことを認め謝罪し、グラファーンに財布を返した。

事情を聞くと、ラフィアは、両親が早逝そうせいして孤児こじとなり、ギルドで仕事をして生計を立てていたそうだ。だが職場の環境が悪化して人間関係のトラブルから仕事より追い出され、路頭ろとうに迷い、生活に困り仕方なく、すりをして食いつないでいたのだという。

ラフィアは、洞窟どうくつ鉱山こうざんむ石のフォノン(精霊)ミリヴォグ族の者で、ミリヴォグはフォロスのように夜目が利き、また手先が器用なことで有名だった。ラフィアは貧者からは決して物を盗まず、自分のことを義賊ぎぞくのように思っているふしがあった。

グラファーンは、その事情を聞いてラフィアをゆるし、彼に自分たちの団に加わらないかとさそった。

その提案ていあんにユニオン・シップの他の団員たちはみな仰天ぎょうてんしたが、すぐにアム=ガルンが、

「わかりました、私たちと一緒にいれば、食べるのに困ることはありません。今回の私たちの使命ミッションに参加して下さるだけでも構いません。もし、団に加入して下さるなら、お礼のお金を差し上げることをあなたに約束します。どうです、ラフィア?」

ラフィアはうなずいた。

「分かったよ、赦してくれたお礼に、みんなと働かせてもらえないかな?」

「決まりね!」
イオリィが微笑ほほえむ。

「よろしくな」
エルハンストが握手あくしゅのために手を差し出す。

その手を握りながら、ラフィアは礼を言った。
「ありがとう、みんな」

グラファーンは温かい目でそれを見守りながら思った。世界をおおう「魔の雲デビルクラウド」の影響で、人々の間に不和と隷従れいじゅうが生じた。そして数々の貧困と生活苦もまた生じた。この少年、ラフィアもまた、それによる数多くの犠牲者ぎせいしゃの一人だったのだ、と。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?