小説『ヴァルキーザ』8章(2)
ラフィアを新たに仲間に加えたユニオン・シップの一団は、さらに先へ歩き続け、やがて魔女スタンレーの館の前に辿り着いた。
エルハンストが大声を上げ、スタンレーを呼んだが、館の主からは応答する気配がない。そこで、一団が勝手に正門をくぐって、館の正面扉を開けると、前方に巨大な黒い獣がいた。
地獄の番犬ヘルハウンドだ!
グラファーンたちが斬り込むと、ヘルハウンドは素早い動きでこれを躱し、口から炎を吹きかけてきた。エルハンストが火傷したが、幸いケガは軽い程度のものだった。
イオリィが、負けじと素早く反撃すると、番犬は打たれて苦しみの声を上げ、動きが鈍った。グラファーンとエルハンストが次々に打ちかかると、ヘルハウンドは痛みに悶えて叫びを上げ、倒れ死んだ。
一団が先へ進むと、広間に出た。そこには、時が止まったかのように不動となった人間たちがいた。
人々は皆それぞれ、まるで彫像のように台座の上に置かれている。
グラファーンたちは、これを見てぎょっとしたが、アム=ガルンはそれらを観察した後、仲間たちに話す。
「これらは、スタンレーによってさらわれ、魔法により囚われた人々です」
「じゃあ、これが、例の、魔法の実験台になった人たちだな? 宮廷で話を聞いた…」
「そのようです」
「死んでいるのか?」
エルハンストが訊く。
「いえ、生きています。時間を盗られ、ここに留められているだけです」
アム=ガルンは答える。
「スタンレーが死ぬか、自らすすんでこの魔法を解けば、この人たちは元のように動けるようになります」
そこからさらに一団は先へ進み、二手に分かれた廊下のうちの右の方を行き、奥に部屋を見つけた。
部屋には鍵がかかっていたが、ラフィアが巧みな職人技で錠をこじ開け、一団は部屋に侵入できた。
部屋の中には地下に通じる階段があり、降りると、通路が延びていた。一本道のその地下通路を通ると、再び一階に上がる昇り階段があり、昇ると、四方を壁に囲まれた、一階の孤立した小部屋に出た。
この部屋は、どうも館の中心にあるらしい。部屋の隅々をラフィアがよく調べると、壁の中に、上階に通じる隠し階段が埋め込まれていることが分かった。
ラフィアは、それを引き出し、昇ってゆく。
グラファーン、イオリィ、エルハンスト、アム=ガルンも、あわててラフィアについて行き、隠し階段を昇って、二階へ上がって行った。
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