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小説『ヴァルキーザ』9章(3)



「つまり、わが国の正規せいきの外交官には、その危険をおかさせたくないのだな?」
先を見抜くかのようにワーガス議長が受け応える。

「もちろん。現場は危険すぎる。とても、普通の役人ではムリだ。十分に体力のある者でなければ。しかも、長旅ができる者でなくては」
トリスティ外相がうなずく。

「冒険にえられ、かつ、そこそこの交渉能力こうしょうのうりょくのある者をるべきだ」
フェゼット防衛相も、そう主張する。

「私は気がすすみませんな。だが、やるんなら、なるべく、その命を失っても王国に損失の少ない人物をるんですな」
リウム財相は皮肉まじりの口調くちょうだ。

「だが、果たしてそんな人物が、居るだろうか?」
アズワイア神官長が疑問をていする。

そのとき、
「私めでよろしければ、そのお役目に志願しがんさせて頂きたく存じます」
アム=ガルンが立ち上がった。

皆の注目が彼に集まる。宮廷内の一同が、驚きながらも、しんとしている。

しかし王がうなずき、それを見たスタルファン侍従長が話しかけた。
「アム司祭、引き受けていただけるか」

アム=ガルンは、しっかりうなずいた。

アズワイアは会釈えしゃくし、
「アム=ガルン、そなたは国教会こっきょうかいに仕えるいやし手であり、様々なセレニス(白魔法)と技術を持つ者である。まだ若いそなたなら、この任に耐えられるかもしれぬ」
そして王の方を向き、
「この者の能力は、教会が保証致します」

そこでトリスティが、
「ならば事前に、外交に必要な 訓練レクチャーをこの者にしても、私めはかまいませんが」

フルーゼル宰相さいしょうも、了解のしるしにうなずく。
そして宰相は、王にうかがいを立てた。

「陛下、つつしんで、アム司祭をこの場で、マーガス国への特使に指名させて頂きたく、お願い申し上げます」

「よきにはからえ」
王は答えておおせになった。

「はっ」
フルーゼルは王に深々と礼をする。

「あとは、アム司祭の警護者けいごしゃの人選だが…。彼を一人でる訳にはいかないでしょう」
ワーガスが口をきると、

「警護者は、できるだけ、同じく冒険に慣れた者で、わが国に枢要すうような人物でなく、アム司祭の知己ちきで気が通じる者たちが適していると思いますが…」
フェゼットが応じた。

そのとき、"たまたま"その場にいたユニオン・シップの団員たちに、おもむろに、皆の視線が集まった。

グラファーンは、皆の注目を痛いほど意識し、固くなったが、すぐに立ち上がり、
「私がおつといたします」
と口上した。

イオリィ、エルハンスト、ラフィアも、同じく志願した。

それを受けて、フルーゼルが遠慮えんりょがちに申し出た。
「もしよろしければ、宝冠ほうかん探索たんさくねての旅として頂きたいのですが…。この件の一切の責任は、宰相である私が負いますので」

ユニオン・シップの面々はうなずいた。

そこで、宰相は王にこの件の裁可さいかを願い出た。
王は、うなずかれた。

そして、
王はおごそかに、ユニオン・シップに使命を告げられた。
「そなた達よ、何者かによって隠された、わが国の国宝である『自由の宝冠』を取り戻してほしい」

また、王は、ユニオン・シップにもうひとつの使命を与えられた。
「そなた達よ、また、マーガス国にわが国よりの親書しんしょを手渡し、わが国が同国との平和を望んでいることを伝えて来てほしい」

ユニオン・シップは正式な儀礼にのっとって、この勅令ちょくれいに従い、宝冠を探索し、また隣国へ親書を届けることを王に約束した。

その数日後、
「これは、イリスタリア王国の発行する文書、マーガス国のタイモス王への親書である。わが国には、周辺国に対し、こうするの意志の無き事を伝えてもらいたい」
王は親書を、侍従長を介してアム=ガルンに手渡して下さった。

ユニオン・シップは王宮を出て、レッド親衛隊長の案内で、国境のエルゴッド城に向かった。




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