小説『ヴァルキーザ』8章(4)

グラファーンは再び魔女まじょスタンレーに斬きりかかっていった。魔女はまた「催眠ヒプノシス」の魔法を、接近せっきんしてくるグラファーンに投げかけてきたが、今度はグラファーンは少しも眠ねむらなかった。

しかし彼は転びそうになり、床に膝ひざをついて止まってしまった。

それを見た魔女は、不敵ふてきな笑えみで顔をひきつらせ、再び「雷撃ライトニング」の呪文じゅもんを唱となえようとグラファーンに向け、両手を天にかざした。

魔女のまさにすぐ目の前まで迫せまっていたグラファーンは、思わず両腕りょううでで顔を庇かばおうとする。

「グラファーン！！」
イオリィとエルハンストが同時に叫さけぶ。

突然、魔女スタンレーの後ろの物陰ものかげから小さな人影ひとかげがあらわれ、背後から魔女の手を打ち、彼女が握っていた黄色い小石を叩たたき落とした。

魔女は、「雷撃」の呪文の発動はつどうに必要な道具(触媒しょくばい)を失い、魔法を完成して発動させることができなかった。
彼女は顔を青ざめ、まとわりついたその人影を払い退けようとする。

その隙すきを逃さず、エルハンストが魔女に駆け寄って、飛び蹴げりを加える。

体勢を崩くずした魔女に、イオリィがナイフで切りつける。

「ぎゃああああぁっっっっ」
鮮血せんけつを迸ほとばしらせ、スタンレーが絶叫ぜっきょうする。

イオリィは倒れかけたスタンレーの喉のどをナイフでかき切り、とどめを刺さした。
スタンレーは死んだ。

「ラフィア！」
グラファーンが声を上げた。

そう、スタンレーを背後から襲った人影は、先に物陰に隠れていた少年ラフィアだった。

スタンレーがグラファーンに注意している隙に、魔女の背後に回っていたのだった。

「ありがとう、ラフィア」
グラファーンが礼を言うと、

「よしてくれよ、グラファーン。おれたち、組合の仲間同士だろ」
ラフィアはグラファーンを見上げ、くせのある笑みを浮かべた。

そして辛からくも魔女を斥しりぞけた冒険者たちは、彼女の魔法に囚とらわれて動けなくなっていた人々を助け出し、主あるじのいなくなった館やかたを去った。冒険者たちは王宮に報告するために、イリスタリアの都に帰っていった。