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小説『ヴァルキーザ』7章(4)

そして国王は、さらに客人たちのために、配下の者に命じて詩吟しぎん披露ひろうさせて下さった。

余興よきょうだが…」

国王が言葉を発せられるとすぐに、そばにいた侍従長じじゅうちょうのスタルファンが国王に一礼し、同じ室内にいる宮廷詩人きゅうていしじんのラーティーを呼び出した。

謁見えっけんの間のわきひかえていた宮廷詩人ラーティーは、スタルファンの呼びかけに一礼をして、室内の片隅にあった大竪琴おおたてごとの前に進み出た。
詩人ラーティーは、若い女性だ。

彼女はうやうやしく、王族にお辞儀じぎして、次にグラファーンたちにお辞儀すると、その大竪琴を、詩をうたいながらかなで始めた。


大いなる昔に女戦士アイリスにより建てられ、
星の女神エイルより守護されし国、
われらの偉大なるエルタンファレス王家に
受け継がれたイリスタリアの国は、
炎の剣によって打ち立てられた不滅の国。
アイリスは戦を止めるの誓いをもって、
賢者アルブローグにたすけられ、
ウィンスタフラーの地で王となり、
われらの国を創始せり。
その建国を見守ったのは、
アルナディアのロードマスターのイルザーム。
彼の立ち会いの下、
イリスタリアはアルナディアとの約束により、
アルナディアの正当なる後継者と認められ、
その印にアルナディアに関わり、
元なる盟約めいやくを結んだ五種族の末裔まつえいたる妖精
イムルシフより、
「自由の宝冠」を授けられた。
エイル神はこれを祝福せり。
宝冠を授けるにあたり、
イムルシフはアイリスに忠告す。
自由の宝冠を持つ者は、世界にあまねく存在する、
自由の力にあずかると言う。
故に決して他人にこれをゆずるなかれ、と。
これを聴きしアイリスは、
宝冠を王国の至宝として守れり。
またアイリスは、アルナディアの遺産たる、
その時代にロードマスターの統べる
「光の道(シャイニング・ロード)」を管理する権限を与えられり。
エイル神に守られたイリスタリアの王統と、
自由の宝冠と、光の道によって、
イリスタリアは栄えてある。
われらはこれを神々に感謝し、
われらが子孫のために、
この国が永代続き存えることを祈願する。


この謁見には、イリスタリア国内の他の身分の人々も列席していた。諸侯、大貴族、騎士、大司教、司教、修道院長、判官、猟林官りょうりんかん城代じょうだい、地方の吏員りいんなどがいた。

彼らも式に従って、王族に起立のまま礼をし、
挨拶し「国王は栄光とともにあり」と唱えた。

式が終わると、グラファーンたちユニオン・シップは辞去の挨拶をし、王族たちの去った後に、謁見の間を後にして宿所に戻った。

一泊した後、ユニオン・シップは旅支度たびじたくを整え、スタンレーの館へ向かった。


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