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優しさは教養でした

あなたの傍に優しい人はいますか?

その人は、どれくらい優しいですか?

もしも、その人がどこまでも優しいのであれば、それは教養のある人です。

そんなことに、昨日の朝、ふと気づいたのです。



一人芝居を書く

私は今年の夏から脚本の勉強会に参加しています。その勉強会の主催者は、脚本家で演出家で映画監督です。ですから書くことのすぐそばに、創ることや演じることがあります。

勉強会の教材はモノローグ、一人芝居です。暫くすると、その勉強会は、参加者自身が1400文字の一人芝居を書くというフェーズへと移っていきました。そして私も『遺品整理士』という作品を書きました。

タイトルの遺品整理士は、授業中、珍しい職業を問われ、苦し紛れに絞り出した職業でした。それを知ったのは、家具を処分した際、役所に紹介された会社の方が手渡された名刺に記されていたからでした。そして、知らない職業に関する物語を書く、そんな経験をしました。



書くとは知ること

知らないことは書けませんし、知らないことから物語は生まれません。

「遺品整理士」を書いたとき、その職業について調べました。けれど、書くことと物語とは別物です。説明はできても、物語には空間があります。登場人物には、その人だけが知る出来事があり、その人だけが知る時間があり、その人にしか知りえない真実があります。そんなことを想像しながら私の処女作は何とか形になりました。

そして12月上旬、舞台を観に行きました。テーマは、母と娘の間に起こる虐待というシリアスなものです。その作品の脚本と演出は、勉強会の先生でした。

授業では、常に、物語に矛盾はないかと問われます。そんな細やかな指摘に沿って言葉を探していくと、目の前の作品に息が吹き込まれ、血が通い、生きた人間の言葉が出てくる、そんな変化を幾度も目にしました。ですから、どんなテーマであったとしても、きっとそこには優しさが描かれている、そんな確信のようなものを持って、私はその舞台を観にいきました。



物語と現実と

それは、思っていた通り、素晴らしい舞台で、セリフの一つ一つに魂が込められていました。舞台で繰り広げられるのは、痛々しく悲しい物語です。けれどそこには、救いと希望も描かれていました。

生まれた時から母親に虐待されてきた少女。母が娘を虐待するという関係は、やがて娘を取り巻く人間関係へ波及していきます。それから、その心の傷は、幼い日の自分自身へも向かっていくのです。それは、まるで激しく燃え盛る火の中へ、行くなと止める人の手を振り払い、飛び込むようなものです。抑えきれない衝動が、生身の人を焼き尽くす激しさで襲ってきます。

ところが、その衝動の向こう側には、触れることのできない深くて暗い孤独が居座っているのです。

虐待を受けた少女は、何気ない日常で、ふいにその2つの世界に引っ張り込まれます。


その舞台を観てから一週間後のことでした。

私は衝撃を覚えたのです。

なぜなら、あの舞台の少女が、私の直ぐ近くに居たのですから。



学んで見えてくるもの

人は知らないことには冷淡でいられます。
人は知らないことに心を動かされません。

私は数年前、一人の女性から、かつて母親から受けた酷い虐待の話しを聞きました。その時、私は一体なんと答えたのか、もう覚えていないのです。

その人が語る一言一言があまりに衝撃的で、その言葉の意味さえ理解できなかったのです。だから、聞き返すことをためらいました。

それから、私はその人に向かって、自分の苦しかった体験を話したのです。

いったいどういうつもりだったのか、今となっては驚くばかりです。

私はその人の絞り出すような話しを、自分が体験した苦労話と並べて話したのです。

それだけではありません。私はその人とそんな風に話せたことで、分かりあえたのだと思ったのです。私たちは分かりあえたのだと。

この夏、脚本の勉強会に参加して、一人芝居を書くという経験をしなかったなら、私は彼女との会話をこんなふうに思い返すことは無かったはずです。

想像する、それは知らなければできないことです。想像できる、それは知っている人だからこそ、そこから先に物語を紡げるのです。



教養は優しさ

学ぶとは、知識を身に着けること。
学ぶとは、知らなかったことを知ること。
学ぶとは、光の当たらない場所が見えるようになること。

そうして学び、誰かが暗闇に置かれていたのなら、その場所に光を照らし、それをもう一人の誰かと共有する。それを共有できたとき、それは教養になります。

教養を身に着ける、それは誰かと手を繋ぐことです。
教養を身に着ける、それは光の当たらない場所が、ここは暗いと誰かと語り合うことです。
教養を身に着ける、それは、優しくなることです。



結びに

一つ学ぶたびに、見えることが増えます。
一つ学ぶたびに、気づけるようになります。

分かったつもりで観ていた舞台でした。

その舞台から離れて、一週間も過ぎて、私は自分がその人を傷つけたのだということに思い至ったのです。

教養とは学ぶことではありません。人は知らないことには冷淡でいられますし、知らないことには心を動かされません。学んだ先に気づきを得て、知らないことをまだ知らないと認識して、自ら知ろうとすること。それを誰かと共有できた時、人は初めて人の痛みが分かるのだと思うのです。

教養とは、想像する力を身に着けた優しさでした。




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