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「死にたい」と言う生徒・実際に自殺を試みた生徒

生徒から「死にたい」と言われたことは何度もある。

休み時間などに冗談のような雰囲気で言われたこともあるし、ふたりきりのときに切羽詰まった様子で言われたこともある。

「死ぬ」という言葉は口にするだけで勇気が要る。ましてや学校の先生に対して打ち明けるのであれば、なおさらだ。

そのため、どのようなシチュエーションで言われたとしても、なんとかしてほしいと思っている生徒の気持ちを軽視せず、真剣に受け止めて話を聞いていく。

とはいえ、引き込まれないよう、感情移入せず、客観視して冷静に対応することも忘れてはならない。

生徒から「死にたい」と言われ、授業とクラス以外の業務(分掌や部活や会議や事務作業など)をすべて放り出し、夜までかけて、土日も使って、話を聞き続けたこともある。



なお、「死にたい」と聞くとすぐに家族へ連絡する教員もいるが、わたしはそれをしない。

まだ生活の基盤が家族にある高校生にとって、家族が動機となっているケースや、家族にだけは知られたくないと切望されるケースも多い。

そのため家族に連絡をすることで、重大な事柄(たとえば家族による虐待など)を見落とすかもしれないし、生徒をさらに傷つけるかもしれないし、生徒からの信頼を裏切るかもしれない。

わたしは家族へ連絡する際、必ず本人の了承を得るようにしているが、大抵は拒否されるため、そのまま教員と生徒間の共有にとどまることも実はよくある。



ただ、これはわたしのやりかたであり、正解ではない。

生徒よりも保護者を優先したり、責任問題を意識したりすれば、対応は大きく変わるだろう。

もし保護者が「死にたい」と言っていたという事実を知れば、クレームに繋がるかもしれない。保護者が心配するのは当然なので、真っ当なクレームである。

それでもわたしは保護者より生徒の意志を尊重したい。生徒と築いた信頼関係以上に大切なものはないと思っているからだ。

もう一度繰り返すが、あくまでもこれはわたしのやりかたであり、正解ではない。



さて、ここからは経験談を書く。

「死にたい」と言った生徒が実際に自殺を試みたケースは、いまのところない。

すでに自殺未遂をした生徒が「死にたかった」と言ったケースはあるが、生徒から「死にたい」と言われたあと、そのまま行動を起こしたケースは、いまのところない。

このことから、「死にたい」と口にする生徒の深刻度が低いなどと結論づけるつもりは、まったくない。

そういう固定概念は、勇気を出して「死にたい」と口にした本人の気持ちを軽視することに繋がるからだ。

ただ、「死にたい」と口にしてくれることで、何らかの対応が取れるとまではいえるだろう。



過去に自殺を試みた生徒は4人いる。

鎮痛剤を大量に服薬した生徒。
マンションのベランダから飛び降りた生徒。
歩道橋から飛び降りた生徒。
首を吊った生徒。

わたしが関わった生徒だと以上の4人が、自殺を試みた。



4人はいずれも精神疾患があり、1〜3人目は境界性パーソナリティ障害、4人目は統合失調症だった。

幸い、4人とも未遂にとどまり、命を失うことはなかった。これは本当に、本当に、幸いである。

そして注目すべき点は、自殺を試みた4人からは事前に「死にたい」と言われなかった、ということにある。



「言われなかったのだから仕方ない」「病気なのだから仕方ない」と開き直ることはどうしてもできない。

気づきたかった。

振り返ると、境界性パーソナリティ障害の生徒3人は、それなりのきっかけや兆候があった。気づける余地はあったのだ。

一方、統合失調症の生徒は、突発的だった。本人も急に「死ね」という幻聴が聞こえ、頭が真っ白になったまま声に従ったと言っていた。気づける余地はたぶんなかった。でも、表情などから症状が重症化したことに気づいていれば、強制的に病院へ連れていき、入院できていたかもしれない。そういう意味では、やはり気づける余地はあったのだ。

本当に、気づきたかった。

4人とも、教員という立場以前に、本人と関わりを持っていた者として、気づけなかったことが心から悔やまれる。



これからもきっと命に関わる事態は起きるだろう。

生徒から「死にたい」と言われたら、どのようなシチュエーションでも軽視せず、真剣且つ冷静に向き合う。その際の対応は教員次第だが、わたしは生徒の意志を最も尊重する。

また、普段から「死にたい」と言えるような信頼関係を築いたり、日々の様子から些細な変化に気づいたりして、突発的な自殺を抑止するよう心がける。特に統合失調症やうつ病などは突発性と完遂率が高いため、注意深く様子を見る。

ちょうど今の時期。
こんなふうに雨が降る日に、先ほど書いたうちのひとつのケースが起きた。

きっとこれからもわたしは毎年思い出し、同じことを意識していくのだろう。


*鎮痛剤を飲んだ生徒のことは以前こちらに書いた。


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