#掌編小説
掌編小説「1984年のサンセットサイダー」
夕方のニュース番組は、ロサンゼルスオリンピックの様子を報道していた。
真面目そうな三十代前半くらいの女性アナウンサーが、今日は日本の誰がどの競技で何色のメダルを獲得し、どんな感想を述べたかといった客観的な事実を簡潔に伝えていた。
僕はテレビの向こうの彼女が読み上げる選手の名前を誰一人として知らなかったから、特にこれといった興味を抱かなかったし、どんな感慨も覚えなかった。
僕が知ってい
ショートストーリー「人魚狩り」
「人魚を狩りに行こう」
突然ルームメイトにそんなことを言われたら、誰だって戸惑うに違いない。
実際、おれもちゃんと戸惑ったし、「何だって?」とちゃんと訊き返した。
「だから、人魚狩りだよ」とルームメイトは少し口を尖らせながら、潮干狩りみたいなニュアンスで言った。
「人魚を狩る?」おれは首を捻った。「そもそも人魚って実在するのか?」
「おいおい」ルームメイトは呆れたように笑った。「実在しないも
【ショートショート】カーネル・サンダースの呪い
〈先日投稿した、短編小説『少年たちの秘密基地』でカットしたシーンを編集して、ショートショートに仕上げたものです〉
僕らの秘密基地は小さな森の中にあって、白い布に囲まれた円筒の形をしている。
使わなくったシーツを利用して、木々の間を輪の形に覆っているのだ。
控えめな蝉の鳴き声が、至る所から聞こえていた。
放課後、僕ら-僕とマナブとシゲチーとよっちゃんと掛布の5人-は秘密基地内で、次にど
【ショートショート】コーヒーショップの男たち
ティムは五十代半ば、白髪混じりの恰幅のいい男で、私に優先して仕事を回してくれる重要な顧客の一人だ。
我々はいつものように通い慣れたコーヒーショップの店内で、いつものようにビジネスの話をしていた。
サンフランシスコ、ノースビーチの一角にあるイタリア風の古い店だ。
ティムはカプチーノを一口飲んだ。
そしてジャケットから一枚の写真を取り出し、テーブル越しにそれを私に寄越した。「この男だ」
『寂寥感の忘れ方』(掌編小説)
「じゃあね〜っ、紗良っ」
「また明日ね〜」
「うんっ、バイバイ〜」
志穂と成美と別れた後、私は一人自転車を走らせていた。
ソフトボール部の練習が終わり、家路を走る頃には、外はすっかり暗くなっている。
5月になったばかりのこの季節、穏やかな夜風が涼しく、心地良い。
でも、長い夜道を一人で走るのは、ちょっぴり寂しさを感じることもあったりする。
私の通う高校は早良区にあって、私の自宅は