小泉 雨音(こいずみ うおん)

作詞家。作家。言葉を紡ぐのが好き。

小泉 雨音(こいずみ うおん)

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記事一覧

月の壁 ~ミナコの月 13

■彼女 「結果的に別れた彼のこと、 嫌いじゃなかったし、 むしろ、大好きだった。 このまま一生、 この人と一緒にいてもいいって思ってたの。 実際、彼と一…

月の壁 ~ミナコの月 12

■知らない。 「ミナコに、おめでとうって言ってもらえて、嬉しい」 しばしの沈黙のあと、 ユリは、こぼれた涙を、指でそっとぬぐいながらそう言うと、 ふっと<<いつも…

月の壁 ~ミナコの月 11

■…結婚? 「あのね、ミナコ、 私、 実は、 結婚することにしたの。」 ユリは、そう言ったあと、 ほんのり桜色をした、 艶やかな唇を静かに閉じた。 …

月の壁 ~ミナコの月 10

■告白。 ネイリストのユリにネイルを施してもらった後は 定例の食事会。 今夜は、タイとベトナム料理が中心の アジアンエスニックなレストラン。 寒いからこそ…

月の壁 ~ミナコの月 9 

■贅沢な時間。 「ごめんね~、ミナコ、 わたし、LINEの返事、 送ったつもりになってた~ …でね、 おととい、ミナコからの予約メッセージが 届いたのを…

月の壁 ~ミナコの月 8 

■葉書と、ネイル。 月曜日の朝、 ミナコは、 マンションを出て、駅へ行く途中に設置されている 赤い郵便ポストに、 『同窓会・出席』の返信葉書を投函した。 …

月の壁 ~ミナコの月 7

■印象。 御「出席」させていただきます。 どうぞよろしくお願いします。 青木ミナコ ミナコは、使い慣れたペンで、同窓会の葉書に書いた。 手に持つ…

月の壁 ~ミナコの月 6

■私は、私。 同窓会の案内は、 今までも、時々、来ていたけれど、 なんやかんや仕事でバタバタしてて、 返信も、いつもこんな感じでほったらかして、 気…

月の壁 ~ミナコの月 5 

■静かな夕食。 ユリと食事をしたあの夜、 同窓会の案内が届いた日から 一週間が経った。 年初の挨拶だの、 年間の予算組、新たなプロジェクトの立ち上げで、 朝起…

月の壁 ~ミナコの月 4

■17年。 高校の同窓会の案内状が届いた翌日、 ミナコはいつものように、いつもの電車で出勤した。 1月の、冷たく乾いた風が、 ミナコの白いコートの裾を、 幾…

アナタガイテモ イナクテモ。

星が星として 夜空を流れていくように 雲が雲として 形を変えていくように 空気のように漂っていて ただそこにあって  意識もしない 気づきもしない 当たり前にある…

月の壁 ~ミナコの月 3

■葉書 月がすっかり西に沈み、 街灯の明るさで、星のあかりも消された頃、 ミナコは自宅マンションに戻っていた。 エントランスをくぐり、郵便受けを確認すると…

月の壁 ~ミナコの月 2

■記憶のペイジ。 女性の私から見ても、ユリは可愛い。 それも、幼稚な可愛らしさじゃなくて、 なんというか、 こう、ちゃんと大人なんだけど、 ちょっとした…

月の壁 ~ミナコの月 1

■ 約束。 「ねぇ、あのさ、ミナコ、 ほら、この前さ、 一緒に観に行こうって言ってた映画、あったでしょ。 あれさ、 ちょっと、ワケあって、別な人と行くことになっ…

おかえりなさい。~HUG~

わたしは なにを 急いでたんだろう? わたしは なにを したかったんだろう? 朝、目が覚めて 昨日の私は どこにもいない。 昨日の私を探しても 今日の私は 昨日にい…

「今」が、ある だけ。

先のことなんて わからなくていい。 先になったら それは 「今」になるから。 今、「今」が あるだけ。 今、「今」が あるだけ。 今、「今」が あるだけ。 今、「…

月の壁 ~ミナコの月 13

月の壁 ~ミナコの月 13

■彼女

「結果的に別れた彼のこと、
嫌いじゃなかったし、
むしろ、大好きだった。




このまま一生、
この人と一緒にいてもいいって思ってたの。



実際、彼と一緒にいるなら、
結婚とか、してもしなくてもいいかも…って
思ってた。」






ユリは、しばしの沈黙のあと、


ミナコに言わないままにしていた
元彼への思いを

自分の中から探り出すかのように
少しずつ

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月の壁 ~ミナコの月 12

月の壁 ~ミナコの月 12

■知らない。

「ミナコに、おめでとうって言ってもらえて、嬉しい」


しばしの沈黙のあと、
ユリは、こぼれた涙を、指でそっとぬぐいながらそう言うと、
ふっと<<いつもの笑顔>>になり、ミナコを見つめた。




ユリの瞳が、キラッと輝いた。





ミナコは、見慣れたはずの
ユリの<<いつもの笑顔>>に、はっと目を奪われた。




長年、一緒にいる中で、今のユリが一番、

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月の壁 ~ミナコの月 11

月の壁 ~ミナコの月 11

■…結婚?

「あのね、ミナコ、

私、

実は、
結婚することにしたの。」




ユリは、そう言ったあと、
ほんのり桜色をした、
艶やかな唇を静かに閉じた。






ユリのあまりにも突然な告白に、
ミナコの時間が、止まった。





<<あのね、ミナコ、

私、

実は、
結婚することにしたの。>>






何度も寄せては返す波のように、

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月の壁 ~ミナコの月 10

月の壁 ~ミナコの月 10

■告白。

ネイリストのユリにネイルを施してもらった後は
定例の食事会。



今夜は、タイとベトナム料理が中心の
アジアンエスニックなレストラン。



寒いからこそ?
あえて、ちょっと辛めの(ホットな)
アジアンエスニックもいいよね、と、
ミナコとユリ、二人の意見が一致した。




駅に直結した、新しいビルの中にありながら、
どこかの細い路地を抜けたところにあるような、
隠れ家

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月の壁 ~ミナコの月 9 

月の壁 ~ミナコの月 9 

■贅沢な時間。



「ごめんね~、ミナコ、
わたし、LINEの返事、
送ったつもりになってた~




…でね、

おととい、ミナコからの予約メッセージが
届いたのを見て、



そのとき気付いたの~
もう、ほんっとうにごめん!」




ユリは、ミナコがネイルサロンに入ってくるなり


入り口にある、
カウンターの向こう側から、
ミナコの方に急ぎ足でかけより、


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月の壁 ~ミナコの月 8 

月の壁 ~ミナコの月 8 

■葉書と、ネイル。




月曜日の朝、

ミナコは、
マンションを出て、駅へ行く途中に設置されている
赤い郵便ポストに、
『同窓会・出席』の返信葉書を投函した。




パールホワイトの地色に
クリアに輝くラインストーンをアクセントに散りばめた
ネイルの指先が、
ステンレスシルバーの投函口にカツンと触れて、

一瞬、ひんやりとした。





葉書は、ミナコの指を離れ

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月の壁 ~ミナコの月 7

月の壁 ~ミナコの月 7

■印象。



御「出席」させていただきます。
どうぞよろしくお願いします。

青木ミナコ




ミナコは、使い慣れたペンで、同窓会の葉書に書いた。




手に持つと、ちょっと重たいけれど、
実際に書き始めると、その重さがあるから書きやすくて、
綺麗に文字が書ける、
ずっと使い続けてきた愛用のペン。




仕事での大事な契約事のサインや、
今、住んでいるマンション契約

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月の壁 ~ミナコの月 6

月の壁 ~ミナコの月 6

■私は、私。



同窓会の案内は、
今までも、時々、来ていたけれど、


なんやかんや仕事でバタバタしてて、
返信も、いつもこんな感じでほったらかして、


気付いたら、いつも、終わってた。







…というか、
正直、
そこまで行きたくなかったから


うっかり忘れたついでに
行かないことを選択してきた。






青木ミナコ。39歳、

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月の壁 ~ミナコの月 5 

月の壁 ~ミナコの月 5 

■静かな夕食。


ユリと食事をしたあの夜、
同窓会の案内が届いた日から
一週間が経った。



年初の挨拶だの、
年間の予算組、新たなプロジェクトの立ち上げで、
朝起きてから、会社に出勤し、



ひと段落ついて、ふと窓の外を見ると、


すっかり日も暮れて、
夜景と化した、外の風景よりも、
会社の中のデスクだの、
蛍光灯だのが反射して、映り込む。




それが帰宅の合図にな

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月の壁 ~ミナコの月 4

月の壁 ~ミナコの月 4

■17年。



高校の同窓会の案内状が届いた翌日、
ミナコはいつものように、いつもの電車で出勤した。



1月の、冷たく乾いた風が、
ミナコの白いコートの裾を、
幾度となく、ひるがえしていく、そんな朝だった。



会社のロビーを抜けて、エレベーターに向かうミナコの靴音に
前を歩いていた、黒いコートを着た、若い男性社員が振り向いた。



「あっ、おはようございます、主任。」

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アナタガイテモ イナクテモ。

アナタガイテモ イナクテモ。

星が星として 夜空を流れていくように
雲が雲として 形を変えていくように

空気のように漂っていて ただそこにあって 
意識もしない 気づきもしない
当たり前にあるように

忘れてしまいたい わけじゃない
忘れてしまった  わけでもない

アナタガイテモ イナクテモ
わたしの普通が あるように

私は私のままで 此処に居るだけ。

透き通る光 分かれて色めく世界
分離のprism 赤橙黄緑青藍紫

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月の壁 ~ミナコの月 3

月の壁 ~ミナコの月 3

■葉書



月がすっかり西に沈み、
街灯の明るさで、星のあかりも消された頃、
ミナコは自宅マンションに戻っていた。



エントランスをくぐり、郵便受けを確認すると、
青木ミナコ 様 と、
自分の名前が印刷された封書が一通、
投函されていた。




ミナコはポストの鍵をあけ、
封書を取り出し、すぐさま差出人を確認した。


どこか、見覚えのある名前…

…だけど、一体、この人

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月の壁 ~ミナコの月  2

月の壁 ~ミナコの月 2

■記憶のペイジ。



女性の私から見ても、ユリは可愛い。


それも、幼稚な可愛らしさじゃなくて、
なんというか、



こう、ちゃんと大人なんだけど、
ちょっとした仕草とか、
ふとした表情とか、
まなざしとか、



人に可愛くみられたい とか、
そういう、したたかな計算じゃなく
自然の可愛らしさ。




それなりにしっかりもしててるけど、
いい感じで抜けてもいる。

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月の壁 ~ミナコの月 1

月の壁 ~ミナコの月 1

■ 約束。


「ねぇ、あのさ、ミナコ、
ほら、この前さ、
一緒に観に行こうって言ってた映画、あったでしょ。

あれさ、
ちょっと、ワケあって、別な人と行くことになっちゃって…
一緒に行けなくなっちゃった。
…ごめん。」



ユリは、ほんの少し、肩をすぼめて、
ミナコを覗き見るようにしながら、
申し訳なさそうに、ごめんと小さく手を合わせた。



ユリとは、高校時代からのつきあい。

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おかえりなさい。~HUG~

おかえりなさい。~HUG~

わたしは なにを 急いでたんだろう?
わたしは なにを したかったんだろう?

朝、目が覚めて 昨日の私は どこにもいない。
昨日の私を探しても 今日の私は 昨日にいない。

まっしろな時間が 雲のように流れてく。
私はここに 変わりなく居る。

はるか彼方の アタシのミライが
ここにおいでと 手招きしてる。

わたしは どこに 行きたかったんだろう?
あれしてこれして、それが一体、何だった

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「今」が、ある だけ。

「今」が、ある だけ。

先のことなんて わからなくていい。
先になったら それは 「今」になるから。

今、「今」が あるだけ。
今、「今」が あるだけ。
今、「今」が あるだけ。

今、「今」があるだけで
僕らはいつも「今」にしかいない。

先のことなんて わからなくていい。
わかったときに それは「今」になるだけ。

今、「今」が あるだけ。
今、「今」が あるだけ。
今、「今」が あるだけ。

今、「今」があるだけ

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