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月の壁 ~ミナコの月 5 

■静かな夕食。


 
ユリと食事をしたあの夜、
同窓会の案内が届いた日から
一週間が経った。
 

 
年初の挨拶だの、
年間の予算組、新たなプロジェクトの立ち上げで、
朝起きてから、会社に出勤し、

 
 
ひと段落ついて、ふと窓の外を見ると、

 
すっかり日も暮れて、
夜景と化した、外の風景よりも、
会社の中のデスクだの、
蛍光灯だのが反射して、映り込む。


 
 
 
それが帰宅の合図になっていた。
 

 
 
 
19時を過ぎて会社を出て、
駅の近くのスーパーで、お惣菜を買って帰る。


 
 
ミナコは、
このところ、そんな毎日を繰り返していた。


 
 
今日は金曜日。



 
週末ということもあり、
いつもより、少しだけ遅い時間の帰宅になってしまったけれど
明日は休みだと思うと、気分は軽かった。


 
 
 
「ただいま~、遅くなっちゃった~」


 
ミナコは、そう言いながら、
誰もいない家の鍵を開けて
すぐさま玄関の照明のスイッチを押した。

 
 
 
ぱっと明るくなった玄関で
「よっこいしょっ」と、
少しむくんで、靴を脱ぎにくくなった足を
グレーのパンプスから解放した。
 

 
 
「はぁ~、やれやれ。
今週も、ようやく終わったわ。。。」と、

 
むくんだ足を数回さすりながら、
パンプスからスリッパに履き替え、

じんわりと、足の開放感を感じながら、
いつものように、ゆっくりと、リビングへと向かった。
 
 
 

暗がりの中、
通勤用のグレーのバッグと、
お惣菜の入った、小さめの青いエコバッグを
ダイニングテーブルの上に置き
リビングの照明をつけた。



明るくなったリビングのダイニングには、
ついさっき、暗がりの中で、ミナコが置いた
通勤用のグレーのバッグと、青いエコバックが
ぱっと照らされて、色を取り戻した。

 

ミナコは、ダイニングに戻り、エコバックを持ち上げると、
そこには、
ここのところ忙しくて、存在すら忘れていた
同窓会の案内が置いてあった。
 
 
 
 
「あっ、…」
思い出した。。。

 
 
同窓会の案内の封書、すぐに開封したくせに、
その後、ほったらかしてた。


この一週間、忙しすぎて、
ダイニングテーブルの端っこに、ぽんっと置いたまま
すっかり忘れてたっけ。。。
 

ミナコは、エコバッグから、
ビニールに包んだお惣菜を取り出しながら
キッチンに向かい、


まずは、ご飯、と、ばかりに、


買ってきたお惣菜と、冷凍していたご飯を、
かわるがわる、レンジで温めながら、お皿とお茶碗に入れ、
一人分のお味噌汁を、手際よく、さっと作った。

 

 

「いただきま~す」

ミナコは、両手を合わせたあと、箸を持ち、
早速、用意した晩御飯をいただきながら、

 
テーブルの端っこに置いたままにしていた
同窓会の案内にチラリと目をやった。
 
 
 
 
 
…そういえば、
あの時、ユリにLINEしたんだけど、
返事、まだ来てなかったような…
 
 
 
ミナコは、口をもぐもぐさせながら、立ち上がり、
通勤用のバッグの中から、スマホを取り出して、
LINEを開いた。
 

 
ユリにしては、珍しく、
既読になっていなかった。
 

 
 LINEして、一週間、経つけど?
私からのLINEを見てない?


 
思うに、
おそらく、長押しして
内容は、見てる、はず。


うん、
ユリのことだから、見てる、はず。


 
 
 
…というか、

ユリが、私からのLINEに反応ないって…


(…って、
おそらく、チラ見はしてるハズだけどね。)
 
 

それにしても、ユリが
一週間も既読つけない上、返事が無いって、珍しい。
 
 



…なんかあったのかな?
 
 
…季節柄、風邪ひいたとか?
 
 
 
ミナコは、食事をしながら、
思いつく理由を考えてみた。

 

そして、
思いつく理由が止まった時、
箸を止めた。




そうそう、
同窓会や
ユリのことより、
 

自分自身、仕事で忙しくて、
それどころじゃなかったんだよね。


 
 
そして、ユリとは、
一週間、返事がこないからと言って、
どうにかなるような間柄でもないし。

 
 
 
 
 それに。


先週、会って食事したばかりだし。
年が明けたばかりだから、忙しいのかもね。
 


 
何かあったら、連絡してくるだろうし。


 
 
ま、いっか。


ミナコは、
それ以上、ユリのことを考えるのを止めて、
止めた箸を再び動かして、食事を続けた。
 
 
 
 
それより、自分、自分。
自分のこと。

 
私、今週、忙しくて、すごく頑張ったんだよ。
よしよし、ミナコ、よくやった☆

 

自分のこと、いたわろう。


 
今日はこれからゆっくりお風呂に入って、
お気に入りの
ラヴェンダーのアロマキャンドルでも焚いて、ゆっくりしよう。

 
 
ミナコは、気持ちを切り替えた。


 
 
 
そして、ふと、思った。



 
 
それに…
ユリが同窓会に行く、行かないからって、
自分も行く、行かないって決めるのも、なんだしね。
 
 
 
だいたい、そもそも私、群れるのって好きじゃないし、
誰かの意見に左右されて、動くタイプじゃない。
 
 
 
 
学生時代、
当時、女子がみんな、トイレに友達と連れだって行くことに
すっごく違和感を感じていて、
 
トイレだって、
自分から誰かを誘って、一緒に行くこともなかったし。
 
それはユリから誘われたって同じで。


ユリも、それ、分かってたから、他の友達は誘っても、
私のことは誘わなかったし。
 
 
 
ミナコは、そんな高校時代の自分を思い出して、

ふっと笑った。
 
 
 
同窓会かぁ…、どうしようかな…。。。
 
 
 
 

 
「ごちそうさまでした。」
ミナコは、手を合わせた。
 
 
 
 
一人だけの、静かな夕食が終わった。
 


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